理想の授業への近づき方ー授業改善が進まない理由と「模擬授業」の効果
先日、「学習塾の倒産が相次いでいる。」というニュースが目に留まりました。原因として、近年の教え方が変わってきたことにより、教育方法について柔軟に理解しようとする優秀な人材が確保できないことが挙げられるそうです。公立学校の教員採用試験においても倍率が年々低下し、優秀な人材を確保するために必要とされる3倍を下回る自治体も多くあります。そのため、どの学校現場でもOJT(On the Job Training)による若手教員の養成は必要不可欠になります。
岡山県和気町立佐伯小学校 教諭 角田 直也
個人の素晴らしい実践より、組織の授業力
大きな研究大会や勉強会で、新しい教育について学んでいるのは、授業改善に熱心な教員が中心ではないでしょうか。一方で、授業改善が必要な教員は、どこか他人事のように従来型の授業を進めてしまっている現状があるように思います。そのような教員は、授業を見られたくないようで、授業改善に向けたアプローチが難しくなってしまいます。
そのような状態が続けば、学校全体の教育力は低下します。個人の素晴らしい実践よりも、組織としての授業力を高めるために、学校全体で授業力向上や授業観の転換に向けた研修を行っていきましょう。
学習指導要領の趣旨の浸透は、道半ば

黒板を使い、イメージを共有しながら授業を作る
平成31年度改訂の学習指導要領では、アクティブラーニングを通して主体的で対話的で深い学びを目指していくために、教員の授業観の転換が求められました。それ以降、三次構造の授業づくりや、学習計画や評価の観点を児童と共有することで、児童の主体性を育む多くの実践例が生まれてきました。
しかし、次期学習指導要領の論点整理では、教員の授業改善について「趣旨の浸透は道半ば」と評価されています。いったい、なぜ浸透しないのでしょうか。
【理由①】知識技能を教え込んだ方が、教員が”教えた気”になれる
教員も児童や保護者も、やはりテストの点数を気にしています。高得点を取るためには、教員が主導して知識を教えることが手っ取り早いのかもしれません。児童にとっても、覚えることに従事すればよいため、学び方を考えるストレスから解放される利点があるのかもしれません。
【理由②】個々によって違う学び方を教える難しさ
教員の中には、自分が受けてきた教育が一番正しいと思っている人も少なくないでしょう。数年前に行った研究授業の経験から、「この単元は誰よりもうまく教えられる」と自信をもっている教員もいるかも知れません。しかし、現在の教育は日々アップデートされており、単にわかりやすい教え方だけを求めていないことが現実です。それを受け入れ、「学び方を教える」ことに焦点を当てて授業づくりを行う必要があります。個別最適な学習を目指し、個々の児童の認知特性を把握し、学習方法についてフィードバックを繰り返し、最善の学習について児童と共に考えていきます。
個々の児童に伴走するために、時間と労力を費やすにも関わらず、目に見えて成績が上がるとは限らないので、教員が手をつけにくい現状もあるかもしれません。また、今まで教員に求められてきたスキルとは違うスキルが必要とされていることにも、教員が敬遠してしまっているのかもしれません。
模擬事業による授業づくり

模擬授業から概念の解像度を上げ、授業づくりの技術を共有する(筆者作成)
このような現状の中で、主体的で対話的で深い学びを実現する授業に向けて授業観を変える研修を、どのように行うと効果的なのでしょうか。もちろん文部科学省が提示する資料などを基に理論を共有することも重要ですが、私は模擬授業を提案します。
児童と学び方を考える授業についてイメージしにくい教員は、指導案や関連資料を通して授業の作り方について学んでも、それを授業の中で体現することが難しいようです。日頃の学級経営による基盤づくりも重要になるため、長いスパンで授業づくりを行っていかなければなりません。しかし、どこかで一歩を踏み出さなければ、授業改善はできません。
そこで、「百聞は一見に如かず」と言われるように、同僚を相手に実際の授業を行ってみることが学びにつながります。「主体的で対話的な深い学び」に焦点を当てながら、発問の内容やタイミング、支援の回数などを精査します。実際に授業をすることで、自身の授業づくりへの思いを言語化し、多様な意見を基にブラッシュアップしていきます。
模擬授業では、曖昧になっていた抽象的な概念や、有効な実践例を共有することができ、より多角的に授業を見直すこともできます。一人で悩んでいても、その人の学びにしかなりません。貴重な時間を使って模擬授業を行うことで、複数人で悩みを共有し、お互いの糧にしていきましょう。そして、授業を語り合える教員集団を目指していきましょう。

角田 直也(かくだ なおや)
岡山県和気町立佐伯小学校 教諭
特別(聴覚)支援学校、青年海外協力隊(マラウイ)、公立小学校に勤務。
近年は、総合的な学習の時間に行う地域をフィールドにした活動を軸として、教科横断的なカリキュラム編成を実践・検証し、地域学習と教科学習の双方の深化について研究しています。
また、先輩教員のノウハウと新しい"観"の教育を融合しつつ、若手教員と共に学ぶ新しい研修方法を実践しています。
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