2020.12.02
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涙をこらえるきみのための学級づくりの教室(4)うずくまって動かない子への選択肢

学級づくりで悩める若年教員のために、少しでも役立つ記事を書きたい。
そんな思いで、「涙をこらえるきみのための学級づくり教室」を連載しています。登場する人物や団体、名称は架空のものですが、場面設定や悩み事に対する手立てなどは私自身の実体験を基にしています。

さて、今回は「自己決定の大切さ」についてです。

たとえ小学1年生であっても、自己決定の機会を設定することは教師にとって大切な仕事です。とはいえ、自己決定を促す言葉が抽象的だと子どもには伝わりません。うずくまって泣いている子どもなら尚更、教師の言葉は1ミリも届きません。そんなときこそ、選びやすい選択肢を用意してあげるのです。そうすると、子どもは我々教師の予想を超える言動をすることがあります。

高知大学教育学部附属小学校 森 寛暁

episode4.〜うずくまって動かない子への選択肢「10秒と1分どっちにする?」〜

涙をこらえるきみのための学級づくり教室(4)

わたし──小鳥ももは、今日も風変わりなアザラシのマ・ナザシと一緒にいる。もうすぐ12月だというのに昼間の風は、ほんのりやさしい。

「ねえ、ナザシ。いきなりだけど相談にのってくれる?」
「いいぞ。今日はどんな相談なんだ?」
「ある男の子の行動なんだけどね。その子、朝学校に来ても玄関で、うずくまって泣いて動かないの。長いときは1時間目が終わるまで教室に入ってこないこともあるの」
「なるほど。一緒に解決策を探っていきたいから、もう少し詳しく教えほしい。その行動が見られる頻度や動機、きっかけなんかはあるのかな?」
「うん。頻度は週に2回ほど。母親の車で送られて来た日が多い。それ以外の日は近くの友だちと集団登校していて問題なく教室に入っている」
「なるほど。よく調べてるな。背景理解と情報収集に努めているのがよく分かる。まだまだだけどな」
「相変わらず一言多いわね!まあいいわ。それで、他に聞きたいことはないの?」
「うん。2つある。1つ目はうずくまる直前の様子を詳しく教えてほしい。2つ目はももの手立てを教えてほしい」
「分かった。1つ目の直前の様子だけど、車の中からなかなか降りてこないこともあったり、降りてもその場でうずくまって黙ったままになったりすることが多いかな」
「そのときの母親の行動は?」
「言いにくいんだけど、その子の手を引っ張ったり多少強い言葉を言ったりしてる」
「なるほど。母親も困っているんだな」
「わたしの手立ては、母親がいなくなった後にやっている。やっていることは、話を聞くことと教室へ行くように促すこと」
「もっと具体的に。どんな言葉でどうやって促しているのだ?」
「『どうしてうずくまっているの?』『理由があったら教えて』『お母さんも困っているよ』って言ってる。促し方は『行くよ』と言って手を差し伸べている」
「なるほど。よく分かった。つまり母親もその子も、ももも困っているんだな。じゃあ、アプローチを変えてみよう」
「どんなアプローチよ?」

自分で決めたがやきっ!

「自己決定を促すために、選択肢を差し伸べるアプローチだ」

ナザシが教えてくれたことは、簡単に言うとこういうことだった。

うずくまっている子が落ち着くまで少し待つ。落ち着いたら、こう話しかける。「立ち上がるのは今から10秒後にする?それとも1分後にする?」。

たったこれだけで、その子の行動が良くなる可能性があるというのだ。その子自身も困っていて何をすればいのか分からない可能性が高く、次の行動のきっかけがほしいだけなのかもしれないらしい。

「特に男の子は数字を提示されたら、短い数字を選ぶことが多いから案外10秒でスッと動けるかもよ。もっと言うと、こだわりの強い子なら尚更、自己決定は有効に働くはずだよ」
「確かに、それが本当ならすごいね。でも、本当にそうなるの?」
「ももが疑心暗鬼なのは、よーく分かる。でも、やってみる価値はあると思うぞ。前に住んでた縁側でアラフォー教師がうれしそうに誰かに話していたから、実際にうまくいくこともあるんじゃないか」
「分かった。やってみる」
わたしは意外にもナザシの提案をすんなりと受け入れてしまった。前もこうだった。ナザシの眼差しを目の当たりにすると、なぜか受け入れてしまうのだ。
──つづく
(次回:episode5.〜OODAループとUX視点〜)

*登場する人物や団体、名称は架空のものです

差し伸べるのは「手」ではなく「選択肢」

応援していただき、ありがとうございます。
小鳥ももとマ・ナザシの学級経営物語をよろしくお願いします。半年間の連載です。
読んでくださる先生方やその近くにいる人が、疲弊しないように。後ろ向きになってしまった気持ちが、1ミリちょっとでも前を向くように。

子どもがつまずいたときに必要なのは「他者(教師)が差し伸べる手」ではなく、「子ども自身の意思」と捉え直してみると、気になる行動を解決するアイデアは他にもありそうですね。

Dave Brubeckの『Take Five』に揺られながら

森 寛暁(もり ひろあき)

高知大学教育学部附属小学校
まっすぐ、やわらかく。教室に・授業に子どもの笑顔を取り戻そう。
著書『3つの"感"でつくる算数授業』(東洋館出版社

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