国公立大学と大学スポーツ~20年前にも感じた課題~
20年ぶりに国公立大学の大学スポーツ(部活動)に携わりました。この20年間変わっていない国公立の大学スポーツの課題についてお伝えします。
旭川市立大学短期大学部 准教授 赤堀 達也
はじめに
私は現在、旭川市立大学短期大学部に所属しながら、近隣の北海道教育大学旭川校で女子バスケットボール部のコーチをしています。今年1月末から指揮を執り4ヶ月が経ったところです。20年ぶりに国公立の大学スポーツの指導の世界に戻ってきました。
そこで感じたのは、国公立大学にはこの20年間変わらぬ課題があるように思います。つまり国公立の大学スポーツにはそのような視点を持ち合わせていないと感じています。
この課題を改善していくことにより国公立の大学スポーツの可能性が広がっていきます。今回はそのような内容についてお伝えしたいと思います。
私たちの部の現状
私たちの部では現在、マネージャーを含め、4年生4人・3年生3人・2年生7人・1年生5人の合計19名で活動しています。小学校・中学・高校時に全国大会出場経験を持つ選手も若干名おりますが、高校時代やっていなかった・高校では1回戦負けだったという選手が多く在籍し、その選手達も主力として活躍しています。そのような様々なレベルの選手が在籍しているチームですが、全国大会出場を目標に努力しているとても爽やかな選手達です。
昨年度までは指導者がおらず、北海道のベスト4クラスの上位校と対戦しても全く歯が立ちませんでした。30-110といったような60~80点差の100点ゲームのダブルスコア以上で負けていたようです。
方向性を決めチームが一丸となれるように取り組んだところ、飛躍的な成長を見せています。5月頭の新人戦と、5月末から行われた春期大会では、北海道ベスト4の強化私立大学と4戦し、負けはしたものの59-110・72-106・64-84・81-103とこの短期間でぐんぐんと成長し、確実に背中が見えてきている状況です。
国公立の大学スポーツでがんばっている学生の資質
実のところ、指導して4ヶ月は経ってはいますが、1年生の入部に合わせて内容を振り出しに戻したこともあり、実質の進捗は2ヶ月分くらいです。しかも国公立大学においては練習時間がとても短く回数も少ないです。コロナだったこともあり、練習時間は平日1時間~1.5時間・休日2.5時間しかできません。現在は週5日おこなっていますが、4月は雪の関係で週4日しかできませんでした。それでも選手達はここまで戦えるようになっています。
その理由として選手の質の高さがあげられます。取り組む姿勢と話を聞く姿勢がとても良いです。このことは本学の学生に限らず、他の国公立大学の選手達も同様で、とても質が高いと感じています。(私立の学生の質が低いというわけではありませんので誤解のないようお願いします)
国公立の大学スポーツの課題
この20年間、日本の大学スポーツ界ではこのような質の高い学生達が手つかずになっていると感じています。スポーツに取り組んできた高校生が大学を選択する際に以下のような考え方になることも否定できません。。
・私立強豪校から声がかからなかった = 大学スポーツは趣味にするしかない
・国公立大学へ入学 = 大学では勉強に専念しなくてはならない = 大学スポーツは趣味にするしかない
つまり取捨選択となります。高校までに芽が出なくても、今回の様に大学でどんどん成長するのに、またスポーツ人材としての余地が十分あるのに、国公立大学ではその様な考えは持てず趣味として行わなくてはならない現状があります。国公立大学で専門的に指導を受けられる学校というと筑波大学と鹿屋体育大学ぐらいしかありません。国公立大学でももっと多くの大学で大学スポーツに取り組めるように、日本としても国や地方公共団体としても考えていくべきです。この4ヶ月間、大学スポーツに携わり、20年間変わっていないと感じました。国公立大学でも上を目指して大学スポーツに取り組ませる人生を歩ませてあげたいと思います。
その際に課題となるのは主に以下の5つです。
①指導面
②費用面
③移動手段
④施設面
⑤地域とのつながり
