2021.01.22
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教育の現状をどうやって把握していますか?

教育は印象論で語られることが多いと言われます。実際「〇〇教育の取り組みは広がっている」と言う根拠が自分の周辺で起こっていることということは少なくありません。令和元年夏、国立教育政策研究所は全国を対象としたキャリア教育の実態調査を7年ぶりに行い、その結果が令和2年3月第一次報告としてまとめられました。ここにはキャリア教育の現状が記されています。今回はキャリア教育の実態調査について書きたいと思います。

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

キャリア教育の実態調査

令和元年度におけるキャリア教育に関する実施状況と意識について調査・分析することを目的として、国立教育政策研究所は「キャリア教育に関する総合的研究」を開始しました。全国の小中高等学校から2500校をランダムに抽出し、該当する学校、担任に加えて児童・生徒にも実施するアンケート調査とその分析です。

前回の調査は平成24年度、中央教育審議会答申においてキャリア教育の新たな方向性が示されるなどキャリア教育・進路指導を取り巻く状況が大きく変わった時期に実施されました。その知見はその後の政策にも反映されています。

7年ぶりの調査となる今回は、特別活動を要に学校教育全体でキャリア教育の充実を図ることが学習指導要領に書かれたことを受けて実施されています。調査時期は令和元年の7月~10月でした。結果的にこの調査はコロナ禍前の実態を示す貴重なデータとして後世に残ることになるでしょう。

詳しい調査結果については、以下のページをご覧ください。
キャリア教育に関する総合的研究 第一次報告書(国立教育政策研究所)

進路を考える際に生徒が最も影響を受けるのは授業!

実態調査の結果は小・中・高と学校種ごとに分析されています。膨大なデータのすべてを見るのは大変ですが、高校を中心に、調査から明らかになった知見をいくつか紹介します。

まず第一にキャリア教育は全国の高校に浸透しているということです。キャリア教育の全体計画や年間指導計画を作成している高校は約80%、この数字は小学校や中学校と大きく変わりません。自分が高校生だったのは平成初期ですが、そのころとは全く違う状況があります。平成はキャリア教育が広がり浸透した時代といっても過言ではないように思います。

次に高校は小学校や中学校と比較してキャリアパスポートの実施率が高いということがあります。キャリア教育において高校での取り組みが小・中学校より早く進むのは珍しいことかもしれません。実際、実態調査の分析会議後に中学校を分析している先生から「なぜ高校はキャリアパスポートの実施率が高いのですか?」と聞かれました。この答えが大学入試改革であることは高校関係者なら容易に推測できると思います。入試の変化による教育へのインパクトがうかがえる数字です。

最後に紹介したいのは、高校での何が生徒の将来の生き方や進路を考える上で大きな影響を与えたのかということです。生徒対象アンケートの質問に「自分の将来の生き方や進路を考える上で役に立ったのはどれですか」というものがあり、日々の授業、クラブ活動、インターンシップ、講演会、先生の体験談を聞くなど28項目について役立ち度を聞いています。この28項目を「役に立った」「少しは役に立った」の合計が高い順に並べるとどうなると思いますか。

結果は「日々の授業」「進路についての相談」「進路に関する情報の入手方法とその利用の仕方」「部活動などの課外活動」「自分の個性や適性(向き・不向き)を考える学習」の順でした。キャリア教育というと、インターンシップや講演会などに焦点が当たりがちですが、実は日々の授業や生徒とのかかわりこそが重要であることを示す結果です。学校の根幹は授業であるということは、もっと強調されてもいいように思います。

実態調査をこれからの教育づくりにいかす!

ここまで見てきたように、キャリア教育の実態調査は少し見るだけでも貴重な知見が得られることがわかると思います。この調査結果をこれからの教育づくりにいかすという点で無視できないことがあります。それはホームルーム担任調査(高校)の結果です。各担任は自分なりに工夫して様々な取り組みを行おうとしていることが調査結果からわかるのですが、同時に学校内での教員のチーム作りという点での課題も浮き彫りになっています。

キャリア教育を行う上での悩みで最も多かったものは「十分な時間が確保できない」、次が「キャリア教育についての考え方・思いが教員によって差が大きい」でした。またキャリア教育を適切に行っていく上で必要なことについては「取り組みの目標や方法、育てたい力などの共通理解」「生徒が〇〇できるという具体的な目標づくり」「キャリア教育担当者に各教員が協力すること」が上位でした。つまり考え方思いや目標を共有し、教員がチームになって教育活動を行うことが重要であるということを多くの教員が感じているのです。しかしその実行はできていないことが実態調査からわかります。ここから「カリキュラムマネジメント」という言葉が頭に浮かぶ方も多いのではないでしょうか。カリキュラムマネジメントが新学習指導要領で重視されているキーワードの背景には、このような実態があるのです。

波にのまれるか、波に乗るかには大きな違いがあります。教育についても同じです。ここで少し紹介したキャリア教育の実態調査の結果を知っているかどうかは、次の教育作りの波にのまれるか、次の教育作りの波に乗るのか分かれ道になるようにさえ思います。新学習指導要領が小学校から順次実施されている今だからこそ、実態調査をもとにした文科省からの発信はしっかりと受け止めることが重要だと思いますがいかがでしょうか

キャリア教育の実態調査は令和2年3月に第一次分析が公表されましたが、7年前のことを考えると、令和3年3月あたりに第2次分析が公表され、そこではより深い分析がされると思います。その結果を待ちつつ、次の教育作りを考えるためにも、まずは現状を把握するところから始めることが重要だと思います。

お読みいただきありがとうございました。今回が2021年はじめての原稿となります。今年もよろしくお願いします。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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