2017.10.04
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百聞は一見に如かず

私は地理歴史科の中の地理が専門で、遠く離れた地域のことを扱うことがよくあります。現在は工夫された教材も多く、インターネットなども活用することで、教室にいながらに臨場感を味わうことが可能になっています。これは地理に限らず、他の教科・科目はもちろん、学校以外の多くの場面でも当てはまることだと思います。

 一方、わざわざ行ってみる意味はないのか?実物など見せなくても良いのか?というと、それはまた別の話だと思います。実際に行って、実物を見ることでしか得られないものもあるでしょう。今回は、地理教員としての基本的な考え方にもなる、「百聞は一見に如かず」ということについて、記事を書いてみました。

前 山形県立米沢工業高等学校 定時制教諭  山形県立米沢東高等学校 教諭 高橋 英路

臨場感を出す工夫

高校の地理では外国について扱うことが多く、教科書をそのまま教えたのでは、生徒にとって「どこか遠いところの話」という印象しかありません。そこで、様々な地理的事象を身近に感じてもらうための工夫が必要になります。例えば・・・

(1)教科書と同様の身近な事例を挙げる
 教科書には地形や気候、産業など、その特徴が顕著に現れているものが事例として紹介されています。しかし、探して見ると、身近にも同様の事例はあるものです。その規模が小さかったり、見た目に分かりにくいといった理由から、あまり知られていないというケースも多いです。そういったところを教員側が示したり、生徒たちに調べさせたりすることで、学習内容をより身近に感じ、それに対する課題を見出そうとする動機も生まれやすいと思います。
 ただ、身近な地域の事例を調べるとなると、インターネットや書籍にも載っていなかったり、その正確さの裏づけが難しかったりと、多くの労力が必要になる場合もあります。

(2)図版や画像、映像の活用
 写真や動画によって実際の様子を見せるというのは、比較的容易に行えます。インターネットを活用することで、様々な角度から見ることができますし、映像により現地の方の声を聞かせることも可能です。グーグルアースなどを活用すれば、まさに世界中を旅しているような感覚を体験することも可能です。
 ただ、これは学校や教室の備品の状況やICT環境に左右される部分もあります。それでも、以前に比べれば、はるかにこういった工夫が有効で、それが取り入れやすい環境にはなっていると思います。実際、社会に出て、現地に行くのが困難な場合に、写真や映像で現地の様子を把握するということもあるかと思います。

(3)双方向のやり取り
 地理という科目は、自然を扱うと同時に、そこで生活する私たち人間についても取り上げます。人々の考えや気持ちを理解するのは、近くに住んでいても難しいものです。それが、遠く離れた地域に住んでいるとなれば、なおさらのことです。一昔前であれば、現地の方と手紙や電話のやり取りをするといったことがあったかもしれません。現在では、スカイプやzoomといったツールの活用により、簡単に現地の方と通信することが可能になりました。私も、アフリカのルワンダと日本の教室とをスカイプで結び、生徒が現地の状況や課題を聞き取るといった授業を行ったことがあります。資料から「こうだろう」と推測するのに比べ、直接話を聞き、それに対してさらに質問できるという環境は、まさに臨場感あふれる授業になったと思います。

 このように、学校や生徒によって様々な制約や条件の違いがあるにせよ、様々な工夫が行われていると思います。

実際に行ってみること

 地理ではよく「巡検」という言葉が出てきます。実際に現地を訪れて、見たり聞いたりといった現地調査を指す言葉です。時間もかかるし、準備も大変ですが、実際に行かないと感じることのできないことも多いと思います。

 ちょっとした形や色の違い、においなどは比較的分かりやすいと思います。また、現地の方とのやり取りで言えば、ネットでの通信と違って、場所を選ばず、そのときに話したい人に、話したい内容を、臨機応変に聞くことができます。その際の表情や雰囲気など、言葉の裏にある感覚的なものも感じ取ることができるでしょう。さらには、「もう少し時間があるようだから、こっちも見て・・・」といったことも可能で、それをきっかけに別の何かを見つけることもあります。

 私の地区の高校の教育研究会の地理部会では、毎年巡検を行っており、今年も高速道路の建設現場を見学してきました。見学前にパンフレットなどでお話もいただくのですが、やはり実際に行ってみたときにストンと頭に入ってくる感覚は別物だと感じています。また、現地を自由に見ると、事前に説明された箇所以外も目に入るので、質問も次々に出てきます。生徒も同じような感覚を持つとすれば、巡検の意義は大変大きいと思います。

 しかしながら、授業時間や進度の確保、行事の精選といった事情から、学校での巡検は減少傾向にあります。以前は、うちの地区でも丸1日かけて学校行事として巡検を行う高校もありました。それが半日になったり、行事ごとなくなってしまったり・・・というのが現状です。私も、実際に行って見る経験をしてほしいと思い、学校近辺の工場や史跡を見学に行くなど、授業の中に巡検を取り入れたこともありました。ただ、学校の所在地や授業時間帯などの制約が多く、思うように実施できていないのが現状ですが・・・。

 ちなみにこうしたことは、最近増えている教員向けセミナーなどにも言えるかと思います。誰かの講演を聞いたり、授業を実際に見学したり・・・書籍を読めば分かるのか?配信されている動画を見れば分かるのか?・・・以前、先進校視察を行った際に、「メールや電話でのやり取りで十分だ」という意見を聞いたことがあります。私はそうした意見には疑問を感じており、これも、やはり実際に行って見ることで感じるものが多いと感じます。

 行くまでの労力は大きいですが、現場を見ることの大切さを忘れずにいたいと思い、今回は記事を書きました。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

高橋 英路(たかはし ひでみち)

前 山形県立米沢工業高等学校 定時制教諭
山形県立米沢東高等学校 教諭


クラス担任と、地歴科で専門の地理を中心に授業を担当。生徒達の「主体的・対話的で深い学び」が実現できるよう、p4c(philosophy for children)やKP(紙芝居プレゼンテーション)法などの手法も取り入れながら日々の授業に取り組んでいます。

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