2023.07.06
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『つなぐ・つながる』 子どもの学びを「つなげる」

学校でつなげたいものは、数々あれど、授業の中で「つなげたい」のは、子どもと子ども、教師と子ども、そして、教材と子ども。そんなふうに考えています。今回は、子どもと子ども「つなぐ」ということ、「つながり」の中で学ぶ子どもについて、つれづれ語ってみたいと思います。

浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授  前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師 川島 隆

模擬授業の実践から

私が、現在2年生の学生たちと進めているのが、「初等教科教育法(算数)」の授業です。前期15回の授業のうち、前半は、私が指導者、学生が子ども役になって行う小学校の算数科の授業を通して授業のつくりかたの基本や指導案の構想の仕方などを学んでいきます。後半は、模擬授業を学生が先生役となって進めます。
初めて指導案を書き、黒板を背に授業を行うのは、容易なことではありません。
先生役の学生も、子ども役の学生も、どこかぎこちなく。
ですから、子ども役の学生同士が、子どもになりきって学び合うなんて、結構難易度の高い課題と言えます。

学生たちの奮闘を見ながら、私は、学級担任のころ、どんな授業をしていたのだろうと、過去の授業に思いを巡らしました。

算数科「どっちが○○か?比べてみよう!」の授業 Aさんの場合

Aさんの、いつもの算数の授業の様子を見て、こんなことを思っていました。計算することや決められた課題には、まっすぐに取り組む姿は見られるのです。が、どこか物足りなさを感じていました。

「授業で、何かしら面白さを感じているだろうか」
「友達とかかわることのよさを感じているのだろうか」
「もっと算数や授業の楽しさにふれてほしいな」
と願うのでした。

そこで、算数科「どっちが○○か?比べてみよう!(単位量当たりの大きさ)」の授業では、そんなAさんに注目し、授業づくりをしました。

算数の授業の中で ~「混む」ということの実感~

授業の冒頭で、「混む」ということがどんなことを示すのかを体感させるために、ビニルシートに何人かで乗ってみるという活動を取り入れることにしました。頭だけでなく、体で課題を感じてほしかったからです。
「『混む』ってどういうことだろう?じゃあ、実際に『混み合う』という感じを体験してみよう」と投げ掛けました。
ビニルシートを取り出し、この上に乗ってみるようにしました。

「余裕だよ」
「もっとせまくすれば」
そんな声が子どもたちから聞かれます。

そこで、やや小さめのビニルシートを見せ、「これならどうだろう?」と乗り換えさせます。
それを見ていた子どもたち。
「まだまだ混んでるって感じじゃないね」

さらに三つ目のシートを取り出し、乗ってみます。
「いやあ、まだ混んでるって感じじゃないなあ」
「人数をふやせば、いいんじゃない」
そんな声が聞かれました。

それで、人数を増やすことにしました。
Aさんも乗ってみることになりました。
シートの上には立っていられず、はみだしてしまう子どももいます。
「この状態なら『混んでる』って言うかな?」「うん。混んでる!」
子どもたちの「混む」という感覚はこういうものなのだということを分かったように思いました。

さて、そこから、本時の課題に入っていきます。
「いろいろな混み具合ってあるけど、これは、どうだろう」と言いながら、修学旅行で宿泊するホテルやその部屋の写真の提示をします。

「あっ。修学旅行でいくところ?」「え、本当?」
「ホテルだよ!」
子どもたちが口々につぶやきます。

私は「これは、修学旅行でみんなが泊まるホテルなんだけど、(二人部屋と三人部屋の)どっちの部屋が広いと感じるかなあ?」と発問しました。
問題が自分の身近な生活の中にあるということを感じてくれたら、課題が「自分事」になり、楽しさを感じられるようになるのではないかと考えたからです。

3人の課題解決とつながり

こうして、子どもたちは、小グループに分かれて課題解決に入っていきました。
Aさんは、BさんとCさんと3人グループで学習していきます。BさんとCさんの二人が、自分の考えをノートに書いていきます。Aさんは、まだ、じっと黒板の写真や図に見入っています。

そんな時、Cさんが独り言のように話し出します。
「感じ方だからなあ。やっぱ人数が多ければ狭く感じるし、少なければ広く感じるんじゃないかなあ。でも、算数だから計算しなくちゃいけないだよな。きっと」

すると、その言葉に触発されたのか、Aさんが、右手を縦に動かしながら
「2等分すればいいんじゃない」
すかさず、Bさんが「何で2等分なの?」と言います。
Aさんが答えるかと思ったら、Cさんが「人数でわるってことだよ」と話します。
Aさんは、頷いていました。
こうして、(面積)÷(人数)という一つの解決方法が3人の中で明らかになり、個別に解決の活動へと進んでいきました。  

私は、そこまで見届けると、他のグループの子どもたちの指導にあたるため、その場を離れました。
しばらくして、再びAさんのグループに行くと。
Cさんが、「いすとかベッドがあるし。家具がじゃまだとか複雑なんだよな」と私に顔を向け話します。
そんなことも、グループの問題になっているようでした。

確かに実際の感じ方で言うのなら、そんな要素も関係するなあ、と思いました。
そして、単に算数の計算処理の問題ではなく、より現実の生活と結び付けて考えていることに感心しました。
計算を終えたらしいAさんが、「Cさん、一人の面積だよね?」と問い掛けます。
「そう。一人分の面積だよ」
そして、Aさんは、自分が出した答えに納得したようでした。

そして、その後のCさんが独り言のように話し続けます。
「答えは、8.5m2か」
「8m2って結構広いよね」
「正方形でいったら、どんなだろう?」
続けて、「これって、平面で考えるのかなあ。立体で考えるのかな。う~ん。どうだろう?」

私が思うに、Cさんは、答えは、出たのだけれど、それでよしとするのでなく、その数字が実際にどんなことを意味するかを考えているのでした。

むすびに

私が、もしCさん、Aさん、あるいは、Bさんを、つなげていけるような言葉掛けができていたら、Cさんの独り言から、Aさんの学びが豊かになったのではないかと思いました。
また、他の子どもたちの学びとつなげることもできたのかもしれません。
授業のその場その場で、発言をつないでいくこと、子ども同士の「つながり」を創っていくことは、教師の役割の一つです。

が、そのときは何もできなかったのです。
私は、私自身が教師として成長しなければ、子どもの学びを成立させていくことも、豊かにしていくこともできないのだとあらためて思いました。

その思いは、大学で教壇に立っている今も、変わらず持っているつもりです。

川島 隆(かわしま たかし)

浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授
前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師


2020年度まで静岡県内公立小学校に勤務し、2021年度から大学教員として、幼稚園教諭・保育士、小学校・特別支援学校教員を目指す学生の指導・支援にあたっています。幼小接続の在り方や成長実感を伴う教師の力量形成を中心に、教育現場に貢献できる研究と教育に微力ながら力を尽くしていきたいと考えております。

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