大人のための「準備された環境」
アメリカ・モンタナ州ボーズマンで、モンテッソーリ保育士として日々子どもたちと過ごしながら、地元の州立大学院で学びを続けています。
今回は、新学期を前にスタッフルームを整えながら考えた、子どもたちのための環境を支える大人たちの「準備された環境」について綴ります。
ボーズマン・モンテッソーリ保育士 城所 麻紀子
子どもたちの環境を整える大人たち
前回、モンテッソーリ保育園とメンタルヘルスは、思っていたよりずっと関係があるのだと書きました。
子どもたちは、大人の表情や声の調子、教室にある緊張した空気を敏感に感じ取ります。だから、子どもたちの環境を整える大人自身が、安心して働けることも、教育環境の一部なのではないかと思うようになりました。
モンテッソーリ教育では、子どもが自分で活動を選び、集中し、安心して過ごせるように、「準備された環境」を大切にします。
では、その環境を整える大人たちは、どんな場所で休憩し、食事をし、教材をつくり、次の仕事へ戻っていくのでしょうか。
新学期前のスタッフルーム
夏セッションが終わり、今週は新学期に向けた準備と社内研修を行っています。
子どもたちがいない園では、教室の教材を確認し、棚を整え、新しい学期の流れを話し合っています。その一方で、私はスタッフルームを整理しました。
スタッフルームは、先生たちが休憩を取り、お昼ご飯を食べ、教材をつくり、短い時間でも少し息をつくための場所です。
けれど、この部屋は気をつけないと、すぐに倉庫のようになってしまいます。使わない教材、イベントで使ったグッズ、古い書類、誰のものかわからない物、いつか使うかもしれない物。
子どもたちの教室を整えることは優先されても、大人が過ごす場所は後回しになりやすいのかもしれません。
小さな一人プロジェクト
以前から私は、スタッフルームを少しでも自分自身がほっと一息つける場所にしたいと思っていました。
テーブルにクロスを敷き、庭の花を一輪飾る。壁には、海や森の写真が載った雑誌の切り抜きを貼る。
お金をかけず、特別な物を買わず、目に入ったときに少し気持ちがゆるむものを置く。それだけの小さな工夫です。
最初は、「勝手に変えていいかなあ。みなさん好みが違うしなあ」と思い、とても控えめに始めました。なんとなく、一人でひそかに進める小さなプロジェクトのような気持ちでした。
ところが、何人ものスタッフがすぐに気づいてくれました。「ありがとう」と声をかけてくれたり、スタッフ共有アプリに写真を投稿してくれたりもしました。
「へえ、みなさん見てるものね」と少し驚きました。
でも、毎日働く場所が少し心地よくなれば、気づくのは当たり前のことなのかもしれません。
事務局の方にも、「この調子で、好きなようにやってくれていいからね!」と言ってもらいました。控えめに始めたことにお墨付きをもらったようで、やる気が湧いてきました。
片づかない気持ちもある
ただ、スタッフルームをきれいにしたからといって、すべてが解決するわけではありません。
昨日、今期の契約書が送られてきました。給与や役職名を見て、少し気になることがあり、質問のメールを送りました。
今年の私は、各先生が休憩を取ったり、お昼ご飯を食べたりする時間に教室へ入り、クラスを支えます。子どもの数が20人を超えたら、専任としてクラスに入る予定です。
その仕事には意味があると理解しています。それでも、契約書に書かれた給与や役職名を見ながら、自分が担う仕事はどのように見られているのだろう、と少しすっきりしない気持ちになりました。
心の健康を「セルフケア」だけで守ることはできません。テーブルクロスを敷いても、役割への違和感や、人手不足、賃金、将来への不安まで解決するわけではありません。
できることから
それでも、スタッフルームを倉庫にしないことには意味があると思っています。
疲れたときに、少し座りやすい場所があること。お昼ご飯を食べながら、海や森の写真が目に入ること。誰かが「ここを少し心地よくしよう」と考えてくれたと感じられること。
小さな工夫だけで職場の課題を解決することはできません。でも、それは、働く人を大切にする文化の小さな始まりにはなるかもしれません。
子どもたちの教室に細かな心配りをするように、大人が休憩し、教材をつくり、気持ちを切り替えられる場所にも心を配る。
大きな問題をすぐには変えられなくても、何もできないわけではない。今回のスタッフルームづくりは、大人たちのための「準備された環境」へ向けた、小さな一歩なのだと思っています。

城所 麻紀子(きどころ まきこ)
ボーズマン・モンテッソーリ保育士、元サンディエゴ日本人向け補習校講師、モンタナ州立大学院家族消費者科学科 修士課程
2020年からアメリカのモンタナ州の人口5万人の町で、モンテッソーリ保育園の保育士をしています。
アメリカといっても、白人約90%、アジア人約2%(最近増えました!)という環境です。
あまり日本人の方に知られていない、アメリカの田舎での教育や生活の様子などを共有できたらいいなあと思っています。
同じテーマの執筆者
ご意見・ご要望、お待ちしています!
この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)
この記事に関連するおススメ記事
「教育エッセイ」の最新記事













アグネスの教育アドバイス
映画と教育
震災を忘れない














この記事をクリップ
クリップした記事
ご意見・ご要望








