2017.12.29
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待ちに待った冬休み!

9月から始まった後期の授業も今日で終わり。
明日から約2週間の冬休みです。最後の授業が終わると
教室を飛び出していく彼らは、いったいどこへ行くのでしょうか?

近畿大学 語学教育センター 准教授 高橋 朋子

学生は日本の休みをどこで堪能するのかご紹介したいと思います。

■ 東京と大阪

短期滞在の留学生は、休日をめいっぱい利用して
日本各地へ旅行に行くチャレンジャーが多いです(もちろん行かない人もいます)。

近畿大学は大阪にありますので、日ごろの休日は大阪近辺で、
長い休日は関西以外のところへ行くようです。
一番人気なのは、やはり東京!
とにかく東京には一度ぐらい
行かないと日本に来たことにはならない、ぐらいの
勢いで東京に行きます。
新幹線で行く人も多いですが最近人気なのは、夜行バス!
安くて寝ていけて、しかもトイレ付。着いたら朝だった、というのが
人気の秘密。
朝6時過ぎに新宿に着くと、そこは多くの外国人で
あふれかえっているそうです。
どこの国にもバスはあると思いますが、日本の夜行バスの
清潔さや若者の利用の多さは、彼らにとってとても新鮮なようです。

東京へ行った彼らは、どこに行くのでしょうか。
TDL? 一昔前は、TDLはとても人気の場所でしたが、
今はそれほどでもないようです。大阪で一度USJに行けば、テーマパークは
堪能した、ということでしょうか。
東京から帰ってきた学生の写真には、スカイツリー、浅草、国技館、お台場などが
映っています。相撲部屋の前で、大きな力士にはさまれて写真を撮ってきた
ドイツの女子学生は、
日本語クラスの最終プレゼンテーションで「相撲と私」という発表をしました。
力士の名前や技、相撲部屋などを巧みに紹介した内容にびっくりしたのは
私で、「そんなに相撲が好きだったの?」と思わず聞いてしまいました。
しかも、相撲部屋を突然訪ねたというから本当にチャレンジャー!
写真の中のうれしそうな顔が忘れられません。

東京から帰ってきた学生は
「やっぱり関西が落ち着きますね。」(関西人の私への気遣い?)
「東京は人が多すぎて、疲れますね」
「駅の階段が果てしなく長い」などとその感想を述べますが
それは近畿大学が東大阪という場所にあるからかもしれません(笑)

■東京の次はどこへ行こう?

東京に行って、日本の都会を堪能した彼らが
次に向かうのは、広島!
宮島と厳島神社の美しさに「なんて言ったらいいかわかりませんが
きれいとか、美しいとか、そんな簡単な言葉じゃなくて、、
うーん、日本語では(なんといえばいいのか)わかりません」と
言います。荘厳とか、奥が深いとか、心の浄化とかそんな風に感じたようです。
それに、
「広島の人はやさしい」、「食べ物が安くておいしい」という学生も多いです。

■やはり捨てられない京都

京都は学生の国を問わず、人気のある都市です。
来たばかりの学生が、清水寺の写真を出して「ここに行きたい」と
最初の週末に出かけていくことも多いです。
私も、何十回聞かれたことか。
東大阪から清水寺までの行き方が頭にインプットされていて
すらすら(!)教えてあげられるようになっています。
伏見稲荷の千本鳥居も必ず行って、必ず写真を撮ってくる場所ですね。
あの美しさと色のコントラストは、誰をも惹きつけるようです。

■ それから

九州の別府、最近とみに行く学生が増えた白川郷、長期休暇には、雪のない国から来た人が
ツアーで行く北海道など、日本には「一度はたずねてみたい場所」がいくつもあります。
夏には沖縄に行く学生も多く、友人と沖縄に行ったオランダの学生は
「あそこは日本ではありません」と言っていました。
「どこが?海?ことば?」と聞くと
「におい、それから、町の景色、そして物価がすべて旅行者値段!」とにんまり。

一昔前は、日本=東京、なかでも秋葉原に行きたい学生が多かった記憶があります
その後、いわゆる地方都市の人気が高くなりました。
いくつも電車を乗り継いで、バスに乗って、歩いて、といった必ずしも
便利ではない旅行。
民泊やカプセルホテル(とても好評!)など安いところに泊まって
近くの温泉や銭湯に行ってみる旅行。
インスタに挙げられている写真を見て、地元のおいしい料理を探しだし、
思い切り食を堪能する旅行。

お仕着せのツアーやいわゆるゴールデンルートと呼ばれる
有名都市ばかりを回る旅行は、いつしか
自分で目的地を探し、地元の中に入り込んでいく手作りの
旅行へと大きく変容しているようです。

大学は、かなり閉じられた空間です。
同じような年齢、同じような専門の人々が集まるので
話す内容や話し方、興味関心があるものもおのずから似てきます。
留学生も「外国から来た学生」として守られているところもあるでしょう。
しかし、一方大学の外へ出れば、そこにいるのは自分だけ。
日本語を使い、翻訳ソフトを駆使して、人々と接触していくのです。
帰ってきたら日本語の力が、アップしていると感じるのは
私だけではないでしょう。


■自分の五感を大切に

彼らの旅行を簡単にしているのには
いくつもの理由があります。
「旅行者へのサービス」の質の向上、
看板やメニューなど多言語の表記、免税など買い物での優遇、
民泊など宿泊施設の増加、SNSなどでの情報共有とネットワーク、
各商業施設に多言語を話せる人の配置などなど。
経済的に余裕のある学生が増えていることも一因でしょう。

旅行は、短期長期に関わらず
インスタグラムやfacebookの写真では決して触れることのできない
その場所の風の強さや空気のすがすがしさ
食べ物のにおいや味、
人々が話す日本語が持っている温かさや方言、
に触れる絶好の機会です。
何より、写真はその風景の一部だけを都合よく
切り取ったもの、「盲人象をなでる」になりかねません。

自分の目で見て
自分の耳で聞いて
自分の手で触って
自分の舌で味わって
自分の体で感じて
それが本当の「体験」ではないでしょうか。

留学生にもいろんな顔の日本を見てほしいと思います。
1月の最初の授業の日、どんな顔をして教室に入ってくるでしょう。
とても楽しみです。

高橋 朋子(たかはし ともこ)

近畿大学 語学教育センター 准教授
留学生への日本語教育、地域の日本語教室の支援、外国にルーツを持つ子ども達の母語教育支援活動をしながら、多文化・多言語社会について考えています。

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