2019.07.31
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『アルキメデスの大戦』 数学者が数字で戦争を止めようとする!! エンタメな反戦映画

映画は時代を映し出す鏡。時々の社会問題や教育課題がリアルに描かれた映画を観ると、思わず考え込み、共感し、胸を打たれてしまいます。ここでは、そうした上質で旬な映画をピックアップし、作品のテーマに迫っていきます。今回は『アルキメデスの大戦』と『風をつかまえた少年』をご紹介します。

戦争に向かわないためにも、戦艦大和の建造を止めなければならない!!

Ⓒ2019「アルキメデスの大戦」製作委員会 Ⓒ三田紀房/講談社

東宝のマークがモノクロに変わり、次に見えてくるのは太平洋戦争真っ只中の海洋。巨大な戦艦・大和とアメリカ海軍とのすさまじいまでの戦闘だ。アメリカ海軍の航空部隊が空から落とす魚雷が白い筋をたてながら突き進み戦艦の側面に炸裂する。懸命にアメリカの戦闘機を撃墜しようと大和に乗る乗組員たちも連装機銃で撃ちまくる。そして大和の甲板は爆撃を受けて炎があがり、死んだ者たちが流す血で赤く染まっていく…。

オープニングからいきなりタイムスリップでもして、戦闘に巻き込まれたような気分になった。そのくらい真に迫った映像。本物ではないとわかっていても、思わず息をのむようなシーンだらけで、さすが『永遠の0』を撮影した山崎貴監督と唸らずにはいられない。

この物語の核となる大和は、当時の最高技術で建造された戦艦で、その大きさは全長263メートル、史上最大の46センチ主砲を搭載した、当時の日本が世界に誇る船であった。そんな大和は1945年4月7日、鹿児島県沖の九州南方海域・坊ノ岬沖で撃沈されることになるのだが、オープニングで描かれているのはまさにその瞬間なのである。

この場面で印象的な出来事がある。それが機銃の射手であった男が、弾を一機の戦闘機に当て「やった!」と大喜びする場面。海上に墜落する前に、アメリカ軍のパイロットは脱出装置で外に飛び出し、パラシュートで海上に降下。するとその1人を助けるためだけに海上発着可能な飛行機が降りてきて、パイロットを助けて去っていく。先程まで喜んでいた機銃の射手はそれを呆然と見送る。

かたや1人の命をも助けようとする国。かたや本土決戦を望み、国民総討ち死にの覚悟でいる国。

この対比が見事すぎて、命の重さについて感じさせられるのと同時に、国の意向が左右する戦争の恐ろしさをも痛感させられた。このシーンを見ただけで、反戦というテーマがズカンと脳を貫いた。

そして時はさかのぼり、物語は戦艦大和の建造を巡る攻防戦へと展開していく。

Ⓒ2019「アルキメデスの大戦」製作委員会 Ⓒ三田紀房/講談社

1933年。欧米列強との対立を深める日本は、世界から孤立すると共に軍拡路線を歩み始めていた。軍人たちはどこかで戦争を意識し、海軍の中では新しい巨大戦艦建造の話が持ち上がっていた。

しかし海軍省の中では巨大戦艦に賛同する者もいれば、反対する者も。そんな反対派に目をつけられたのが、100年に1度の天才と言われた数学研究者の若者・櫂だった。巨大戦艦の予算に目をつけた海軍少将の山本五十六ら反対派は、提出された戦艦案の予算が安すぎることに注目。実際はもっと莫大な資金が必要なはずだと読み、巨大戦艦の建造が国家予算の無駄使いであることを示すため、櫂に独自の見積もりを算出させようとする。

軍隊が大嫌いだという櫂は当然これを拒否。だが山本は、巨大な戦艦は血気にはやる人々に戦争を勝ち続ける幻想を抱かせ、皆を戦争に導く――と、櫂を説得。苦悩の末に櫂は山本のもとで働くことを容認。山本は櫂を海軍に招き入れ、いきなり海軍主計少佐の地位を与えたのだった。

問題はここから。見積もりにかけられる時間はわずか2週間。しかも肝心の大和の図面などは機密としてチラリとも見せてもらえない。わずかな情報も建造推進派が漏洩を阻む。いきなり八方塞がりな状況から櫂の海軍生活は始まるのだ。

ポジティブに努力することはとても大切なこと

Ⓒ2019「アルキメデスの大戦」製作委員会 Ⓒ三田紀房/講談社

このスタート地点にも面白いシーンがある。それは櫂のお世話をする部下として山本少将から拝命された海軍少尉の田中(柄本佑が好演。最初は櫂に反目しつつ、次第に彼と深い絆で結ばれていく様は王道のバディムービーとしての魅力があった)が、いきなり音をあげる点だ。何をやるにも田中少尉はまず「無理」から話をスタートさせる。どうやったってできる訳がないと、ネガティブな発言を平気でする。ところが櫂はその真逆。どんな小さなことにもチャンスがあれば喰らいついていく。

