2009.05.05
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アイデンティティ教育って必要ですか?

アグネス・チャンです。今日から毎月エッセイを連載します。テーマはもちろん「教育」。私は教育学博士号を取得し、3人の息子の母、日本ユニセフ協会大使としても教育は大変重要な課題。さまざまな教育問題について、私がこれまで学んだ知識や経験に基づき、学校や家庭教育の場で役立つ助言ができればと思っています。よろしくお願いいたします。第1回目は「アイデンティティ教育」です。

将来の目標を立てられない今の中高生

 新年度が始まり1か月、いわゆる五月病が生じる時期です。中には就活がうまくいかず、失業中の方もいるでしょう。そんな時「自分はまるで価値のない人間ではないだろうか」などと悩むことも多いはず。人はこのような「アイデンティティ・クライシス」、つまり“自己確認の危機”が人生に3回訪れると言われています。最初は思春期、次に就職や結婚をする時期、そして高齢期に入る前。

 とくに今の中高生は「日本はよい社会ではない、将来は明るくない、大人になりたくない、競争せずマイペースでいきたい、けれど今は幸せ」といった意識傾向があり(参照:日本放送出版協会『NHK 中学生・高校生の生活と意識調査』)、自分の将来や大人になった姿が見えてこない子が多いようです。

 これは、親や社会の意識が子どもにうつったとも言えます。バブル崩壊後、頑張れば国も自分たちも豊かになるという時代は終わり、子どもたちは「一生懸命働いてもリストラされるかもしれない」、「もう私たちは両親や祖父母のようには豊かになれないのでは?」と薄々感じ、自分の将来の目標を立てにくくなった結果、無気力になっているのです。

 無気力になれば生きていく楽しみがない。命の大切さを実感としてわからない子どもたちが予想外の行動に走ることも不思議ではありません。アイデンティティ・クライシスの時期に一つの自殺のピークがくることからもわかります。

アイデンティティ教育で自己確認をさせよう

 この危機を子どもたちが乗り切るためにはどうしたらよいか。そこで提案したいのが「アイデンティティ教育」。「自分はどんな人間か? 何のために生きているのか」見えなくなっている子どもたちに、自分探し、自己確認をさせ、「人は誰でも目的を持って生まれてきている」、「誰もが幸せになれる力を持っている」ことを伝える教育です。

 思春期前から始めるのが理想的。身体の成長が治まる中学3年生頃までには一度は自己確認をさせましょう。それができずにいる子どもは、幼いままの精神を高校、大学、社会人になってもひきずり、大人になりきれないことになります。

 また、高校生になれば進路を考え文系と理系に分かれて授業を受けますから、中学生までに自分の将来やりたいことを見つける必要もあります。自己確認できなかった高校生ははっきりした目的意識もないまま、ただ成績を上げるためだけの学習を続けるしかありません。ちなみに私の場合は中学時代の先生が自分探しの手助けをたくさんしてくれました。

子どもに自分の役割を気づかせる教育

 具体的な方法は、子どもに問いかけて考えさせるだけ。まず「あなたはどんな町に生まれたの?」、「なぜこの名前になったか、お父さん、お母さんに聞いてきて」、「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの名前を知っている? 二人はどこから来たの?」などの質問からスタート、自分や家族の歴史、生まれた町について掘り下げていきます。

 その上で「あなたの夢は何?」と。もしも「パイロットになりたい」と答えたら、「じゃあ、どうすればパイロットになれるかな?」と必要な条件を調べさせます。すると「私は高所恐怖症だから難しい」など、自分と社会との関わりがいろいろと見えてきます。そして自分がもっとも生き生きできる場はどこか、意識させるのです。

 子どもは「なぜ人間は死ぬのか」といった哲学的な疑問を抱くこともあります。これにはキリストや釈迦やさまざまな偉大な思想家の解釈(ウィキペディアの基礎知識程度)を聞かせ、「先生自身もわからないよ」で十分。その中から子ども自身が共感できる説を見つけられればいいし、大人もいかに悩みながら生きているかが伝わればいいのです。

「大人になりたくない」という子どもにさせないことも大事。それには3歳頃から子ども扱いしないこと。小さいうちから家事も分担させ「あなたは家族の中で大きな柱になっている。世の中に提供する力をいっぱい持っている」と意識させれば、子どもは自ずと「自分には責任があり、その分励みもある」と覚えていきます。

 アイデンティティ教育は学校でも家庭でも取り組むべきです。子どもには「この世の中で自分の役割は必ずある」と信じ、夢を持って生きてほしい。子どもが無気力だと大人も頑張れません。社会は子どもの生きるエネルギーによって活性化しているのですから。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:宝子山真紀/イラスト:あべゆきえ

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