みなさん、こんにちは。
前回の続きで、学校設定科目「キャンパスデザイン講座」を、いかにして作っていったのかをご説明します。
高大・高専連携の方針は固まったものの、具体的にどこと連携するのか、模索が続きました。
福岡県大牟田市は熊本県との県境に位置する、福岡県でも最南端の地方都市です。
大学や短期大学それに専門学校など、上級学校が多数立地する福岡市に移動するまでに、
電車で約1時間ほどかかります。
近い場所であれば、移動の時間がかからず、1日のうちに講義や実習を受けて往復することも可能でしょう。
しかし、電車やバスで移動するにせよ、往復で2時間の移動時間をふくめて、
1日6コマの時間割の中で講座を実施することは、極めてロスが多いのです。
最初の設計段階では、これが一番の悩みでした。
そこで地図を広げて、学校から50km以内と100km以内の場所にコンパスで円を描きました。
遠い場所と近くの場所の上級学校を、組み合わせる。
そして、こちらから出向くこともあれば、逆に本校に講師を派遣してもらう。
本校は女子校ですから、なるべく女子の人気の職業や学問分野につながりやすい学校を探す。
例えば、幼児教育、看護師、エアラインやブライダル関係・・・。
なるべく生徒たちが学んでみよう、やってみようという意識につながるものを優先的に選びました。
そして、関係のありそうな上級学校を抜きだし、本校からの距離を確認しながら、交渉してみることにしました。
また、総合進学コースに入学した生徒にとっては、3年間の長期にわたる講座になりますから、
発達段階に合わせて、コースデザインする必要性を感じました。
高校1年生は、資格がとれる上級学校の講義や実習に挑戦してみよう・・・チャレンジプログラム。
高校2年生は、少し学校を飛び出して、身体を動かしながら学んでみよう・・・アクティブプログラム。
高校3年生は、入試や就職試験直前の最終準備として役立つものを・・・レディネスプログラム。
そして、この3段階を体験する中で、社会から隔絶されがちな学校という枠組みを少しでも薄くし、
外の空気に触れさせたい、
社会で活躍する生身の人間に触れさせたい、という思いが湧いてきました。
そんなことを思い浮かべながら、学校に許可を得て最終決定したのが、以下の構成(第1期)でした。
この講座のアンケートは毎回進路指導部でまとめて、協力いただいた上級学校へ送るようにしていますが、
講座を受けて「とてもよかった」「まあよかった」を合わせた数が毎回85%から90%を示していて、
生徒の満足度が高いことを示しています。
一方で、講義形式(座学)の満足度は、平均して70%前後にとどまっており、
やはり身体を動かす作業や実習の多い講座回の人気が高いことがわかりました。
それは裏を返せば、日々の座学による授業からの逃避に過ぎない面もあるかもしれません。
総合進学コースは2012 年度に完成年度を迎え、2013 年3 月に初めての卒業生を送り出しました。
卒業時には、「もっとも印象に残る授業はキャンパスデザインだった」、という言葉を残してくれたのは、
やはり嬉しいことでした。
2015年には、短大・専門学校(2 年課程)に進学した生徒の就職先が、追跡調査の結果、
高校在学中に志望した職種に近い形での内定率が高い、という結果となりました。
例えば、キャンパスデザインを通して、女性バーテンダーになりたいという志を立てた生徒が、
ホテル系の基礎を学ぶべく、ある専門学校に進学。
外資系の一流ホテルにいちはやく就職し、しかもバー・レストラン部門に配属になったという事例があります。
高校から上級学校へのミスマッチを防ぎ、生徒の満足度にもつながっているとみてよいのではと思います。
最近は徐々に浸透してきたとみえて、「キャンパスデザイン」があるから本学園を志望したという入学生も出ており、
とても嬉しく思っています。
さて、この講座を設計した頃には、私は、「アクティブラーニング」という言葉を知りませんでした。
今次の教育パラダイムの転換に関わる、さまざまな教育改革の波が学校に伝わり、
私も影響を受ける中で、この講座の弱点が見えてきたところもあります。
それは、
(1)教科におけるアクティブラーニングを促すとともに、
(2)教室と社会の壁を薄くし(教室と社会とのトランジション)、
(3)できれば地域課題解決型PBL(Project Based Learning)にふみきるべきだった、
という点です。
進学校の元お嬢様学校のイメージの根強い本校では、体質的に社会に踏み出す勇気を、
教職員も含め、組織として持ちえませんでした。
しかし、この講座の最初のコンセプトとして、狭い教室の中から一歩踏み出し、
生身の人間(大人)と触れる機会を多く持つことを掲げたのであれば、
その逡巡をいまは越えるべきであると思っています。
成果を挙げている、数ある先進的な学校に学ぶことはもとより、
