2023.04.25
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道徳のおもしろさとは

「道徳のおもしろさって何ですか?」と聞かれたら,私なら「人生に直結」「バックボーンの違い」を挙げます。みなさんならどう答えますか?

岡山県赤磐市立桜が丘小学校 指導教諭 古市 剛大

みなさん,初めまして。

この度エッセイを書かせていただくことになりました,岡山県赤磐市立桜が丘小学校の古市剛大と申します。よろしくお願いします。

第1回目ということなので,自己紹介を少し。私のモットーは「常に挑戦し続けること」です。昔,お世話になった先輩の先生に「現状維持は後退の始まり」という言葉をいただきました。その日一日をどう乗り切るかで悪戦苦闘していた当時の私にとって,衝撃的な言葉でした。そこから吸収と発信を止めないように,アンテナを高くして過ごしています。このつれづれ日誌もその一つです。もちろん,失敗も数え切れません。なんだかおもしろそうという感覚だけで引き受けた市の道徳科研究授業。授業案を作っては壊し,作っては壊しの連続で,夢の中でうなされたこともありました。70人ほどの先生方が集まっての模擬授業では,授業者の私自身が途中から議論についていけず,ただ立っているだけの時間に心が折れそうになったこともありました。

ただ,それと同時に,道徳のおもしろさを味わうきっかけにもなりました。そこで今回は,「道徳のおもしろさ」について書かせていただきます。

人生に直結

子どもから,「算数の面積って,大人になって役に立つの?」「体育の逆上がりってする意味あるの?」などの言葉,聞いたことありませんか?算数や体育を悪く言っているのではありませんよ。各教科の見方・考え方を働かせながら,資質・能力を育てるために大切な学習活動だと思います(子どもたちにはこんな伝え方はしませんが)。
一方,「道徳の学習って大人になって役に立つの?」とはあまり聞かなくないですか?(多分)
例えば,「将来なりたいものや,やってみたいことがあるけど,本当にできるのかなあ?」や,「よく友達とけんかしてしまう。どうしたらいいのだろう?」「働くって大変そう。なんで働かなきゃいけないの?」読者の方も子どもの頃,一度は考えたことがあるのではないでしょうか。これって,道徳の学習そのものですよね。つまり日常生活に道徳が溢れているのです。教材と同じシチュエーションでの経験はないかもしれませんが,教材の登場人物と似たような思いをしたことがある子どもならけっこういるはずです。

つい,教材を範読後「似たような経験はありますか?」と問うてしまいがちですが,教材によって,自分の経験をイメージできる子は少ないかもしれません。それより「登場人物と同じような思いをしたことはありますか?」と,経験ではなく思いに着目させることで,違うシチュエーションだけど同じ感じ方をしている場面を想像できるかもしれません。合わせて,登場人物の気持ちにも目を向けることができます。

話が少しそれましたが,道徳のおもしろさは,自分と身近なものであると感じられることだと思います。つまり自分事として捉えやすいということ。これからの人生を生きていくために大切だと思えるものだということです。「分かる分かる。私もあの時...」と自分事として考えたり,「これからこういうことがあるかもしれないなあ。だったら...」のように未来の自分とつなげながら選択したりするのです。すぐに行動にうつすのは難しいとは思います。でも,間違いなく子どもたちの心に涵養していっているのです。

バックボーンの違いこそが対話を生む

人って,生まれ育った環境や周りの影響で考え方や感じ方が大きく変わっていきますよね。十人十色,本当に様々な子どもたち。(もちろんわれわれ大人も)考え方や感じ方が違うからこそ,新たな気付きが生まれます。道徳って特にそれが当てはまるのです。

数年前の道徳の授業での話です。困っている人に対して,手伝うことと,そっと見守ること,この2つの親切の違いを話し合っていた時のことです。

A「どっちも親切だよ」
B「たしかにそうだけど,相手がどうしてほしいかが大事じゃない?」
C「声をかけるってこと?」
B「そうしたら本当の親切になるんじゃないかな」

私が想定していた感じに授業が進んでいきます。しかし,ある子の言葉がきっかけで話が思ってもいなかった方向へと進んでいったのです。

D「知らない人に声なんてかけないよ,だってこわいじゃん」
E「でも見た目では困っているかどうかって分からないよ」
D「逆に迷惑って思われたらショック」
F「分かる,この前だって...」

当時の私は,その話題について追究する勇気と覚悟がなく,「なるほどね」の言葉を発し話題を修正していました。でも思い返せば,一番子どもたちが前のめりで語りだしたのはあの瞬間でした。

考え方や感じ方が違う人間が集まるからこそ,「なるほど」や「え,そうは思わないよ」が生まれ,自分の思いを語りたい,周りの思いを聞きたいになっていくのだと思います。自分自身で経験したことのある思いなら尚更です。それを味わうことができるのも,道徳のおもしろさではないでしょうか。

古市 剛大(ふるいち たけひろ)

岡山県赤磐市立桜が丘小学校 指導教諭


「道徳の教科化」をきっかけに,道徳のおもしろさと難しさを感じながら,研究と実践を重ねてきました。子供の「知りたい」「話したい」を大事にした授業とは?道徳科における個別最適×協働とは?日々の授業から,そして指導教諭だからこそ見える・感じることを綴っていきたいと思います。

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