2026.03.31
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東日本大震災を題材にした授業実践(6) 命と家族の学びをハト風船に託す(さいたま市立植竹小学校 教諭 菊池 健一さん)

東日本大震災を題材にした授業について、さいたま市立植竹小学校教諭の菊池健一さんが、全6回にわたって連載します。震災から年月が経つ中で、記憶の風化が指摘される一方、学校教育において、命の大切さや日常の尊さを伝えることの重要性は今も変わりません。低学年の子どもたちが震災を自分事として受け止めていく学びの過程を、授業実践を通して報告します。
今年度の震災をテーマにした授業実践の締めくくりとして、低学年の子どもたちが「命」「家族」という身近な題材を通して震災を自分事として捉え、学んだことをハト風船のメッセージに託した実践を紹介します。

これまでの学びで震災を自分事として捉える

ハト型の風船にメッセージを書く

これまで、道徳や生活科の学習と関連付けて震災について学んできました。子どもたちは震災を自分事として捉え、さまざまなことに関心を向けるようになりました。まだ低学年なので、これから学年が進むにつれて、震災のことを見聞きしたり、各教科の授業でも扱われたりするようになります。きっとその際に、よい学びにする素地ができたのではないかと思っています。

これまでに子どもたちが震災について学んで成長したことは、大きく二つあると思っています。一つは、自分の命を見つめるようになってきたことです。普段何気なく生活をしていると、命について考えるということはあまりありません。しかし、今回は道徳の授業を通じて、自分のお父さんやお母さんの気持ちを知り、自分の命が本当に大切なものだと実感できました。また、お話を聞いた石巻市の佐藤美香さん(日和幼稚園遺族有志の会代表)は「当たり前は当たり前ではない」とおっしゃいました。震災の時には「行ってきます!」と言ったままお別れになってしまった人もたくさんいることを学びました。本当に今生きていることは素晴らしいと感じることができました。

また、子どもたちが実感したのが、家族のすばらしさです。普段は、そこに家族がいるのが当たり前になってしまいます。しかし、自分の近くに、自分のことを大切に思ってくれる家族がいることの大切さを、この取組を通して実感できました。家族から自分が生まれた時の気持ちを聞く活動も取り入れ、自分がどれだけ愛されて生まれてきたかを理解できました。

今回の学びをこれからの人生に生かしてほしい。そう思いながら今年度最後の活動に臨むことにしました。

閖上のハト風船に託した子どもたちの思い

子どもたちの思いを込めたハト風船

毎年、私の学級では、震災を取り上げた授業を行った後に取り組んでいることがあります。それは「ハト風船」へのメッセージ書き。宮城県名取市閖上(ゆりあげ)にある伝承施設「閖上の記憶」では、毎年3月11日に追悼式が行われ、そこで全国から寄せられたメッセージが書かれたハト風船を飛ばす催しが行われます。

私も一昨年はちょうど休日と重なったため、追悼式に参加し、クラスのこどもたちとメッセージを書いたハト風船を飛ばしました。その時には、当日の被災地の様子をこの目で見ることができ、被災地の方々の思いに心を寄せることができました。私にとってもよい経験であり、学びの場になりました。今年は残念ながら追悼式当日が平日のため、式典には参加できません。そこで、子どもたちと心を込めてメッセージを書き、閖上の記憶の方にハト風船を飛ばしてもらうことにしました。

「これまで震災について、家族について、命について…いろんなことを考えてきましたね。そこで学んだことや考えたことをメッセージとしてハト風船に書いて、3月11日に飛ばしてもらいましょう」

そう投げかけて、ハト風船を子どもたちに見せました。子どもたちは思い思いにメッセージを書いていきました。メッセージには以下のようなものがありました。

「たった一つしかない命だから、ずっと大切にしていきます」
「今と次がつながっている。だから今を大切にします」
「自分の命も家族の命も守れるようにしていきます」

子どもたちの心のこもったメッセージが書かれたハト風船。閖上で飛ばされる様子を動画で視聴しようと思います。子どもたちには機会があったら、閖上の町を訪ねてほしいと感じました。
子どもたちの思いが被災地の方々、そして全国の皆さんに届いてほしいと思います。

「閖上の空を高く高く飛び立ってね」

そんな思いで、ハト風船を閖上に送りました。子どもたちの思いを乗せたハト風船が閖上の空に羽ばたいてくれることを願っています。

低学年で震災をどう伝えるか考えた実践

津波復興祈念資料館 閖上の記憶

今回は久しぶりに低学年での実践となりました。震災について子どもたちにどう教えたらよいか、どんな授業にしたらよいかと悩みましたが、「命」「家族」という子どもたちに最も身近なことを題材としたことで、子どもたちが震災を自分事として捉えられるようになってきたと感じています。

東日本大震災の記憶の風化…そんなことが言われるようになって久しいですが、絶対に忘れてはいけないこと、そして子どもたちに伝えなければならないことがたくさんあります。私自身、これからも被災地を訪れ、さまざまなことを学んでいきたいと思います。そして、子どもたちへの授業に生かしていきたいと考えています。担当した子どもたちがいつか、被災地を訪れて、今回学習したことを思い出してくれたらうれしく思います。

文・写真:菊池健一

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