2024.12.17
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ダブルリミテッドという言葉をご存知ですか?

ダブルリミテッドという言葉をご存知ですか?
私は、外国につながる子どもや日本語指導について勉強していた時に、ダブルリミテッドについて学びました。
今回は、外国につながる子どもへの支援の視点を増やせればと思い、こちらについて書くことにしました。

仙台市公立小学校 教諭 齋藤 祐佳

外国につながる児童生徒

近年、外国から来日し日本に住む外国人が増えたことに伴い、外国籍、日本国籍に関わらず、外国につながる児童生徒が増加しています。
そのような児童生徒は、母語の習得が不十分な状態で来日し、そのまま日本語指導を受ける(第二言語を習得する)ことも多いです(ちなみに現状では、外国人児童生徒に対する日本語指導体制も十分ではありませんが、その問題については別の記事でまとめたいと思います)。

すべての児童生徒に当てはまるわけではありませんが、年齢が低い児童ほど、母語の習得が不十分な状態で第二言語の習得に臨むこととなります。
そのような児童は特に、ダブルリミテッドの危険があります。

ダブルリミテッドとは
ダブルリミテッドとは、「二言語とも十分に発達していない状態」を指します。(NPO法人にわとりの会)

ダブルリミテッドでどのような問題が生じるのか

では、ダブルリミテッドの問題とは、どのようなことでしょうか。
それは、母語の習得が十分でないうえに、第二言語の習得も十分でないことで、学習や思考の発達が遅れることです。

私は学生の時に、外国につながる児童の日本語指導のボランティアやアルバイトをしていました。そこで、日本語での日常会話ができても、学習言語が身に付いていないゆえに、学習内容の理解に困難を抱える児童生徒を多く見てきました。

例えば、算数。計算式が示されれば計算はできるものの、「垂直」や「平行」「底面」などの算数用語を知らない、あるいは、分からないために問題が解けない。よって、円柱の体積を求める問題で、教科書に公式(円柱の体積=底面積×高さ)が書いてあっても、「底」「面」という漢字が読めても書けても、「底面」「底面積」の意味がわからないために公式の内容を理解できない、といったことがありました。
また、底面とは何を指すのか、面積とはそもそも何を指すのか、を教えることから始めることもありました。

二言語とも十分に発達していないと、思考する際にも悪影響があります。
人は文章を読んだり書いたり、話したり聞いたりするときに言葉を使うだけでなく、考えるときにも言葉を使っています。そのため、思考する際の言語が発達していなければ、抽象的な思考や自分自身の考えをまとめることが非常に困難になります。

日本語指導では、日本語を書けるように、読めるように…と「日本語を教えること」に一生懸命になってしまいがちですが、人は考えるときにも言葉を使っている、ということを忘れてはいけないと感じます。つまり、外国から来た児童に日本語を教えることだけが必要なのではなく、児童生徒が考えるときに必要となる母語も同時に発達させていかなければ、抽象的な思考をすること自体が難しくなります。

母語教育の重要性

外国につながる児童生徒は、来日した時期は異なっていても、どの子も様々なことを吸収し、思考も発達する年齢の子どもたちです。日本語指導をするだけでなく、子どもが思考する際に使う母語も大切にすることが必要です。
しかし、母語を教えることができる人材は学校に十分に配置されていないのが現状です。外国につながる児童生徒の出身国は年々多様化しており、フィリピン、インドネシア、ブラジルなど様々です。

さらに学校現場では、フィリピノ語、中国語、ポルトガル語、スペイン語など多様な言語を習得している教員はほぼいません。外部の人材を活用することが望ましいですが、その人材の確保や配置の実現は容易ではないというのが私の実感です。

学校以外で、どの言語を使っているかも確かめて

外国につながる児童は、家の外では日本語を使っていても「家では母語を使う」「日本語も母語も両方使う」「母親には母語、父親には日本語を使う」など各家庭によって差があります。
子どもの両親ともに外国人、母親父親どちらかのみ外国人、もう一方は日本人など家族も様々です。日本語指導をする前に、子どもが学校以外でどの言語をどの程度使っているか、使えているかを把握することも重要です。

ダブルリミテッドを見逃さないで

会話がある程度できることから、日本語を習得していると捉えてしまいがちですが、実際にはダブルリミテッドになっている児童生徒がいます。
日本語指導にあたっている教員の方や、学校に外国につながる児童生徒がいる先生方は、ぜひダブルリミテッドの問題についても関心を持っていただければ幸いです。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

齋藤 祐佳(さいとう ゆか)

仙台市公立小学校 教諭


公立小学校にて勤務しながら、よりよい教育を模索している。
宮城教育大学教職大学院にてp4c(子どもの哲学対話)を研究し、現在は心理的安全性を高める学級経営、子どもと対話し考えを深める道徳教育に生かす。
『初任者教師のスタプロ ハッピー学級経営編』(東洋館出版)にてコラムを執筆。
note(https://note.com/haru_kaneko)では、子どもとの日々をありのままに綴っている。
日本教育心理学会所属。

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