2018.02.01
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日本に留学して得た力と失った力

毎年、「Breakthrough 」(突破する力)について
考える授業をしています。
朝日新聞の連載記事「Breakthrough」を参考にしています。
インタビューを受けた人が、自分の成功に影響した
「自分が持っている力」を10個挙げるというものです。





近畿大学 語学教育センター 准教授 高橋 朋子


■ 〇〇力

まず最初に「〇〇力」と板書し、〇〇にあてはまる
ものを考えてもらいます。
 -集中力、持続力、判断力、決断力、思考力・・・・
など出るわ、出るわ、あっという間に40個ぐらい
出てきます。
おもしろいものになると、
 ーユニーク力、消化力、効率力、ファッション力、ごますり力・・・
などがあり、
「効率力ってなんですか」と尋ねたところ
「最低のお金で、おなかいっぱいになるための方法を考える力」とのこと。
具体的な方法を聞くと、
「安い野菜を鍋にして熱々で食べる」とか「お茶をいっぱい飲みながら
ご飯を食べる」とか色々出てきます。
「スーパーが閉まる直前に、総菜コーナーに行くと半額です!」、
さすが効率力!
「まかないのついているバイトをするのも手」という答えもありました。

「ごますり力は、誰に使いますか」
「周りのすべての人に!」
など、生活の知恵というか、生きていくための力を会得しているようです。
笑ってしまうものになると
 -美力、財力、眼力、視力、握力、涙力、笑力、恋力・・
などもありました。
「涙力って?」と聞くと
「自分の国では泣いたことがないけど、日本に来て、腹が立って
涙が出ることを知った。でも泣いたらすっきりするし、これも
1つの力と思う」との返事です。ちなみにこの学生は
「最近、流行っている涙活(泣いてすっきりするんだそうです)も
この涙力ですよ」と自信たっぷりでした。
とんちんかんな答えも多数!-原子力に磁力、波力、電力など
「これ、持っているんですか?」と尋ねてはみんなで大笑いします。

■自分を見つめて

その後、
自分の持っている力を10個考えて、1位を発表するのですが
この10個を考えるのがなかなか大変です。
そういえば、私たちは自分をそんなにゆっくり眺める、
つまり内省することがあまりないのではないでしょうか。
書いては消し、書いては消し、30分ほどかかってやっと
プリントを埋めます。
それぞれの1位~3位を発表し、それを裏付ける証拠エピソードを
話す活動に移ります。

10名の学生の1~3位を総合計すると
1位ー自立して生活する力
2位ー決断力
3位ー適応力
3位ー語学力
となりました。
どの学生も「一人で考え、一人で決断し、一人で行動し、
一人で生活する」ことができるようになったといいます。
中国から来たある女子学生は、コメント欄にこんなことを書いていました。
(原文のまま)

「私が持っている力の1位は「自立力」です。
今、振り返ってみたら、中国にいるときの私は、家族に
甘えていたただの子どもでした。
本当に恥ずかしい。今、一人で日本にいます。寂しいし、孤独だし、
つらいときも多いです。時々帰りたいなって思って
明日の不安を考えると寝られないときも多くて、いつまでこんな生活?
でも一人で生活できていることが、私を強くなれます。
今、お母さんが見たらきっとびっくりすると思う。ご飯も作れるし、
一人で起きて学校にも行く。私は私の世界を生きている」

大きな成長を感じますね。

■ 日本に来て失った力

日本に来て得た力を「自立力」とすると、では失った力は?
「女子力」
生活費を稼ぐために、重い段ボールをもって運んで
あー、私の国ではこんな仕事、絶対しない。

「財力」
いつもお金の心配ばかりしている。時々、思い切り
好きな焼き肉を食べたい。

「母語の力」
忘れちゃった!どうしよう

とのことでした。

留学生はおのずから強くなります。
日本人と交流イベントをすると、その力強さや逞しさに
日本人学生のほうが驚くことが多々あります。
それはそうですよね、言葉の違う国で
たった一人で生きている、アルバイトをして、勉強して
家賃を払って、食事を作って、洗濯をして。
そんな毎日の積み重ねで、いくつもの力を獲得していくのですね。
力の結晶がどんな成果に結びつくでしょうか。



高橋 朋子(たかはし ともこ)

近畿大学 語学教育センター 准教授
留学生への日本語教育、地域の日本語教室の支援、外国にルーツを持つ子ども達の母語教育支援活動をしながら、多文化・多言語社会について考えています。

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