2023.06.22
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未来を描く力

来年度からの教員採用試験を6月に前倒しにして行うよう文部科学省が都道府県に要請したと聞いた。今年から大学3年生でも教員採用試験が受けられるようになった自治体もある。企業に人材をとられないようにということが要因らしいが、ポイントがずれているように思う。時期を早めるような小手先ではなく、根本的に教師という仕事について国民が考える時が来ている。本当はもっと前から予測して対処すべきことだったが、今になって慌てて小手先の対策をとっているとしか思えない。どんな国の在り方を描くのか、教員養成の立場から思うことを述べる。

大阪大谷大学 教育学部 教授 今宮 信吾

教師不足の原因を探る

教員不足になっている原因を単純化して考えてみると、「結婚しない」→「子どもが増えない」→「教員の数が必要でなくなる」→「学校が少なくなる」ということだろうが、この問題にはまだまだ複雑な原因がある。「結婚しない」ということを議論しようとすると、そもそも婚姻制度が正しいのかという議論になる。「子どもが増えない」についても、子どもを産まなければいけないのか、そもそも産めない人はどうするのかということになる。
卒業した学生が長い間付き合っている人と結婚したいという相談を受けた。しかし、思い切れない点がいくつかあるという。まずは、お金の問題である。結婚を考えている二人は、共に教員をしている。しかし、大学時代に借りた奨学金が多額にあり、それが結婚することで返済が2倍になる。二人共収入があるとは言え、子どもが生まれて、家を購入し、自動車も購入しなど支出する金額を考えると、生活ができるのかという不安があると相談してくれた。

社会の要請に応えられる教師

Society 5.0とは/内閣府

2021年1月16日に「令和の日本型学校教育」に象徴される中央教育審議会答申が出された。生成型AIが登場し、未来の社会の在り方も少しずつ見えてきたように思える。人間の仕事をAIが取って代わるのではないかという危惧も懸念されている。
それとは反対に少子化の問題や不況の問題などから政府は子育て支援を打ち出してきた。人口が1億を切る時代は既にそこまで来ている。遅いと思う政策だが何もしないよりはいいのかもしれない。ただ、見通しが全く見えない。教育の世界ではGIGAスクール構想といい、マイナンバーカードの不祥事ではまだまだsociety5.0の時代は来ないかと思わせる。本当に「答えのない時代」を生きているという実感だけはある。

教師の魅力が伝わらない

メディアでは教師という仕事がBLACKであるという報道がされる。そして残念ながら不祥事も報道される。しかし、本当に教師という仕事はBLACKなのか。コロナ禍を経て学校の役割については再考された。学校に行かなくてもいいという選択肢も増えた。会議も遠隔でできるようになった。それではなぜ学校だけがBLACKと言われ続けるのか。それは教師の信頼を取り戻せていないからだろう。かつては一歩下がって師の影を踏まずとも言われた。人間と人間がふれあい、人生全体に関われる素晴らしい仕事である。
採用試験の面接で「なぜ小学校教員を希望したのですか」という問いかけに「子どもの“初めて”と多く出会える職業だからです」と答えるようにすすめている。小学校現場で勤めている際に保護者からよく言われたことばである。「親である私より先に初めてできたことを目撃できて、先生ってずるいな」こんなことばに出会えるいい仕事である。

AIによって生み出される価値

Society 5.0で実現する社会/内閣府

AIが教師に代わって授業を行うということが話題にのぼることがある。確かにそういう時代が来ることも予想できるが、本当にそうなるのかということについては、まだまだ解決しなければいけない課題があると思う。AIにだけ育てられた子どもはどんなふうに育つのだろうか。先日、小学校英語の研究授業を参観した。その際に、参観している多くの先生方が子どもたちを手伝っていた。研究授業で他の先生方の手が入ることは望ましいことではないが、その姿を見て、将来はAIが補助的に指導に入ってくれるのではないかと思った。個別最適な学びを実現するためには必要なことである。

今年も各地で採用試験が始まった。受験者数は軒並み減少している。未来を描く力を教師として身につけ、幸せな教師のライフヒストリーを創り上げていってほしい。

今宮 信吾(いまみや しんご)

大阪大谷大学 教育学部 教授


国公私立の小学校で教員を経験し、現在未来の教師を育てるために教員養成に携わっています。国語教育を核として、学級づくり、道徳教育など校内研究にも携わらせていただいております。ことば学びのできる教師と学校づくりを目指しております。

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