2023.08.31
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北海道と熱中症

北海道で小学2年生の女子児童がグラウンドで体育の授業の後、体育館で亡くなってしまいました。あってはならないものです。ただ北海道の場合、原因は教育組織全体で考える必要があります。それは急激な気候の変化と、熱が籠りやすい施設の構造のためです。私自身も体験したため身をもって怖さを感じました。次が起きる前に気づいてほしいと思っています。

旭川市立大学短期大学部 准教授 赤堀 達也

はじめに

2023年8月22日、北海道伊達市で小学校2年生の女子児童が体育の授業の後、熱中症で亡くなってしまいました。絶対にあってはならないことで、あまりに残念でなりません。本人はさぞつらかったと思います。ご冥福をお祈り申し上げます。

暑さ指数の確認不足ということはあったようですが、他のところにも問題があるように思っており、北海道の教育組織全体として考えていく必要がありそうです。

今後このような悲しいことが起きないよう、本州から移住し、北海道旭川市で教鞭をとって5年目となる私の所見を述べさせていただきます。

北海道の現状1~気温の変化~

表 北海道旭川市の7月8月の最高気(※2023年については8月23日現在)

私は2019年4月に現在の学校に勤務し始めました。そしてその年に初めて7月8月を迎えて思ったことは「夏が暑い」ということです。5年以上前のことはわからないので推測も入りますが「夏が暑くなってきた」という方が正解かもしれません。本州出身である私の感覚では「北海道は避暑地で、夏でも涼しい」という感覚でしたが、現在は「そういう時もある」のが実際のようです。7月8月でも最低気温が15度を下回り肌寒い時もありますが、真夏日や時には猛暑日もあり暑いです。長く地元に住んでいる方々とお話しすると「暑い時期は1週間くらい」「お盆過ぎたら涼しくなる」と言われます。表をみても2010年代まではそれでほぼ間違いありませんでした。北海道ではお盆が過ぎたら、すぐに2学期がはじまっていきますが、その頃までには完全に暑さは終わり涼しくなるため、1週間から10日間くらい先生たちが耐えればいいだけでした。そのためその頃は冷房が学校にも一般家庭にもほぼなかったようです。しかし2020年代に入り、明らかに気候が変わってきました。涼しいはずのお盆明けは真夏日だけでなく猛暑日が現れてきているのが現状です。

北海道の現状2~施設の構造~

現在、私の研究室には一台窓クーラーをつけています。設置する前には冷房がなかったため室内は39度となっていました。窓クーラーを自費で取り付けましたが、それでも日中は30度を優に超えます。私の部屋が3階で南向きという条件もありますが、多分冬に熱を貯め込めるような構造になっていると思われます。簡単なクーラーでは意味がありません。

記事の話に戻り、体育をしていた場所はグラウンドですが、倒れていた場所は授業後の体育館だそうです。北海道の体育館も作りが少し特殊なようで、多分冬の雪の重さに耐えられるよう強く作っているためだと思いますが、窓や扉が少ないです。そのため風がほとんど抜けず、熱が籠ります。私が住んでいた静岡や神奈川の体育館では、フロアにもそれなりの数の扉があり、2階にも上がりやすくなっていて、2階の窓を開け閉めできるようになっていました。しかし北海道ではフロアに扉が少なく(校舎とつながっていることが多い)、2階には上がりにくく窓を開けづらい構造になっているところが多いようです。そのため冬は暖かいですが、夏だと熱は逃げずに籠ってしまい2020年代以降だと気温が上昇し過ぎてしまうようです。

北海道の現状3~人の経験値~

これまでこのような暑さがなかったため、慣れていません。体が慣れていないということだけでなく、対処に慣れていないということもあります。「道民は暑さに慣れていないことを自覚して防衛した方がいい」という意見があります。もちろんその通りではありますが、そもそも慣れていないだけでなく分からないこともあるので、その注意喚起だけでは解決できず、年月を積み重ねていく必要があります。

北海道の教育組織の問題として捉える必要性

熱中症にさせないことはもちろん大切ですが、もし体調が悪く熱中症になりかけた時に、クーラーがなく熱が籠る施設となっているため、涼しい場所がなく回復させることができません。この話は熱中症の知識もあり、対処の経験も何度もある体育教員である私の話です。その日、熱中症アラートは出ていませんでしたが、少し暑い日でした。朝方から調子が良くなかったようですが、体育をしたくて参加してしまったようです。準備運動開始10分ちょっとで水分休憩を取りましたが、その際に体調の変化にいち早く気づき対処しました。しかし涼しい場所がなく、なかなか回復せずむしろ悪くなるため、前記の理由からこの場所では回復させるのが難しいと判断し、救急車を呼ぶことにした苦い過去があります。幸い次の日には回復して登校していましたが、熱中症で救急車を呼ばなくてはならない状況になったのは初めてでした。「こんなに素早く気づいて、しっかり対処できたのに…」という思いで、恐怖を感じました。

結論として、このように見ていくと熱中症アラートが出ていなくても、北海道の場合には体育の授業を完全にストップさせる必要が出てきます。しかしその代替授業については用意されていないと思われるため、その準備を0から作っていくことになります。

そもそもこのような性質の施設であるため、この気候変化では冷房がつけられないと今後、通常の勉強時でも熱中症になる可能性があります。そして熱中症になりかけてしまったら回復させられません。そうなると「この暑さなのにお盆明けから2学期を開始して子どもたちが安全に勉強できるのか」という論争にもなっていきます。北海道は寒さや積雪のため、年末年始にある冬休みを長くしていますが、そことの兼ね合いも考え直す必要があり、かなり大きな改変が必要となってくる可能性があります。

最後に

このような悲しい出来事を二度と起きないようにしなくてはなりません。ただこのままでは今後も起きてしまう可能性が否めません。どうか次が起きる前に考えていただけたらと思います。

赤堀 達也(あかほり たつや)

旭川市立大学短期大学部 准教授・北海道教育大学旭川校女子バスケットボールヘッドコーチ
これまで幼児・小学生・中学生・高校生・大学生と全年代の体育・スポーツ・部活動指導してきた経験から、子どもの神経に着目したスポーツパフォーマンス向上を図る研究を行う。

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