「管理統率」から「状況調節」へ ――多様性の包摂に向けた新しい学級経営の在り方(1)
これまで、多様性の包摂について述べてきました。ここからは、まとめの3部作に入ります。
これまで現場の先生方から寄せられた「思い通りにいかない」「どう寄り添えばいいのか分からない」といったリアルな葛藤や疑問をひとつひとつ受け止めていきます。
まずは、なぜこれまでのやり方(管理統率型の学級経営)だけでは苦しくなってしまうのか。
そして、これからの教室をどのように先生と子どもにとって心地よい場にデザインし直せるかという全体像を、分かりやすく整理してお伝えします
埼玉県公立小学校 石井 雄大
ひとつにしようとしすぎることで生まれる不適応
教室で起こる悩みやトラブルに直面したとき、「自分の指導が至らないのではないか」「あの子の特性のせいだろうか」と、一人で抱え込んでしまうことはありませんか?
ですが、決して教師自身や子どもたちを責めないでください。現在起こっている不適応やしんどさの多くは、子ども個人の問題や、教師の指導力不足だけが原因ではありません。
子どもたちの間にある成長の差や成熟度の違い、多様な背景と、これまで学校が大切にしてきた「みんなで同じ場所で、同じことを、同じペースで育む」という仕組みとの間で、環境のミスマッチが生じているからなのです。
一生懸命に子どもたちを、教室という一つの箱にまとめようとすればするほど、成長のスピードやタイミングが異なる子には、小さな無理がかかってしまいます。
だからこそ、今、教室でSOSを出している子は、決して「困った子」なのではありません。むしろ「今のやり方だと、ちょっと苦しいよ」と、身をもって教えてくれている存在なのです。
「みんなを一つにまとめなきゃ」という肩の力を、少しだけ抜いてみませんか。
不適応が起こってしまうのは自然なことであり、そこが出発点なのだと捉え直すこと。その温かな視点こそが、先生も子どもも誰もが心地よく過ごせる、包摂の第一歩となっていくはずです。
公平と公正を大切に
特定の子の特性や背景を理由に、「あの子は特別だから」と大人の都合で裏でこっそり対応を完結させたり、何でも免除してしまったりすることはありませんか。
それは優しさのように見えて、実はその子が課題と向き合い、成長する機会を奪ってしまうことにつながります。また、事情を知らない周りの子どもたちの中にも「あの子だけズルい」という不公平感が生まれ、クラスの信頼関係が崩れてしまう原因にもなりかねません。
だからこそ、配慮を大人の都合でブラックボックスの中に隠してしまわないことが大切です。
「人にはそれぞれの成長のステップがあり、得意なこと、苦手なこと、今練習していることがあるんだよ」という当たり前の現実を、クラス全体に包み隠さずオープンに伝えていきましょう。
全員にまったく同じものを配る公平さではなく、今その子に必要な手立てやステップを届ける公正な視点を持つこと。特性を理由に諦めてしまうのではなく、一人の教師として目の前の子どもの現実とまっすぐ向き合い続ける姿勢こそが、クラスの中に本当の安心感と納得感を生み出していくのです。
教室の在り方を捉え直す状況調節という視点
一つににまとめようとする学級経営から一歩踏み出し、先生も子どもも楽になるためには、どのような教室を目指せばよいのでしょうか。
その答えが、子どもたちの状態に合わせて環境を柔軟にコーディネートしていく状況調節型の学級経営です。
学級経営とは、決して全員を教室という四角い箱の中に、ずっと閉じ込めておくことではありません。むしろ学級を、学校の中にあるさまざまな居場所や温かな支援へとつながる中心点として捉え直してみませんか。
子どもが今抱えている苦しさや、心のエネルギー残量に合わせて、時には別室や特別支援学級、保健室といった多様な居場所を戦略的に活かし、その子にとって今一番学べる環境をデザインしていくのです。
たとえ過ごす場所が一時的に離れたとしても、「ここはいつでもあなたを待っているよ」と心でつながるセーフティネットを張っておくこと。
何が何でも教室に留めることをゴールにするのをやめ、学級を中心とした重層的なネットワークの中で子どもの尊厳と学びを守っていく。
この状況調節への柔軟な発想の転換こそが、先生の肩の荷を下ろし、誰一人取り残さない優しい包摂の土台となっていきます。

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