『つなぐ・つながる』 学生は、振り返りをどう考える
授業の中で、どのように「振り返り」を生かすとよいでしょうか。また、「振り返り」を書いている学生は、「振り返り」について、どのように考えているでしょうか。
今回は、この2つのことを取り上げ、つれづれ語ってみたいと思います。
浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授 前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師 川島 隆
振り返りを核とした授業
大学では、後期の授業が始まり、学内に普段の風景が戻ってきました。
教育実習が始まったり、大学祭があったり、もちろんそれぞれの教室で授業が行われたりして、学生の豊かな学びが生まれてくることと思います。
さて、私は大学の授業でも、小学校での授業でも、こんな感じで「振り返り」を核にしながら、授業を創っています(ただし、あくまでもモデルなので、いつもきれいにこのようになっているわけではありません)。
この図に示したように、授業の導入では、前時の振り返りを紹介するところからスタートします。そして、学生の中に生まれた「問い」を大切にするよう、努めています。問題解決場面では、対話的な学び、協働的な学びが展開できるよう、振り返りの場面では、振り返りの視点を示すことで、何を振り返るのかを明確にして取り組めるようにしていきます。とりわけ、大切にしているのは、導入における前時の「振り返り」の共有場面です。
例えば、こんな問いから始まる
例えば、以前にも紹介した「初等教科教育法(算数)」の授業でのことです。
授業では、冒頭、次のようなスライドを示しました。
前時の「振り返りシート」から、学生の声を紹介するのです。
前時は、「板書」をテーマにした授業を行っていました。
この中で、1人の学生の「問い」を紹介します。
板書は、子どもたちの学びの中で、視覚情報として取り入れられる。その中で疑問は、テレビ画面等でパワーポイントも同じ視覚情報として取り入れられるが、この際、どちらがよいかが分からない、というのです。
つまり、「板書」と「大型提示装置を活用したプレゼン」ではどちらがよいのか?という問いですね。
いずれも、子どもたちの学びの中で、視覚情報として取り入れられていくことに変わりはありません。
皆さんは、この「問い」に、どのように応えますか?
「黒板」と「プレゼン」、どっちがいいの?
どっちもイイなんて言わないでくださいね。
私は、これはみんなで考えてみるといいなって思い、授業の中で、この問いをそのまま投げ掛けました。
「『黒板』と『プレゼン』、どっちがいいの?」
こうして比較して考えてみると、双方のよさや課題が明確になってきます。
「比べる」ことは、理科の見方・考え方に示されていますが、どの教科でも重要な考え方であり、問題解決につなげる力ではないかと思います。思考ツールの一つとしても挙げられていますね。
で、まとめられたのが、次のスライドです。
プレゼン(ICT)のどのようなところがよいのか、黒板(板書)だったらどうなのか、それぞれのよさを生かす。つまりは、黒板(板書)とプレゼン(ICT)のベストミックスが子どもの学びを豊かにしていくのではないかということに話は、導かれていきました。
前時の学生の振り返りの「問い」から、始まった本時ですが、それが、前時の学びをより深めることにつながった事例といってよいでしょうか。無論、本時に予定された内容もありますが、学生が内から出された「問い」こそ、大切にしたい、そう私は考えます。
学生は、「振り返り」について、どう考える?
ただし、学生が、この振り返りを書くことについて、どのように考えているかというと、決して好意的な考えばかりではありません。
「振り返り」に関するアンケート調査を行ったところ、「授業の『振り返り』を書くことは好きですか?」という問いに対して、回答してくれた20名の学生の内、「とても好き」「少し好き」という回答は、わずかに5名でした。
つまり、多くの学生は否定的な回答をしており、好んで書いているのではないということです。
理由として挙げているのは、
「書くのが大変だ」「考えるのが面倒だ」「言葉に表すのが難しい」というものです。
一方、「授業の『振り返り』は、大切だと思いますか?」
という問いに対しては、「とても大切」という回答が16名、否定的な回答は、わずかに1名でした。
この理由としては、次のような記述が見られました。
〇 その授業全体の評価となり、そこから次の授業へ生かすことにつながる。
〇 その授業で学習したことを改めて確認して身に付けるために必要だ。
〇 振り返ることで、自分の考えたことや感じたことをハッキリさせるために大切だ。
〇 授業で学んだことを自分の言葉でまとめることで、より理解が深まる。
この2つの結果は、どのようなことを示しているのでしょうか。
アンケートが意味するのは?
学生は、「振り返り」の重要性は、認識しているのですね。
でも、いざ自分が「振り返り」を書くとなると、前向きにはなれない。
何故でしょうか。
私は、「振り返り」のよさが、十分に実感できていないからではないかと考えます。
自分自身の内に、「振り返ってよかった」「振り返ると、こんなよさがある」という実感が生まれていれば、きっともっと「振り返り」を書くことに前向きになれると思うのです。
確かに書くという行為は、エネルギーが必要です。
「書くこと」は、「考えること」です。
そこに向かうための内なるエネルギーが湧いてくるほどの実感を積み重ねていかなければならないと思うのです。
むすびに
そのほかにも、書くこと、書いた結果が認められる、褒められるという経験が必要なのかもしれません。けれども、それは、外からの働き掛けであり、いつでも保障されるものではありません。
自分が、よさを、必要性を感じるところまでいかなくては、と思うのでした。
小学校2年生を担任している、ある先生から、こんな話を聞きました。
授業の終わりの時刻が近付き、
「今日は、もう時間がないから、振り返りは、なしでいいかな」
そう子どもに話すと、
「振り返りの時間をちゃんととって」
と、子どもが言うのだそうです。
そして、ノート1ページにも及ぶ文章を書くのだと。
このクラスの子どもたちが、どんなふうに振り返るのか。
一度じっくり見てみたいと思いませんか。
つづく。
川島 隆(かわしま たかし)
浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授
前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師
2020年度まで静岡県内公立小学校に勤務し、2021年度から大学教員として、幼稚園教諭・保育士、小学校・特別支援学校教員を目指す学生の指導・支援にあたっています。幼小接続の在り方や成長実感を伴う教師の力量形成を中心に、教育現場に貢献できる研究と教育に微力ながら力を尽くしていきたいと考えております。
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