2026.08.11
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「分からない」がクラスの宝物になるまで 心理的安全性が支える跳び箱運動の試行錯誤

授業中、児童の「分からない」の一言を、あなたならどう受け止めますか?
跳び箱が跳べずに悩んでいたAさん。しかし、彼のその「つまずき」をクラス全体にシェアした瞬間、子どもたちの思考が一斉に動き始めました。
なぜ、一人の「分からない」がクラス全員の成長につながったのか。失敗を恐れずに高まり合える、クラスづくりのヒントがここにあります。

愛知県東郷町立春木中学校 教諭 阪野 一輝

跳び箱運動で生まれたAさんの「分からない」

自分の力に合わせた課題を設定し、それぞれが練習に熱中し始めたころ。
跳び箱運動の授業で、思わず目にとまる場面がありました。
一度動きを止め、浮かない顔をして立ち止まっているAさんがいたのです。
気になってAさんに声をかけてみると、こう教えてくれました。

「奥に手をつくポイントは分かったんだけど……どうしたら奥に手をつけるのかが分からないんだ」

動画分析や周りのアドバイスを通し、Aさんは「跳び箱の奥の方に手をつくことが大切だ」というポイント自体は理解していました。
しかし、実際に跳び箱に向かうと、どうしても手前の方に手をついてしまい、うまく跳び越えられずに悩んでいたのでした。

知識としては理解している。でも、体は思うように動かない。そのもどかしさが、彼の表情から伝わってきました。
自分のつまずきを正直に言葉にしてくれたAさん。私はこの「分からない」というつぶやきを聞き逃さず、あえて一度全体を集めて、みんなに投げかけてみました。

「Aさんが『奥に手をつくコツは分かったけど、どうすれば奥に手をつけるのかが分からない』って教えてくれたんだ。みんな、どうしたらいいか一緒に考えてくれないかな?」

一人の「分からない」をクラス全体で共有した瞬間、子どもたちの思考が一斉に動き始めました。

クラス全体で跳び箱のコツを考える

「速く走ったら勢いでいけるんじゃない?」
「でも、スピードが上がると怖いかもしれないよ。大きなカエル跳びみたいに、手を遠くに大きく伸ばす練習をするのはどう?」
「確かに!それなら感覚がつかめそう」
「遠くに手を伸ばすためには、踏み切りを強くしないと届かなくない?」
「そしたら、『ト、トンッ』って感じで足元を力強く踏み切るといいんじゃないかな」

子どもたちの対話の中で、アイデアが次々と重なっていきます。
一人の子がその場で見本を見せてくれたことで、「大きなカエル跳びのイメージ」と「ト、トンッという踏み切りのリズム」という2つのコツがクラス全体に共有されました。

「なるほど!じゃあ、みんなで一度そのカエル跳びの練習も試してみようか」

私の提案で、まずは全員で手を遠くに伸ばす「大きなカエル跳び」を試してみました。
身体感覚をつかんだ子どもたちは、そのまま意図を持って自分の跳び箱へ向かっていきます。

「分からない」からクラス全体の学びへ

教えてもらった2つのコツを胸に、Aさんが再び跳び箱に向かいました。
助走をつけ、踏み切り板の前で「ト、トンッ!」とリズム良く力強い音を響かせ、大きく手を伸ばして跳躍すると――なんと、Aさんは見事に一発で跳び箱を越えてしまったのです。

「できた!」と顔を輝かせるAさん。同じ場所で練習していた仲間たちからも「おぉーっ」「やったじゃん」と歓声と拍手が上がりました。
Aさんはうれしそうに、教えてくれました。
「みんなが言っていたみたいに、カエル跳びみたいに手を遠くに伸ばして、踏み切るときに『ト、トン』って音が出るように意識したらできた!」

さらに素敵な波及効果が生まれました。このコツと練習方法がクラス全体に広がったことで、Aさんだけでなく、それまでうまくいかず同じ段で止まっていた他の子たちも次々と高い段を跳べるようになっていったのです。
そこで私は、もう一度全体を集めました。

「みんなが一歩前進できたのは、Aさんが『分からない』と正直に言ってくれたおかげだね。Aさんの『分からない』があったからこそ、みんなで考えて、ポイントを見つけることができ、学びにつなげることができたんだね」

Aさんは跳べた喜びだけでなく、自分の「分からない」がクラス全体の学びにつながったことを知り、どこか誇らしそうな表情を浮かべていました。

心理的安全性が試行錯誤を支える

「分からない」や「できない」は、恥ずかしいことでも隠すことでもありません。むしろ、クラス全体の学びを深めてくれる宝物です。

失敗や疑問を恐れずにオープンにできる空気(心理的安全性)があってこそ、子どもたちは自分の課題に安心して向き合い、他者の試行錯誤からも学び取ることができます。
Aさんの一歩は、学習においてクラス全員で高まり合うということの本当の意味を教えてくれました。

次回は、こうして学びを自分自身で記録し、可視化することで、成長を加速させていく振り返りシート(評価)の取り組みについてお届けします。

阪野 一輝(ばんの かずき)

愛知県東郷町立春木中学校 教諭


公立学校教諭。大学院にて運動生理学を専攻。これまで約10年間、小学校を中心に、体育における「自己調整学習」の実践研究や、子どもたちが主体的に運営する学級経営に注力している。授業や学級経営を通じ、子どもたち一人ひとりの心に「自律の種」をまく実践を大切にしている。

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