2023.07.21
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教育現場の職場環境

短大教員であることから卒業生の結婚・出産の話をよく耳にします。そこから聞こえる教育現場の職場環境がなかなか改善されていないことを感じています。長時間労働を見直すだけでなく、産休・育休などに対しても同時に考えていくべきです。

旭川市立大学短期大学部 准教授 赤堀 達也

はじめに

現在、教員の長時間労働に対し本格的に改革しようと進められようとしています。その一つとして、中学校部活動の地域移行があげられます。職場としての教育現場が大きく変わっていくことになります。今回は教育現場の職場改善に対する上の立場の方々への要望をお伝えしたいと思います。

日本の教員の労働時間の現状

欧米を中心とした先進国で組織されるOECD(経済協力開発機構)では、2018年に国際教員指導環境調査(TALIS)が行われ、2019年に調査結果として「日本の教員の労働時間は週56時間となっており、最長となっている」と報告されました。これは2013年の報告よりも2時間ほど多く、教員の長時間労働を改善していこうとするのと逆行したものでした。しかもこれは日本の法律である労働基準法第32条によって定められている「1週間の労働時間は40時間」に抵触するものです。いわゆる「過労死レベル」です。子どもたちを指導すべき立場にある人間が、日常的に法律を破っている現状があります。このような状況を間近で見ている子どもたちに与える影響を真剣に考えていくべきではないでしょうか。

長時間労働だけではない本質的な問題点「産休・育休」

教員の職場環境の改善は何も長時間労働に限りません。短大教員という立場上、卒業生が結婚して家庭を持ち出産するという話が多く聞くことができます。つい最近も教え子が結婚したとおめでたい話をききました。その時「職場結婚したが夫婦で育休を取らせていただいた」と報告を受け、とても嬉しい限りです。

一方で次のような話も耳に入ってきています。「妊娠の報告をしたら上の人に嫌な顔され嫌味を言われた」「産休を取ろうとしたら辞めるよう促された」「先輩方を待ってから妊娠を考えなくてはならない雰囲気がある」「育休中なのに復帰する前に挨拶回りをするよう指導された」このご時世で信じられない話ですが、最近聞いた本当の話です。

本来であれば教育現場が率先して、未来の子育て世代にその姿勢を示していかなくてはならないはずなのですが…

世界における日本の現状

合計特殊出生率という指標があります。これは「一人の女性が生涯を通じて子どもを産む人数」のことです。2023年の最新データですと、日本は1.39です。この値は227ヶ国中215位と世界でも最低水準であります。G7先進7ヶ国を見ても、イタリアに次いで低い数値です。職場としての教育現場の産休・育休に対する考え方が影響しているのかはわかりませんが、このような現状があるのが実情です。

18歳から25歳のZ世代を対象に調査したところ、「お金の問題以外」で子どもがほしくない理由の50%以上が「育てる自信がない」という結果でした。わかる気がします。

最後に

アフリカのことわざに「子ども一人育てるには村一つが必要」といった内容のものがあるようです。日本では核家族化が進み、子育てに悩み苦しむ家庭が増えています。日本の子育てに対する意識は子どもたちへの教育も必要ですが、教育現場の職場環境から実践していく必要があると思っています。

先に述べたOECDのTALISの調査は5年に1度のペースで行われています。通常通りであれば今年が調査の年となります。もしかしたら長時間労働という点では改善できているかもしれません。しかし本質やマインドが変わってほしいのです。理解ある上の方々も多くおられます。

上にいる方々にお願いです。上にいるのではなく前にいてほしいです。そして後進の教員ががんばれる職場を作っていただけたら幸いです。教員志望の学生が再び増えることを祈っています。

赤堀 達也(あかほり たつや)

旭川市立大学短期大学部 准教授・北海道教育大学旭川校女子バスケットボールヘッドコーチ
これまで幼児・小学生・中学生・高校生・大学生と全年代の体育・スポーツ・部活動指導してきた経験から、子どもの神経に着目したスポーツパフォーマンス向上を図る研究を行う。

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