それだけではない。とにかく櫂は努力を惜しまない。数学者を目指し、アメリカ留学まで考えていた彼であるが、造船に関してはズブの素人だ。だが2週間の中でありとあらゆる造船に関する本を読み、理解し、ついには自分で船の設計図が描けるようにまでなっていく。田中少尉とは真逆でスーパーポジティブ。なんだって吸収しようとするのだ。

そんな櫂を見ていると、人間とはやはり『気』が左右する生き物なのだなと、強く感じさせられてしまった。最初から気合いがなければ、やる気を持たなければ、どんなことだって成し遂げられるはずがないのだ。千里の道も一歩から……などと言うけれど、やれることを少しずつコツコツとやっていくことで道は開けるもの。それを櫂という人物は見事に体現してくれている。

Ⓒ2019「アルキメデスの大戦」製作委員会 Ⓒ三田紀房/講談社

前回、『泣いた赤鬼』という映画を紹介した時にも書いたが、現代はとにかく無駄を省こうとする時代だ。

けれども人生には「無駄」という言葉はあてはまらない。

人生でどんなに回り道をしようとも、それはいつか何かの役に立つ。筆者もかつて10代に楽しんで観ていたテレビの記憶が、現在の仕事で色々なベテラン俳優やタレントにインタビューを行う際、大変役に立っている。親に「テレビばかり見て」と言われながらも見続けた中学や高校時代の自分に感謝しているくらいだ。

櫂だってそうだ。設計図を書けるまでに高めた造船知識は、ある福音をもたらすことになるからだ。数学を学ぶという当初の人生の目的からははずれていても、間違いなく彼の人生を大きく彩ることになった。

以前、ある学生から「やってきたことがムダになったら嫌じゃないですか?」と聞かれたことがある。その学生にはある夢があった。が、もしその夢を達成することができなかったら、その夢にかけていた時間は全く無駄になってしまい、そういう無駄を費やすのが嫌で、一歩を踏み出せないと言っていた。

でも人生にそんな損得勘定を持ち込んではならない。なぜなら、もう一度言うが、人生に無駄なことなんてひとつもないから。何かに挑むにはそんな余計なことに『気』を取られてはならない。

『気』を操るのは自分自身なのだ。

やりたいことには本気で情熱を傾けるべき

Ⓒ2019「アルキメデスの大戦」製作委員会 Ⓒ三田紀房/講談社

自分の『気』の持ちようで物事はプラスにもマイナスにもなる。これ以上ないほどに本気で打ち込んでみたら、夢が叶うパーセンテージは確実に高くなる。もし仮に夢が叶わなかったとしても、自他共に認めるほどに努力をした人ならば、その努力は必ず何かしらの実を結ぶはずだ。だからこそ、自分がやりたいと思ったことには、本気で情熱を傾けないとダメなのだ。中途半端な気持ちではダメなのだ。そういったことも感じさせてくれるから、この映画はスゴいのである。

本作は太平洋戦争に突入する前から物語が始まるが、実はこの物語の内容は決して昔の話とのんきに言えるようなものではない。政治的にも不安定、異常気象が世界各地で起きているほど環境も不安定。戦争がいつどこかで起きても不思議ではない世の中だからこそ、自分で物事を見て、判断できる力が必要だ。しかも物事は目先だけを見ていては判断できない。この映画を見るとそのことがよくわかる。判断できる力をひとりひとりが持つことが大切なのだ。そうしないといつの間にか取り返しのつかない世の中になってしまう可能性だってある。流されるままではいけないのだ。

映画のジャンルとしてはエンターテインメントだが、心底いろいろ考えさせてくれる素晴らしい作品である本作。これは映画館で、迫力の画面で観ないと本気で損な作品だ。

Movie Data

監督・脚本・VFX:山崎貴 原作:三田紀房
出演:菅田将暉、柄本佑、浜辺美波、笑福亭鶴瓶、小林克也、小日向文世、國村隼、橋爪功、田中泯、舘ひろしほか 配給:東宝
7月26日(金)より、全国ロードショー

写真提供:東宝

Ⓒ2019「アルキメデスの大戦」製作委員会
Ⓒ三田紀房/講談社

Story
昭和8年。海軍省は、世界最大の戦艦を建造する計画を秘密裏に進めていた。だが省内には計画に反対する者も。「今後の海戦は航空機が主流」という自論を持つ海軍少将・山本五十六は、巨大戦艦の建造がいかに国家予算の無駄遣いか、独自に見積もりを算出して明白にしようと考え、天才と言われる元帝国大学の数学者・櫂直にその任務を託すことに。