そもそも立地する大牟田市がまさに過疎指定を受けた、少子・高齢化の縮図のような街です。
炭鉱が閉山したのち、人口は減る一方で企業誘致もままならず、労働力人口も他都市へ流出していきました。
そこに気づかず、いや気づいていても見て見ぬふりをしながら、
そこに学校を営むということへの矛盾を日々感じています。
いま一つの課題は、この講座の設計と運用を、ほぼ私一人で行ってきたという事実です。
毎日のアクティブラーニング型授業で生徒にチーム作りを促していながら、
教職員がチームとして集合知を活かしてこなかったことに、やはり反省を感じています。
ただ、今年度は、総合進学コースの担任の先生方と共同して講座の見直しを始め、
大学のアクティブラーニング型授業(情報工学・統計学)の中に、生徒を入れてみようという試みを実行に移しています。
私一人では思いもつかなかった試みが実現するのを目の当たりにすると、
やはり集合知や協働することのすごさを感じます。
課題は多いですが、少しずつフィードバックによる見直し作業を進めようと思っています。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
前回の続きで、学校設定科目「キャンパスデザイン講座」を、いかにして作っていったのかをご説明します。
高大・高専連携の方針は固まったものの、具体的にどこと連携するのか、模索が続きました。
1.提携先をデザインする
福岡県大牟田市は熊本県との県境に位置する、福岡県でも最南端の地方都市です。
大学や短期大学それに専門学校など、上級学校が多数立地する福岡市に移動するまでに、
電車で約1時間ほどかかります。
近い場所であれば、移動の時間がかからず、1日のうちに講義や実習を受けて往復することも可能でしょう。
しかし、電車やバスで移動するにせよ、往復で2時間の移動時間をふくめて、
1日6コマの時間割の中で講座を実施することは、極めてロスが多いのです。
最初の設計段階では、これが一番の悩みでした。
そこで地図を広げて、学校から50km以内と100km以内の場所にコンパスで円を描きました。
遠い場所と近くの場所の上級学校を、組み合わせる。
そして、こちらから出向くこともあれば、逆に本校に講師を派遣してもらう。
本校は女子校ですから、なるべく女子の人気の職業や学問分野につながりやすい学校を探す。
例えば、幼児教育、看護師、エアラインやブライダル関係・・・。
なるべく生徒たちが学んでみよう、やってみようという意識につながるものを優先的に選びました。
そして、関係のありそうな上級学校を抜きだし、本校からの距離を確認しながら、交渉してみることにしました。
また、総合進学コースに入学した生徒にとっては、3年間の長期にわたる講座になりますから、
発達段階に合わせて、コースデザインする必要性を感じました。
高校1年生は、資格がとれる上級学校の講義や実習に挑戦してみよう・・・チャレンジプログラム。
高校2年生は、少し学校を飛び出して、身体を動かしながら学んでみよう・・・アクティブプログラム。
高校3年生は、入試や就職試験直前の最終準備として役立つものを・・・レディネスプログラム。
そして、この3段階を体験する中で、社会から隔絶されがちな学校という枠組みを少しでも薄くし、
外の空気に触れさせたい、
社会で活躍する生身の人間に触れさせたい、という思いが湧いてきました。
そんなことを思い浮かべながら、学校に許可を得て最終決定したのが、以下の構成(第1期)でした。
Ⅰ.チャレンジプログラム(高校1 年)~いろんな資格に挑戦してみよう~
小講座(1)「短大で学ぶということ」
1.幼稚園教諭・保育士ってなんだろう(久留米信愛女学院短期大学)
2.理学療法士・作業療法士ってなんだろう(帝京大学福岡医療技術学部)
3.栄養士・管理栄養士ってなんだろう(中村学園大学) 【以上1 学期】
小講座(2)「専門学校で学ぶということ」
4.言語聴覚士ってなんだろう(柳川リハビリテーション学院)
5.看護師ってなんだろう(聖マリア学院大学)
小講座(3)「大学で学ぶということ」(西南学院大学) 【以上2 学期】
6.高校生お仕事スタジアム(麻生専門学校グループ)
7.アクティブラーニングでキャリアを学ぶ(明光学園進路指導部)
(1)ALに慣れる(2)なぜ学ぶのか(3)働くということ 【以上3 学期】
Ⅱ.アクティブプログラム(高校2 年)~行ってみよう・やってみよう!~
1.美容・メイクの技術を体験する(福岡南美容専門学校)
2.映像・音響制作、デザインを体験する(九州安達学園グループ) 【以上1 学期】
3.調理・製菓の技術を体験する(平岡調理・製菓専門学校)
4.エアライン・ホテル・ブライダルの技術を体験する(西鉄国際ビジネスカレッジ)【以上2 学期】
5.大学生と未来を語る「ユメカツ」(株式会社リード) 【以上3 学期】
