2017.12.13
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子どものころに戻ったら、、、留学生のつぶやき

子どものころを振り返ってみました。
さて、留学生は、自分の子ども時代をどのようにとらえているのでしょうか。

近畿大学 語学教育センター 准教授 高橋 朋子

みなさんは、子ども時代を懐かしく思い出すことがあるでしょうか。
留学生たちの話を聞くと、子ども時代の経験や思い出が今の彼ら自身を
作っていることに気づかされます。


■子どものころに戻れたら

留学生が日本語を学ぶ読解の教材に
「今の子どもと自分の子ども時代」という読み物があります。
小さい頃は外でよく遊んだけど今は、、、というやや批判めいた文章。
それを読んだ後、短い作文を書いてもらいました。

香港の女子学生の作文です。
「 あのころは、勉強ばかりしていて、遊んだ記憶がない。
親に言われる通り勉強、勉強、勉強の毎日。それが普通だと思っていた。
今、振り返ったら少し残念だ。
子どもには遊ぶ時間が必要だ。
それを埋めるように、今の私は平日一生けんめい勉強して
週末は一生けんめい遊んでいる。
勉強と遊びのバランスが大事。これが
小さいときの経験から私が学んだことだ。」

以前にも紹介したことがありますが
アジアの学生はだいたいこのような内容の作文を
書きます。今の彼女はとても充実した生活を送っているようです。

■子どものころの私に言ってあげたい

オーストラリアの女子学生が次のような
文章を書いていました。

「小さいころの私に一言いいたい。
『今のあなたで大丈夫。大人になったあなたは
ちゃんとがんばっているよ。心配することは何もない
今のあなたのままでいて』って。
私は小さいころから、おとなしくて人見知りで
いつも友達がいなくて、ひとりで人形で遊んだり
本を読んだりしていた。
私の国の子どもたちは、活発であることを求められるから
そうじゃない子どもは、ちょっと問題だと思われて
私はとてもつらかった。」

この作文を返却するとき、次のように書きました。
「私も小さいころの〇〇さんに言ってあげたいです。
『20歳の〇〇さんはとても素敵な女性です。
優しくて、みんなに慕われています。
勉強もがんばっているし、本もたくさん読んでいますよ。
それにとてもおしゃれ!
小さい頃の〇〇さんが見たら、きっと一目で好きになると思います!』

そう書きながら、
多くの子どもたちが、自分に自信がなく、
こんな風に生きているのかなあと感じました。
よく「失敗もあとでみんな笑い話」と言います。でも
あとで振り返るのもいいけど、できれば悩んでいるそのときに
誰かにやさしく勇気づけられたい、はず、そして
その役目は、親や教師、友達ですね。

■目の敵にしないで!
中国の男子学生です。
「親や先生は、よくゲームやスマホを目の敵にして
僕たちを攻撃したり、「今の子どもは問題だ」という。
でも、生まれた時からそこにあったんだから
今更ない状態を想定して話をされても、理解できない。
それなら、ICTをうまく利用していく方法、
依存しないような使い方を子どものころから教えるべきじゃないのか。
いつもだめだめって禁止ばかり。そうすればもっとやりたくなるのは
普通だろう。」

こんな風に考えているのですね。

■子ども時代がなかった?
最後に、マレーシアの学生です。
「私の家は貧しかったので、私は子どもなのに
大人みたいにふるまって、大金を稼ぎたいといつも考えていました。
ある日、友達が「家に遊びに行っていい?」と言ったので
簡単な地図を書いてあげました。
でも友達は次の日、「昨日、〇〇ちゃんの家にいったけど
あそこには汚い家しかなかったよ」と言いました。それは
私の家だったのです。
でも私は悲しくなくて「あの子は子供だから、仕方ないよね」と
自分で自分を支えました。
その日から私はもっと自分の世界を大切にするようになりました」

その後、日本文学と出会い、彼女の中に眠っていた才能が花開きます。
彼女が書く文章は、文法が初級レベルとかそんなものでは測れない
あふれ出るパッションのようなものがあり、読む人の心を打たずにはいられません。
子ども時代のこのような葛藤と経験が、彼女の文章に、人や社会に対する
深くて静かな愛を与えていると感じます。


ともすれば、子どもたちや学生の現状や考え方を無視して
自分たちの価値観を押し付けがちになってしまいますが
学生たちの作文を読みながら
日々、私も考えさせられたり、自分の幼少時代に思いをはせたり
しています。

たまたま、教員という立場で授業を担当していますが
実は私のほうが、学生から多くのことを学んでいるのです。

高橋 朋子(たかはし ともこ)

近畿大学 語学教育センター 准教授
留学生への日本語教育、地域の日本語教室の支援、外国にルーツを持つ子ども達の母語教育支援活動をしながら、多文化・多言語社会について考えています。

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