2022.03.10
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地方の保育職の現状

地方の保育職の現状について書いていますが、保育者不足は全国的な問題です。
教育者だけでなく行政の方にも読んでほしいです。

旭川市立大学短期大学部 准教授 赤堀 達也

はじめに

私は北海道に来て3年が経とうとしています。そんな力になれそうにない私にも、地方の保育現場から助けを求める声が届きます。
今回お伝えすることは北海道に限ったことではなく、全国的な問題です。そんな切実な声を皆様にも共有させていただき、生徒たちを教育していく際に念頭に置いていただけたらと思います。

人口が少ない地域が抱える保育者不足

私は現在、北海道第二の都市といわれる旭川の保育者養成校に勤めています。ここの学校には、地元はもちろんのこと、北は稚内、東は網走まで道北・道東の学生が集まってきます。
就職の際には学校近隣への就職が多いですが、地元に戻る学生も多いです。人口の少ない地域となると、地域に帰るケースもありますが、旭川に残って就職してしまうケースも多々あります。
ただ間違いなく言えることは、他地域出身の学生が人口の少ない地域に行くことはほんとに稀です。これまで数校の保育者養成校に所属してきましたが、このことはどこの都道府県でも、どこの保育者養成校でも同じことが言えます。

そのため、どの都道府県においても、人口が少ない地域においては、地元の小中高校生にむけて保育者を養成する仕掛けのある学校活動をすることが大変重要になります。
そうしないと地域の若い親は働くことができず、経済が回らなくなり、ますます衰退に向かってしまいます。また、若い親はその地域を出ていく選択も考えるようになってしまいます。
つまり地域の保育者養成に対する考え方は、地域経済の根底となるものです。町や村をあげたプロジェクトとして考えないと、遅かれ早かれ、保育から地域が破綻します。それではどのような仕掛けを考えたらいいのでしょうか。

行政と学校活動の観点から捉える必要があると思っています。ちなみにキャリア教育として行うと、一つに偏った取り組みとなってしまうため相応しくありません。しかし保育職は他の職業とは同列ではありません。その理由のため、学校活動として捉えることが必要だと思っています。

行政としての事例

まずは行政の観点からです。あるデータによると、小学生・中学生までは保育者に興味がある子どもが多いようです。しかし高校になると別の進路を考えるようになるそうです。
この一因として考えられるのは、保育者の給与の安さです。過去に、人口が少ない地域の公務員保育者の求人を見たことがあります。正職であるのに基本給が14万円台からスタートしていました。他の手当がどのくらい付くかはわかりません。また人口減による様々な事情があることも分かります。
その学生の人生を考えると、勧めはしたものの、心の底からはできませんでした。国家資格を必要とする職であるのに…と考えてしまいます。以前よりも改善されては来ていますが、更なる待遇改善は絶対条件です。

保育者の大切さに気付いている町や村では、高校生の頃から奨学金を出したり、就職したら返済免除をしたりする金制度を設けている地域もあります。
また外から就職したいという人のために経済的な支援をする制度を作っているところもあります。しかしそこまでしていてもなかなか外から人は来ず、かなり厳しい現状があります。

学校活動としての事例

学校活動にも手を付ける必要があります。前述したように、地元ではない学生が、人口が少ない地域に就職したいと思うことはほとんどありません。そのため地元地域で「保育者になりたい」と思うような学校活動の仕掛けが必要になります。

それは中学・高校でも保育園と交流をすることに他なりません。中学生や高校生は受験があるからという声もあるため、中学2年生後半~中学3年生で行うことは難しいかもしれません。
しかし前述したように、高校になると保育者の希望が減少するというデータからすると、高校1年次の学校活動は必須となります。

例えば、農業高校などでは、一緒に田植えをしたり、お芋掘り体験をしたりして交流しています。本来なら保育者が全員の子どもに目を向けて危険がないか神経を尖らせなければならない活動ですが、お兄さんお姉さんがついてくれることで、保育者の負担もかなり変わります。
また子育てサロンのようなものを学校で行っているところもあるようです。何かの発表会を同じ日に同じ場所で行うのもいいでしょう。

また愛郷心が育っていくような取り組みにも大事です。前述したような体験活動は愛郷心・愛校心につながりやすい活動でもあります。加えて園長先生などが地域の保育の切実な現状を伝えることのできる場を設定することも必要だと思います。

最後に

ただ、大学(4年間)や専門学校(3年間)の間に都会に興味を持ち、帰って来ないことも十分にあり得ます。最近は2年制の短大にあまり目が向かない傾向にあり、定員削減をしている学校も多いです。
しかし入学1年半後には就職活動が始まる短大は、地元地域への熱い想いを抱いたまま就職活動に挑めるという利点があり、また行政の奨学金負担も軽減できることもあり、必要性を感じています。

また短大だけでなく、全体として保育職を希望する生徒が減少しています。昨年とある大都市のほぼ全ての保育者養成校において、前年度の人数を下回ったと聞きました。人口が少ない地域だけでなく、全国的な問題として考えていってほしいと思います。

もしかしたら高校の先生方は、短大よりも四大志向かもしれません。決して生徒の意見を捻じ曲げてもそうしてくれという意味ではなく、このような現状だけでも知っておいてほしいと思っています。

赤堀 達也(あかほり たつや)

旭川市立大学短期大学部 准教授・北海道教育大学旭川校女子バスケットボールヘッドコーチ
これまで幼児・小学生・中学生・高校生・大学生と全年代の体育・スポーツ・部活動指導してきた経験から、子どもの神経に着目したスポーツパフォーマンス向上を図る研究を行う。

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