Ⅲ.レディネスプログラム(高校3 年)~進路選択と進学への準備~
1.大学と社会の実際Ⅰ(大学編)(東海大学熊本・阿蘇キャンパス)
2.大学と社会の実際Ⅱ(社会編)
(1)面接・グループディスカッション(個人講師) 【以上1 学期】
(2)文章の書き方・新聞の読み方(現役の新聞記者)
(3)社会人に聞く(男性)(明光学園後援会長)
(4)社会人に聞く(女性)(明光学園協力会員) 【以上2 学期】
2.講座は何をもたらしたか?~受講者の声から~
この講座のアンケートは毎回進路指導部でまとめて、協力いただいた上級学校へ送るようにしていますが、
講座を受けて「とてもよかった」「まあよかった」を合わせた数が毎回85%から90%を示していて、
生徒の満足度が高いことを示しています。
一方で、講義形式(座学)の満足度は、平均して70%前後にとどまっており、
やはり身体を動かす作業や実習の多い講座回の人気が高いことがわかりました。
それは裏を返せば、日々の座学による授業からの逃避に過ぎない面もあるかもしれません。
総合進学コースは2012 年度に完成年度を迎え、2013 年3 月に初めての卒業生を送り出しました。
卒業時には、「もっとも印象に残る授業はキャンパスデザインだった」、という言葉を残してくれたのは、
やはり嬉しいことでした。
2015年には、短大・専門学校(2 年課程)に進学した生徒の就職先が、追跡調査の結果、
高校在学中に志望した職種に近い形での内定率が高い、という結果となりました。
例えば、キャンパスデザインを通して、女性バーテンダーになりたいという志を立てた生徒が、
ホテル系の基礎を学ぶべく、ある専門学校に進学。
外資系の一流ホテルにいちはやく就職し、しかもバー・レストラン部門に配属になったという事例があります。
高校から上級学校へのミスマッチを防ぎ、生徒の満足度にもつながっているとみてよいのではと思います。
最近は徐々に浸透してきたとみえて、「キャンパスデザイン」があるから本学園を志望したという入学生も出ており、
とても嬉しく思っています。
3、今後の課題と展望
さて、この講座を設計した頃には、私は、「アクティブラーニング」という言葉を知りませんでした。
今次の教育パラダイムの転換に関わる、さまざまな教育改革の波が学校に伝わり、
私も影響を受ける中で、この講座の弱点が見えてきたところもあります。
それは、
(1)教科におけるアクティブラーニングを促すとともに、
(2)教室と社会の壁を薄くし(教室と社会とのトランジション)、
(3)できれば地域課題解決型PBL(Project Based Learning)にふみきるべきだった、
という点です。
進学校の元お嬢様学校のイメージの根強い本校では、体質的に社会に踏み出す勇気を、
教職員も含め、組織として持ちえませんでした。
しかし、この講座の最初のコンセプトとして、狭い教室の中から一歩踏み出し、
生身の人間(大人)と触れる機会を多く持つことを掲げたのであれば、
その逡巡をいまは越えるべきであると思っています。
成果を挙げている、数ある先進的な学校に学ぶことはもとより、
そもそも立地する大牟田市がまさに過疎指定を受けた、少子・高齢化の縮図のような街です。
炭鉱が閉山したのち、人口は減る一方で企業誘致もままならず、労働力人口も他都市へ流出していきました。
そこに気づかず、いや気づいていても見て見ぬふりをしながら、
そこに学校を営むということへの矛盾を日々感じています。
いま一つの課題は、この講座の設計と運用を、ほぼ私一人で行ってきたという事実です。
毎日のアクティブラーニング型授業で生徒にチーム作りを促していながら、
教職員がチームとして集合知を活かしてこなかったことに、やはり反省を感じています。
ただ、今年度は、総合進学コースの担任の先生方と共同して講座の見直しを始め、
大学のアクティブラーニング型授業(情報工学・統計学)の中に、生徒を入れてみようという試みを実行に移しています。
私一人では思いもつかなかった試みが実現するのを目の当たりにすると、
やはり集合知や協働することのすごさを感じます。
課題は多いですが、少しずつフィードバックによる見直し作業を進めようと思っています。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
参考資料
- 松尾龍美「地方私学と教育改革 明光学園中学高等学校のとりくみ」(『私学経営』484. 2015.6)
前川 修一(まえかわ しゅういち)
明光学園中・高等学校 進路指導部長
インタラクティブな学びの場がどうしたら実現できるか、有効かを、日本史・中学公民のAL授業や進路指導を通じ考えています。平成28年度日本私学教育研究所委託研究員。
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