見えない力で、学校はできている
学校は、多くの人の力で成り立っています。
制度や仕組みだけではなく、日々の声掛けや対話、安心して相談できる関係性など、見えない力に支えられている場でもあります。
教師同士のつながり、そして子どもたちが安心して学べる関係について考えながら、学校を支えているものについて改めて考えてみたいと思います。
兵庫県西宮市立総合教育センター 指導主事 羽渕 弘毅
この先生なら聞けると思えた経験
「この先生なら聞ける」
今振り返ると、若手のころの自分を支えていたのは、その感覚だったように思います。
教材研究がうまくいかないとき、保護者対応に悩んだとき、学級経営で立ち止まったとき。もちろん、自分なりに本を読んだり、先輩の授業を見たりもしていました。
しかし、本当に救われたのは、「ちょっと相談してみようかな」と思える相手がいたことでした。
学校の仕事は、どうしても個人戦のように見えることがあります。
授業をするのも、子どもと向き合うのも、最終的には教室の中にいる一人の教師です。だからこそ、私たちはつい、「もっと努力しなければ」「もっと力をつけなければ」と、自分自身に矢印を向けがちです。
けれども、教育の仕事は、本当に一人の力だけで成り立っているのでしょうか。
人とのつながりが学校を支える
「困った時に相談できる」
「失敗しても受け止めてもらえる」
「安心して挑戦できる」
「誰かが見てくれている」
こうした人とのつながりは、「社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)」とも呼ばれています。
関係性そのものが、人や組織を支えている、という考え方です。
学校現場に置き換えると、これは決して特別な話ではありません。
若手教員が、放課後に先輩へ「今日の授業、どうでしたか」と聞けること。学年会で、「実は、あの子への対応に悩んでいて」と言えること。管理職が、「失敗しても大丈夫だから、一回やってみよう」と背中を押してくれること。
こうした小さなやり取りが、学校を支えているのだと思います。
子どもたちも、つながりの中で学んでいる
そして、この見えない力は、教師だけでなく、子どもたちの学びにも大きく関わっています。
友達に「どう思う?」と聞けること。
困った時に「分からない」と言えること。
先生に「見てもらえている」と感じられること。
そうした安心感があるとき、子どもたちは少しずつ挑戦できるようになります。
反対に、どれだけ教材や環境が整っていても、一人ぼっちだと感じているとき、人はなかなか前へ進めません。
学力というと、テストの点数や知識量に目が向きやすくなります。しかし、子どもたちが本当に力を発揮するとき、その背景には、安心して学べる関係があることが少なくありません。
つまり、学びを支えているのは、教材や指導法だけではないのです。
「この教室なら大丈夫」
「この先生なら話せる」
「この仲間とならやってみたい」
そんな見えない力が、子どもたちを前へ進ませているのだと思います。
主体性は孤立することではない
逆に言えば、学力だけを切り取って向上させようとしても、うまくいかないことがあります。そこに、学びを支える関係性がなければ、子どもたちは安心して前に進めないからです。
これは、教師の世界でも同じなのかもしれません。
最近は、「主体性」や「個別最適化」という言葉をよく耳にします。もちろん、大切な視点です。一方で、それが一人で頑張ることへと変換されてしまうと、少し苦しくなることがあります。
本来、主体的に学ぶということは、孤立して学ぶということではないはずです。
誰かと対話する。
誰かに頼る。
一緒に考える。
そうした関係の中で、人は学び続けられるのだと思います。
AI時代に問われる人と学ぶ価値
AIの活用が進み、知識や情報は、以前より簡単に手に入る時代になりました。分からないことを調べるだけなら、AIは非常に優秀です。
だからこそ、「誰と考えるか」「誰に相談できるか」の価値は、これまで以上に大きくなっているように感じます。
学校は、制度や仕組みだけで動いているわけではありません。
人と人との関係。
声を掛け合うこと。
安心して失敗できる空気。
そうした見えない力で、学校はできているのだと思います。

羽渕 弘毅(はぶち こうき)
兵庫県西宮市立総合教育センター 指導主事
専門は英語教育学、学習評価、ICT活用。高等学校や小学校での勤務経験を経て、現職。これまで文部科学省指定の英語教育強化地域拠点事業での公開授業や全国での実践・研究発表を行っている。働きながらの大学院生活(関西大学大学院外国語教育学研究科博士課程前期)を終え、「これからの教育の在り方」を探求中。自称、教育界きってのオリックスファン。
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