2026.01.05
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年内最終日。りんごケーキと「参加してもいい?」~モンテッソーリ保育にみる、5・4・3・2歳とひとつのテーブル

アメリカ・モンタナ州のボーズマンという町で、モンテッソーリ保育士として働くかたわら、大学院でも学びを深めています。ボーズマンは今年はとても暖冬で、雪もすっかり溶けてしまいました。
今日は年内最後の登園日。明日の発表会は、今年は教室ではなく教会で行われるそうです。

ボーズマン・モンテッソーリ保育士 城所 麻紀子

りんごケーキの輪

最終日、アート担当の同僚は明日に向けて工作の仕上げに大わらわ。わたしは特に担当がなく、おやつ用のりんごが余っていたので、りんごケーキを作ることにしました。

料理に興味をもっていて、手持ち無沙汰にしていた2歳の子に声をかけると、「作りたい!」。それを見た子どもたちが、「私もやりたい!いい?」「僕もできる?」と、目を輝かせて集まってきました。
この瞬間は毎度ながら、胸があたたかくなります。「やりたい!」で終わらず、「参加してもいい?」と聞いてくる感じが、なぜかとても好きです。

4人がけのテーブルなので、普段は子ども3人と私で合計4人まで。でも今日は最終日ということで、椅子を1つ持ってきて、4人の子どもたちと作ることにしました。偶然、5歳、4歳、3歳、2歳。異年齢だと、やり方も待ち方も、生活の中で自然に伝わっていきます。

教室の約束ごと

モンテッソーリの教室には細かなルールがあります。
参加したい子が全員参加できるわけではなく、すべての教具も、「これは1人用」、など決まりがあり、子どもたちはそれを守って使います。
こういう制限は窮屈に見えるかもしれませんが、誰かの集中を守ったり、順番を待つ時間を安心して過ごしたりするための、教室の約束事でもあります。

順番とチーム

わたしが台所に物を取りに行っている隙に、5歳の学級委員タイプの女の子が、「このボウルの中は手で触ってはだめよ!手にはばい菌がついてるから、食べられなくなっちゃうからね!」と、ちゃきちゃき仕切り始めました。

材料を計量カップとスプーンで、順番にボウルへ。
わたしがベーキングソーダを持って「これは、なんでしょう?」と聞くと、先週バナナケーキを作ったときに参加した4歳の子が「ベーキングソーダ!」と即答。
すごい記憶力だなあ、とびっくりしました。

「今度は私が先!」と小さなけんかが起きかけても、「わたしたちはチームだから、ケーキを作りながらけんかはしないよね」と、最終日で心に余裕のあった私が穏やかに声をかけると、すぐ落ち着きました。

見物のルール、りんごの出番

いつも通り、見物の子どもたちも集まってきました。
材料に触りそうになるたびに、5歳と4歳が「触っちゃだめだよ!」と諭しているのが頼もしい。
それでもこっそり手が伸びるので、「見物するには、手を後ろに回して見てね」と言うと、きちんと手を後ろに回して見ています。

最後は、りんごをりんごカッターで切って投入。
これが意外と、子どもたちの力の様子を測れるんですよね。
厚いりんごは4・5歳に「この一番厚いの、切れるかな?」、薄いのは2・3歳に「これで頑張って」。
異年齢で生活していることを、ふと実感する瞬間でした。

覚えていなくても、残っていくもの

そんな中、2年前にこの教室にいた子が、りんごカッターで手を切ったことがある、という話が出ました。旅行で休んでいた子が戻ってきたときには、もうその子はいなかったそうです。ちょっと休んでいるだけだと思っていたら、保育園をやめてしまい、もう会えなくなった、と。

当時わたしは休職していて、その話を初めて聞きました。「彼女のお姉ちゃんも?」と尋ねると、「お姉ちゃんは先に卒園していったよ」と、当時3歳だったはずの子が即答する。私自身はその頃の記憶がほとんどないのに。

どこまで頭で覚えていられるのかは分からないけれど、この時期に身体や五感で経験したことは、人生にどう残っていくんだろう。そんなことを、ふと思いました。

匂いと、明日の歌

明日は歌の発表会。リハーサル中に台所で食器を洗っていると、「まき先生!明日、参加するよね?ちょっと来て」と声がかかりました。どうやら歌う子どもたちの脇に立つらしいです。
今まで歌の練習に参加してこなかったので歌詞を知らないのですが……さて、明日はどんな日になるのでしょうか。楽しみです。

そして今日、オーブンからふわっと立ち上がった、りんごとシナモンの甘い匂い。ボウルをのぞき込む顔、順番を待つ時間、手を後ろに回して見ていた背中。

そういうものが、出来事の記憶というより、感覚の記憶として残っていくのかもしれません。明日の歌もまた、子どもたちの中のどこかに、静かにしまわれていきますように。

城所 麻紀子(きどころ まきこ)

ボーズマン・モンテッソーリ保育士、元サンディエゴ日本人向け補習校講師、モンタナ州立大学院家族消費者科学科 修士課程


2020年からアメリカのモンタナ州の人口5万人の町で、モンテッソーリ保育園の保育士をしています。
アメリカといっても、白人約90%、アジア人約2%(最近増えました!)という環境です。
あまり日本人の方に知られていない、アメリカの田舎での教育や生活の様子などを共有できたらいいなあと思っています。

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