数学ができないから
教員になる前は、塾で講師をしていました。そのときに出会った1人の生徒の話です。その生徒(Aさんと呼びます)は、中学3年生に進学する直前に私の担当する生徒になりました。私は週に1回、Aさんに数学を教えていました。Aさんは数学が苦手で、授業のたびに「難しい……難しい……」と嘆いていました。夏前の授業のとき、Aさんが進路について考えていることを話してくれました。Aさんは「自分は数学ができないから、商業高校に行って手に職をつけようと思います」と言いました。そのときに私は「Aさんは商業高校のことを何も知らないんだな」と思いました。
教員になった今考えると無理もないことだと思います。高校について知らないことがあるのは当然です。当時の私はAさんに、商業高校で学べることや、今勉強している数学とは異なる「簿記」や「情報処理」などの数学を勉強すること、将来目指せる職業の例について話をしました。そのことが直接関係しているかどうかはわかりませんが、結果として、中学校を卒業した後は普通高校に進学し、その後専門学校で自分の好きなことについての勉強をしているそうです。
「〇〇がいい」で選択してほしい
私は当時、Aさんが商業高校へ進学することに反対も賛成もありませんでした。どんな進路を選択したとしても、私にできることは、「一緒に勉強すること」と「応援すること」です。進路を決定するのも、それに向かって努力をするのもAさん自身ですので、私はあくまでそのお手伝いをすることしかできません。ただ、私が口を出してしまったのは「消去法で進路を選択しているように聞こえた」からです。
明確な理由があってなくても、彼らが自分で選んだことに口を出すつもりはありません。基本的には応援したいという気持ちが本音です。しかし、「よくわからないけど、自分の学力的にはこのへんかな〜」という曖昧な理由や「これが苦手だからやらなそうなところがいいな」という理由で進路を選択しようとしているなら話は別です。生徒には後悔してほしくないと思います。何かを選択するときは、”消去法”ではなく「これが良いから!」という気持ちをもって選択してほしいです。
進路指導で自分にできることは?
中学校における進路指導というと「高校受験」が主なイメージになるかもしれません。しかし、中学校を卒業したあとの進路については高校進学だけではなく、様々な選択肢があります。多くの生徒が進学する道を選択していますが、違う道を選択する生徒もいます。また、進学と一言でいっても、進学する先は人それぞれです。
「全日制の普通科」以外の選択肢があるということを知らない生徒や保護者も多いからこそ、私自身ももっと学んで説明することができるようになりたいと思います。後悔しない道を選んでもらうために適切な言葉かけができるようになりたい。もちろん進路指導=受験指導ではありません。進学先の話に限らず、生徒一人ひとりのこれからの人生を考えてサポートしていけるような存在でありたいと思いながら、日々学んでいます。

朝倉 しおり(あさくら しおり)
東京都内公立中学校 教諭
大学を卒業してすぐに公立中学校の教員になりました。
若手(寄り)の立場で生徒と一緒に日々勉強中。
「成長し続ける教師」を目指して考えたことや独り言を発信していきます。
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