①指導面
国公立大学で希望するところには指導者を配置できるような仕組みを作ってあげてほしいと思っています。現在の国公立大学の状況だと、学生達はスポーツをあきらめて勉強に進むという選択をせまられることになります。体育系の学部でなくともスポーツも勉強もがんばれる地方の国公立大学が必要です。
②費用面
費用は大会参加費・試合会場への交通費・試合の宿泊費・備品の購入などがかかりますが、そのほとんど全てを自分達でまかなっています。どこの国公立大学でも活動費は出ますが、ほんの僅かであまり足しにならないことがほとんどです。国公立大学だと一人暮らしをしている学生の割合も多く、生活費や学費を稼ぐためにアルバイトも欠かせません。やる気があればあるほど、勝ち上がれば勝ち上がるほど試合数が増えます。そのためアルバイトを増やすことになり練習ができなくなるという現状があります。実は現在、けが人が続出しています。格上との3連戦で5人もの選手がケガ等の体の不調が出てしまっています。20数年に渡って指導をしてきましたが、ここまでけが人が出たことはありません。それでも対等に戦っています。楽をさせたいという意味ではなく、体作りや練習に費やす時間を確保させてあげないとこのようなことが起きてしまうのです。学内外問わず、サポートを受けられるような仕組みを考える必要性を感じています。
③移動手段
移動手段も自分達でやらなくてはなりません。地方大学ですと、乗合で2-3時間かけて選手の運転で行くことがほとんどです。しかも費用を節約するために高速道路は使用せずにした道となります。行きはまだいいのですが、帰りは試合でへとへとになっているところに運転が入ってくるため、居眠り運転で大事故にならないかととても心配しています。だいたい国公立大学ではマイクロバスが無いようです。私は大型免許を所持しておりマイクロバスの運転をすることができますが、宝の持ち腐れとなっています。
④施設面
国公立大学でも良い体育館がある学校もあるようですが、施設で苦労しているところが多いようです。
⑤地域とのつながり
大学は社会に出る一つ手前の学校です。そのため学内で学問を完結させてはいけませんし、させないようになっています。大学スポーツにおいても同じように考えるべきです。しかし国公立の大学スポーツにおいては、学生達が主体的に行うものという名目のもと、そのような視点はほとんど無いようです。特に今は中学校部活動の地域移行が進められています。中学校と連携していくことは学生にとっても大学にとっても中学校にとっても意義のあることです。中学生が大学生を見て憧れを抱き、地元の国公立大学に入学します。それが循環し地域が形成されていきます。子どもたちが憧れを抱きやすいのはスポーツです。地域創生はスポーツが最適解だと思っています。大学スポーツにはその秘めた力があります。各地で過疎化が進む日本では、国公立大学にその答えがあると考えています。
最後に~課題を改善していくために~
これらのことは学校だけの課題ではありません。国・所在している公共団体・大学スポーツ協会が考えていかなくてはならないことだと思います。また時には地域の理解を得なくてはいけないこともあるでしょう。部活動の地域移行を進めるにあたって、学校でスポーツ選手を育成していくという日本の考え方が根本から変わっていくことになると思います。それに伴い大学スポーツも変わっていく可能性もあります。現在、私立大学が大学スポーツを席巻しています。前述したような状況を見据え、国公立の大学スポーツの在り方について考え直す機会が来たのだと実感しました。
そうは思っていますが、今後も選手たちと共に邁進していく所存です。どうか応援をお願いいたします。
赤堀 達也(あかほり たつや)
旭川市立大学短期大学部 准教授・北海道教育大学旭川校女子バスケットボールヘッドコーチ
これまで幼児・小学生・中学生・高校生・大学生と全年代の体育・スポーツ・部活動指導してきた経験から、子どもの神経に着目したスポーツパフォーマンス向上を図る研究を行う。
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