2023.07.26
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「Xだった状態をYに変える」指導が私たちの指導をよりよく変える

私たちが普段使っている「指導」という言葉があります。皆さんは「指導」とはどんなことをするものだと思いますか?私は、「子どものXだった状態をYに変える」ことが指導だと考えています。今回、水泳の指導を通して、私が改めて感じた「指導」についてお伝えしたいと思います。

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭 神保 勇児

ある日の海での水泳の指導

本校では先日まで臨海学校をしていました。その時、私は子どもたちの泳ぎ方を見て「スイミングの泳ぎ方では、40分の遠泳は難しいな」と思っていました。どういう泳ぎ方かというと、息継ぎをするときに顎を引いて頭を水面に潜らせるのです。一般的な平泳ぎの息継ぎの方法です。子どもたちは臨海の遠泳に向けて、自主的にスイミングで平泳ぎを習っています。これまでのスイミングでの練習をしっかり続けたからこそ、身についた泳ぎ方なのです。

しかし、先輩の先生は子どもたちの泳ぎ方を見て、「その泳ぎ方では40分という長い時間を泳ぐことが難しくなります。なので、省エネの泳ぎ方をしましょう」と言いました。そして、子どもたちには「顎をひかないで泳ぎます」と伝えて、子どもたちの目の前でお手本の平泳ぎを見せました。まず、顔をつけたときは、水面から常に頭が出ている状態を保ちます。目線は前に向いています。次に、息継ぎをするときは、顎をひかずに静かに顔を上げて呼吸をします。最後に、呼吸をした後は、スッと体を伸ばし、音を立てずに水の上を滑らかに進んでいました。「あっ!」という子どもたちの声。先輩の先生の指導により、子どもたちの中で何かがつながったようでした。私は、先輩の先生の指導を見てハッとしました。

先輩の先生は、お手本を見せ終わった後、実際に子どもたちに泳がせてみました。すると、どうでしょう。先ほどまでスイミングのような泳ぎ方だった子どもたちが、先ほどのお手本と同じような泳ぎ方を一斉にできるようになったのです。私はこの時に、指導とはこういうものだと感じました。先輩の先生はわずかな声かけをして、お手本を見せて、スイミングの泳ぎ方を遠泳の泳ぎ方に変えたわけです。

「Xだった状態をYに変える」とは

岩下修先生の『AさせたいならBと言え: 心を動かす言葉の原則』という有名な本があります。この本では、先生のBという言葉で、子どもをXからY(この本でいう理想的なAという姿)という状態に変化させることをねらいとしています。特徴的なのは、直接的な言い方をしないことです。今回、私が見た先輩の水泳の指導でも、「水面から常に頭が出ている状態にするよ」という岩下先生のような声かけがありました。

実は、子どもたちはXという状態を良かれと思ってやっている場合もあります。それが、今回でいうスイミングで習った平泳ぎです。でも、スイミングで習った平泳ぎは遠泳には向いていない。子どもたちは、そのことに気付いていないのです。ひょっとしたら、わかっているつもりになっているのかもしれません。

なぜなら、スイミングの泳ぎ方で海を遠泳すると、子どもの体力は著しく奪われ、40分も泳げないことが多いからです。ですから私たちは、子どもたちに海で遠泳の泳ぎ方を教えなければなりません。学校での水泳の学習から、私は「スイミングで習った泳ぎ方は、遠泳の泳ぎ方とは違うよ」ということは伝えてきました。しかし、スイミングで習った泳ぎ方の代わりに、遠泳の泳ぎ方をきちんと教えられていませんでした。原因は、私が頭の中にイメージしている泳ぎ方を、子どもに正確に伝えられていかなったからだと思います。「水面から頭が出ている状態にするよ」という誰でも伝えることのできる言葉、子どもにも理解しやすい言葉を大切にしていく指導の大切さを改めて学んだ1日になりました。

今回の話題である指導の考え方は、他の教科の指導にも役立ちます。つまり、子どもたちのよかれと思ってやっている事に気づかせ、「その代わりにこうしましょう」ということを言葉で表現するのです。「水面から常に頭が出ている状態にするよ」「伏し浮き連続呼吸を5回するよ」など、具体的な行動や回数を示すと、子どもにより伝わりやすくなります。そして、その指導を継続していくことによって、子どもたちのXだった状態をYに変化するのです。夏休み明けから、子どもたちに各教科で様々な指導すると思います。その時にこの話題を思い出していただければ幸いです。

今回のお話はいかがでしたか?この内容は、授業スキルアップ研究会でも扱っています。また、授業に関する内容は、『子供がなぜか話したくなる 算数ファシリテーション入門』(東洋館出版社)や『学び合いコーディネートスキル60』(明治図書)もぜひ参考にしてみてください。

神保 勇児(じんぼ ゆうじ)

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭


2020年度はコロナウィルスでの休校期間でオンライン授業を多く行うことがありました。その時に得た、オンラインでも使える問題の見つけ方、子供の自力解決の見取り方、つぶやきの拾い方、発表検討のさせ方など紹介していきます。
「jimbochanのブログ」https://jimbochan.hatenablog.com/

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