■ フェアウェルパーティ
半年間(ある人は1年間)の交換留学生としての生活も
とうとう最後の日が来ました。大学の後期試験が終了するのを
待って、フェアウェルパーティ(お別れ会)が開かれました。
今年は、私に乾杯の音頭が回ってきました。壇上に立って
皆の顔を見回すと「先生、がんばってー!」と優しい応援の声が
聞こえます。それぞれのコップにジュースを入れて、乾杯の準備を
始めるのですが、いきなりごくごくと飲みはじめるフィンランドの学生に、
歌い出すスペインの学生。おしゃべりしだすアメリカの学生。どうやら
みんなでグラスを持って、壇上の誰かの挨拶を聞いて、「かんぱーい」と
するのは日本だけ? そこで忘れずに「日本流の乾杯をします」というようにしています(笑)。
私「みなさん、とうとう最後の日になりましたね」
学生たち「イェーイ!!」「ヒューヒュー♫」
私「日本での大学生活はどうでしたか」
学生たち「おもしろーい」(この声は、フランスの学生だ!)
「よかったでーす!」(モロッコの学生!)
「サイコー!」(ドイツの学生の声だなー)
私「みなさんの思い出を大切にしてくださいね。」
「また日本に来てくださいね。それでは かんぱーい!」
学生たち「かんぱーい」
■ 半年で伸びた日本語
私の問いかけに応えてくれたフランス、モロッコ、ドイツの学生たちは
半年前、一言の日本語もできない状態で来日。
週に2回の基礎日本語と英語での専門科目を学習しながら
サークル活動や国際交流イベントに参加していました。
教科書で学ぶ日本語と日本の大学生が話す日本語が
「ちょっと違います」
「彼らの話、ちょっとわかりません」と言うので
授業では、大阪弁も取り入れました。
例えば、
『えっ、本当ですか』というセンテンスは
「えええ〜(後ろを高く上げるのが大阪弁です)、ほんま?」
『すばらしいですね』という表現は
「すごい」— 女子学生に
「すっげえ」— 男子学生に
変えてみたところ、この「すっげえ」を気に入ったある学生が
あちこちで使ってみたところ、場が和んだり「どこで覚えたの?」と
話しかけてもらえたり、とけっこう使い勝手がよかったらしく
「この言葉を一番に覚えたら良かった」と言っていました。
日本人の学生は 「やばい」もよく使うよと教えてくれたそうです。
私達教員は、どうしても正しい日本語を教えたがりますが、
実際のコミュニケーションで使用するのは、方言やスラングがほとんど。
基本だけ教えて、あとは友だちに教えてもらうというのがいいようです。
■ 涙ではなくスマイル!
お別れ会とはいっても涙はゼロ。みんな歌ったり、肩を組んで写真を撮ったり(まるで組体操のように見えました。)それぞれの思い出話に花を咲かせたり、とても楽しそうに最後の時間を過ごしています。
彼らの人生のほんの一部分ではありますが、こうやって関われたことに
心から感謝です。いつも「先生ありがとう。たくさん日本語を教えてもらいました」「とても楽しかった」とお別れのメッセージをもらいますが、
いえいえ、楽しかったのは私のほう。
たくさん教えられたのは私のほう。
と心のなかでつぶやいています。
日本にいながら、十カ国以上の学生と1つの部屋で同じ時間を共有し、1つのテーマで語り合い、時々授業中に食べたり飲んだり(これは大学には内緒!でも授業に関するものだから、いいですよね!
「あまずっぱい」や「おいしい」など味の語彙を学ぶときに
いろいろ食べました〜 梅干しやどらやき、日本茶とか。)しながら、学び合うことができるのは、本当に本当に幸せだと思います。
笑ってさよならですね!
お別れ会の後、学生から送られてくる記念写真を順に見ながら
そんなことを考えました。
国に帰って日本語を勉強し、また留学してくる学生もいるでしょう。
日本に関係する企業に就職する学生もいるでしょう。
ちょっとした出会いや体験で人生が変わることも大いにあります。
彼らの将来に乾杯!

高橋 朋子(たかはし ともこ)
近畿大学 語学教育センター 准教授
留学生への日本語教育、地域の日本語教室の支援、外国にルーツを持つ子ども達の母語教育支援活動をしながら、多文化・多言語社会について考えています。
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