2021.08.20
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これからの進路指導を考える

20日(火)19時から、「『生徒の気づきと学び』を最大化するプロジェクト、第7回ウェビナー『これからの進路指導とは?』」が行われました。ベネッセ教育総合研究所の小村俊平氏がモデレーターで、札幌藻岩高校の佐々木佑季先生、三田国際中高の大野智久先生、そして立命館宇治中学校・高校の酒井(私)という、地域も学校の状況もバラバラな人がパネリストでした。今回はこの会のレポートから、今後の進路指導について考えられたらと思います。
「『生徒の気づきと学び』を最大化するプロジェクト」は主に中学校・高等学校の有志教員が集まり、毎週行う学校教育活動に関する対話を通じて、「学校教育の革新と、生徒の気づきと学びの最大化」を目指しています。対話の参加を希望される方は、運営事務局の<ベネッセ教育総合研究所 次世代の学び研究室>まで連絡をお願いします。これまでに全国約80校以上から、先生方の参加があったそうです。

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

これからの進路指導?

これからの進路指導を考えるというときに、その前提としてこれまでの進路指導があります。それはあえて言えば高偏差値・国公立主義、偏差値的学力向上主義のようなものでしょうか。事務局の芦野恒輔さん(ベネッセ)はこれまでの進路指導から新しい進路指導への転換が必要な背景として、成長社会から成熟社会の変化を指摘されています。成長社会は勝ちパターンがあり、大人が確固たる正解を持って、「進路を指導する」が成立した。他方で、自分なりの幸せを見いだす成熟社会に勝ちパターンは無いのです。

札幌藻岩高校で今年度から進路指導主事になられた佐々木先生は、昨年度までの担任の経験も振り返りながら、「探究で“マイテーマ”を見つけ、それが進路につながった生徒を見てきた。こういうデザインもあるのだなあと思っていた。ただ進路主事になると、模試を受けていい大学(≒偏差値が高い)に進学する、COMPASS(志望校判定ツール)などで進学先を探すという従来の進路指導もあり、それも無下にはできない。早期の文理選択など限られた時間で生徒に決めさせているのも事実」と、理想と現実(“これまで”と“これから”と言えるのかもしれません)の狭間での悩みを提示されました。

学力(≒偏差値)に応じて一番いいところ(≒偏差値が高い)に行くという指導を仮に従来の指導としたときに、それは本当に古いと言ってしまっていいのでしょうか?そしてこれからの進路指導のありかたはどうあるのがいいのでしょうか。ディスカッションでは大野先生から「希望進路が分からなかったら選択肢を増やすために勉強するというのは一面の真実だと思う」「いわゆる偏差値が高いと言われる大学には、それなりの意味もある」との発言もあり、議論が白熱しました。

進路に正解はあるのか?

時代が変わっても進路指導の本質は変わらないのではないでしょうか。自分の将来を自分で決めることができる近代以降の社会において、大事なことは「希望する進路の選択肢を増やすこと」「実現可能な進路の選択肢を増やすこと」であり、教員含め、まわりの大人ができることはその支援です。自分の将来を考えたり、上級学校について調べたりすることで行きたいと思う選択肢は増えるでしょうし、学習して学力を向上させることで実現可能な選択肢は増えます。これはまさに不易とでもいうものであり、これまでもこれからも学校が取り組むことになるでしょう。

では進路に正解はあるのでしょうか?
「選んだ進路を正解にするのが大切」という発言から議論になったのがこのことでした。自分は「進路に納得はあるけど正解はない」と思っています。一方で「○○大のようなところに進学するのが正解」と思っている人もいるでしょう。モデレーターの小村さんは「進路指導に不正解はあるが、生徒の進路に不正解はない」と指摘されました。

進路に正解があるのかどうかはさておき、最終的には生徒の人生であり、選ぶのは生徒という点は共通した意見だったと思います。ただし多くの生徒は進学後の授業料は保護者に払ってもらうことになります。少なくとも保護者の承認は取らないといけません。保護者に自分の進路をきっちり説明し、理解・応援してもらうことの重要性も話題になりました。保護者として子どもの進路に興味を持ちながら最後は決断を尊重して応援するということ、生徒が保護者に納得してもらえるよう話をすること、これらはどちらも重要なことなのでしょう。「やりたいことが思うようにできないのが人生だからこそ、やりたいことは周りに理解・応援してもらうことが大切」。この視点は忘れてはいけないように思います。同時に生徒たちをサポートする私たち教員は常に「自分の思い通りにしようとしていませんか」という問いかけが必要なのでしょう。

教員のあり方は?

教員のありかた・関わり方も話題になりました。大野先生は「教員が全部知ってないといけないと思うと、進路指導はすごく大変になる」と指摘され、教員がコーチとして関わることや人につなぐことの大切さ、そして生徒のモチベーターであることの重要性を語られました。

小村さんからは生徒に関わる教員や大人のありかたとして、目の前の生徒の進路に興味を持つこと、まずは生徒に興味を持つことが前提として必要という発言がありました。この教員のありかたは探究の時の伴走に通じるように思えてなりません。本当に大切なことは共通しているのかもしれない。そんなことを感じました。

すべて終えて、自分の頭に浮かんだのは「決めれるって幸せなこと」だということです。今の社会は探究などで出会った“マイテーマ”を大学でも探究できるチャンスがあり、自分の将来を自分で決めることができます。昔の人がどんなに求めても実現しなかったことが実現しているのです。もちろん自分で決めると言いながら、様々な制約はあります。そもそも人生において自分のやりたいことを100%実現できることはありません。だからこそ自分のやりたいことを実現するために人と関わる、やりたいことができるだけの力をつけるなど様々なことが必要です。でも中世以前のような生まれた家だけで自分の生涯の仕事(や身分)が決まる社会ではありません。

決めれるのは難しいけど幸せなことだからこそ、生徒はもちろん、生徒に関わる私たちも「○○せねばならない」ではなく、「○○できたらいいな、○○したいな」というマインドを持つことが重要なのだろうと思いました。もしかしたらそれは小村さんが言われる「不安や恐怖をベースとしたマネジメントからの脱却」に通じるのかもしれません。みなさんはどう思われますか?

ほかにも興味深いテーマ満載の濃い90分を過ごし、変わるもの変わらないものが見えてきたような時間でした。トークライブの様子は後日記事なり公開される予定です。またよろしければご覧ください。

そして「これからの進路指導」がまだまだ探究する価値のあるテーマであることは間違いありません。芦野さんも書かれていましたが、良い進路選択の支援とは?その支援をするための学校とは?分掌とは?教員、民間業者、コンテンツ、情報とは?など疑問は尽きません。また深める機会があればと思います。

お読みいただきありがとうございました。引き続きよろしくお願いします。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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