文:横森文/写真提供:東宝

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

子どもに見せたいオススメ映画

『風をつかまえた少年』

(C)2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC

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最初に断っておくと、これは真実の物語の映画化だ。日本でも2010年に出版されたノンフィクションの映画化だし、英語の教科書で掲載されたりもしているので、すでにこの話を知っている人は多いかもしれない。でも映画というものは画があるからこそ現実を突きつけられる。想像ではなく現実的に見せられるその世界は、正直言って衝撃的だ。

舞台はアフリカの南東部にある内陸国マラウイ。人口の約85%が農業に従事しており、電気の普及率は全国で2%、世界の中でも最貧国のひとつだ。というのも灌漑設備があまり普及しておらず、彼らの農業は降雨量に大きく左右されていたからだ。つまり運まかせで耕作しているといっても過言ではない。

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そんな中で農家の家庭に生まれ育ったウィリアム・カムクワンバは、ある本を読んで風力発電のことを知り、電気さえ起こせれば井戸の水を汲み上げ、干ばつで危機的状況に陥った村の畑を助けることができることに気が付く。そこで図書館で懸命に風力発電に関する本を読み、ゴミ捨て場で部品を拾い、風車を作ることに躍起となっていく……。

この映画で心に訴えてくるのは『学ぶ』ことの大切さだ。といっても中学まで義務教育である日本では、学ぶことが義務なのだから、その大切さを改めて噛みしめろと言われてもなかなか難しいのではないかと思う。でもこの映画を観れば、学べることのありがたみが伝わってくる。

ウィリアムが置かれているのは、学ぶこと自体が難しいという現状だ。なにしろウィリアムが通う学校は学費を払わねばすぐ退学になってしまうからだ。干ばつが続き今日の食事もままならない生活で、子どもたちは生きるために家の手伝いをせざるを得ない。そんな環境下のマラウイの子供たちが、学校に通えるはずもない。実際、国際協力機構(JICA)のデータによれば、マラウイは8年間の義務教育の小学校は授業料が無償で就学率は92%を超える。けれどもその後の4年間の中学校の就学率は15%に留まるという。かくして十分に教育を受けられなかった人が増えていくことになるのである。そしてそれは農業以外への職業選択の道を狭めることにも繋がっていく。

(C)2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC

ウィリアムも勉強など二の次な状況に追い込まれる。干ばつで食糧難に追い込まれた上に、貯めておいた食料までも飢えた男に奪われてしまい、1日3食だったのを1食に減らして対応する以外、方法がなくなるなど、生きていくことすら困難になってしまうからだ。

だがそんな中でも、彼は勉強を続けて風力発電に挑み続けていく。学費が払えず学校に通えなくなり、学校に立ち入るのもダメだと言われても、協力的な先生の力を得て学校の図書館で必要な本を読みあさる。父親から「何をやってるんだ!」と怒鳴られながらも、自分の信念を貫いていく。生きるために学んだことをキチンと活かしていくのだ。ともすると日本では忘れがちになってしまう「なんのために学ぶのか」のアンサーが、この映画にはある。

そう、“知ること”は自分の未来を作ることなのだ。勉強は教えられるものではなく、本当は自分で発見していくことなのだ。それをこの映画で知ってほしい。理解してほしい。そうすればみんなが風をつかまえられる。皆が賢さを手に入れることができるのだ。それがこの映画を観れば必ず伝わるはず。課題として観て、皆で話し合うにもとても良い作品だと思う。中学生以上の子どもたちに特にオススメしたい1本だ。

監督・脚本・出演:キウェテル・イジョフォー 原作:ウィリアム・カムクワンバ、ブライアン・ミーラー 出演:マックスウェル・シンバ、リリー・バンダ、ノーマ・ドゥメズウェニ、アイサ・マイガほか 配給:ロングライド
8月2日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

写真提供:ロングライド

(C)2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC

文:横森文/写真提供:ロングライド ※写真・文の無断使用を禁じます。

横森 文(よこもり あや)

映画ライター&役者

中学生の頃から映画が大好きになり、休日はひたすら名画座に通い、2本立てなどで映画を見まくっていた。以来、どこかで映画に関わっていたいと思うようになり、いつの間にか映画ライターに。『スクリーン』、『DVD&ブルーレイでーた』、『キネマ旬報』など多数の雑誌に寄稿している。 一方で役者業にも手を染め、主に小劇場で活躍中。“トツゲキ倶楽部”という作・演出を兼ねるユニットを2006年からスタートさせた。
役者としては『Shall we ダンス?』、『スペーストラベラーズ』、『それでもボクはやってない』、『東京家族』等に出演。

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