2023.07.12
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醒めない夢を見続ける

今年も前期の教育実習訪問が終わった。大学では模擬授業が続いている。全国的に教員採用試験も始まり、倍率の低下やそれに対する対策を行い倍率を上げた自治体の報道が伝わる。教員不足はどの都道府県でも深刻な問題であり、文部科学省も各自治体もその対策を講じるが特効薬はない。教師をめざす貴重な存在である学生たちの実態を報告する。

大阪大谷大学 教育学部 教授 今宮 信吾

楽しいです

授業準備をして発問

今年は、前期に実習がかたまり、ゼミ生18人中12名が6月に訪問となった。
実習生の多くが私を見つけるなり、「先生、実習が楽しいです」と伝えてくれた。「毎日やらなければいけないことはたくさんあるが、子どもたちの変化や子どもたちと過ごす時間のことを考えるとそれも苦になりません」「ずっとここにいたいと思える毎日でした」という声を多く聞いた。
お世話になった指導教諭の先生方には感謝したい。人生で初めての教師という体験、生活を幸せな状態で終えることができたことに敬意を表したい。自分のお仕事もある中で未来の教師たちのために時間を費やしていただいたこと、心に残ることばを頂戴したこと、きっと彼たちが未来に繋ぎ、それを自分と出会う子どもたちに返していってくれることを期待している。

難しいです

ICTも活用しながら

ネガティブな捉え方ではなく、「授業って難しいです。事前に想定していた通りに行かないし、一人ひとりに合わせようと思うと、全体での動きが見えなくなるし、でもそれがちょっとだけ楽しく、やりがいってこれだと思えるようになりました」という報告をしてくれる。
自分が教育実習に行った時にこんなに謙虚だったかなと思えるほど、今の学生は自分を前に出そうとしない。そこが自尊感情が低下しているということにもつながるのかもしれないが、「教師の仕事は難しいです」と感じていること自体、自分を大事にして、もっと自分を成長させたいと思っている。そんな感覚を覚えた。
「現場に入って、実際に教師として働く時に忘れてはいけない感覚をえられたね。いい実習をさせてもらっているよ」とメッセージを伝えた。反省的実践家である教師の姿勢をずっと大事にしながら、それでも自分にしかできない仕事を模索し実現することの意味を感じ取ってくれたと思う。

悔しいです

2回生の国語科教育法の授業で模擬授業を経験させる。本来は一人ひとりが授業することを経験させたいのだが、受講者の人数と時間の関係でグループごとに分担して指導案を書き、代表が授業をすることにしている。指導案は一人ひとりが最終仕上げることにする。
ある日の模擬授業が終わり、私が教室を出て行こうとすると、近くに駆け寄って来て、「先生、悔しいです。あれだけ準備したのにもっとできると思っていました」と話してくれた。期待していたほど自分ができなかったことへの悔しさだった。そして「人生で初めてみんなの前で授業したのですが、それがうまくいかなくて悔しいんです」とも伝えてきた。
「大事なことを感じられてよかったね。授業とはそういうものですよ。できるだけいいものにしようとして万全に準備を整える。しかし、それが思ったほど効果的ではなかったり、子どもたちにフィットしなかったり、その連続なんです。その結果落ち込むんじゃなくて、悔しいと思えているあなたはとてもいいと思います」と伝えると少し表情が変わった。
「もっときちんと授業ができるようになりたいです」と付け加えたので、「その気持ちが大きな収穫ですよ。授業をする前には足し算で授業を考えているけれど、直前にはそれを引き算しながら、準備したけれど今日は控えておくとか、準備していたかったけれどアドリブで対応するなど、それが授業の楽しさです。そのことを初めての授業で気づけたんだから、とてもいいと思うよ」とアドバイスした。
「ありがとうございます。これからも頑張ります」と表情を明るくして教室を出てくれた。私にとっても教師冥利に尽きる時間であった。

これからです

面接練習

本年度から3回生での教員採用試験が可能になったことは前回伝えたが、その弊害もあることをお伝えしておきたい。
学生たちは教育実習を終えて必ず口にすることは「もっと大学の授業では積極的に教師の立場になって受けないといけないと思ったし、大学以外の場でも教師として必要な資質・能力を身につけなければ、現場に立てない。まだまだこれからです」と話してくれる。
採用試験が前倒しになると、教育実習を終えてすぐに採用試験対策の勉強にかからなければいけなくなる。伸びしろとしての大学生活が短くなるのである。
私は学生に「教員採用試験に合格するのが目的ではなく、どんな先生になるかが大切だ」と常に話しているので、教育実習、模擬授業を終えてからの時間がなくなることを心配している。
大学が教員採用試験予備校になることを危惧する。人間として、教師として何が必要なのかをもっと考える時間が必要である。

今宮 信吾(いまみや しんご)

大阪大谷大学 教育学部 教授


国公私立の小学校で教員を経験し、現在未来の教師を育てるために教員養成に携わっています。国語教育を核として、学級づくり、道徳教育など校内研究にも携わらせていただいております。ことば学びのできる教師と学校づくりを目指しております。

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