2023.03.20
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今の子どもに足りないもの=今の社会や教育に足りないもの~しつけ~

今の子どもには親のしつけが足りないと言われています。しかしそれは現在の社会や教育において、それが成されない仕組みが構築されてしまった結果です。高校生への子育て教育が必要だと考えています。

旭川市立大学短期大学部 准教授 赤堀 達也

はじめに

「今の子どもに足りないもの」と言われるものについて考えていきたいと思います。

社会では、今の子どもに足りないものの一つに「しつけ」と言われています。現在、世間を騒がせている話題として「回転寿司店等での悪ふざけ」があります(悪ふざけの度は超えていますが…)。そして、その度にしつけについて話題になり、とある事件では親が謝罪しているものもあります。

現在の社会と教育の事情

ネットやSNSでは親の責任やしつけを問う声が多く見られます。そのような風潮があるのですが、私は少し見方が違います。「果たして親がそこまで子どもに接する時間があったのであろうか」「親が子育てについて学ぶ機会があったのだろうか」と考えております。つまり「子どもも親も、現在の社会や教育の犠牲者ではないか」と思っております。

女性の社会進出が進み、子どもは保育園に預けられるようになってきました。なかには親と過ごす時間よりも保育園にいる時間の方が長い場合もあります。そのような場合においても、親は好き好んで保育園に預けているのではなく、生活していくための収入を稼ぐために仕方なくそのような選択をせざるを得ない状況にあります。
今回の件はどのような家庭環境かはわかりませんが、もしそのような場合だったとして、果たしてそれでも「親のしつけが…」と言えるのでしょうか。もしそのような場合、保育者の虐待事例がニュースになっていますが、そのような保育を受けてしまったからかもしれません。(あくまでも想定の話です)

また核家族化が進み、祖父母と一緒に住まない家庭が増加しました。そのため子育ての方法を伝達されない若い親が増えています。お米を研がずにそのまま炊いてしまったり、出汁を取らずに味噌汁を作ったりなど、基本的なことさえも知らずに家庭を作る若い家庭があるように、基本的なことを知らずに親になる人もいます。
中学・高校では受験勉強に追われ、放課後は部活動を行い、夜は塾へ行くため、親からそのようなことを教わる時間も機会もなく成人していきます。そのため子育てのいろはの「い」もわからずに新しい家庭を持つことになります。そのような社会になってきたのにもかかわらず、学校教育において家庭科や保健の時間は少ないままです。若者たちが子育てを知ることができるのは、親になり子育て支援に通うほんの一時となります。
もし仕事が忙しくて子育て支援にすら通うことができない親はどのようにして子育てを知ったらいいのでしょうか。子どもがそばにいるのにもかかわらずタバコを吸っている親をよく見かけます。副流煙の影響がこんなに言われているのに、乳幼児突然死症候群につながってしまうともいわれているのに、このようなことすら知らずに、親になっているのです。

保育の勉強は高校教育で全員にすべき

2018年から新しい保育が始まっています。新しい保育では「非認知的能力を育てるように」と言われています。非認知的能力とはテストやIQといったような点数化できる認知的能力ではなく、点数化できない意欲や想像力などを育むように接していきましょうということです。そうすることで幼児期の能力アップだけではなく、40歳時点での社会的成功にもつながっていくといわれている教育方法です。
そのため「ほめる」ことが世間では推奨されていますが、正確に言うとそれは間違いです。正確に言うと「非認知的能力を育てるような声かけ」が必要です。例えば「できてえらいね」みたいな結果を褒めるのはいけません。このようなことを続けていると、できないことはしない子どもに育ちます。結果をほめるのではなく過程を認めてあげるような声掛けをすることです。そのため必ずしも褒めることではなく「がんばってるね」「よく考えているね」といったような、認めてあげる声掛けが大切です。
このようなことは将来、保育園・幼稚園で働きたいと思って進学する高校生しか学ぶことができませんが、こういったことこそ近い将来親になる高校生全員に学んでほしく、学校教育で学ぶべきことだと私は考えます。受験勉強以前に必要な勉強があると思っていますし、その方が日本経済も良くなる可能性が高いです。

最後に

子どもに親のしつけが足りないと言われています。子どもや親に足りないのではなく、現在の社会や教育において欠落しているのです。子どもや親は被害者なのです。
現在においても、小学生・中学生のなりたい職業ベスト3に入る保育職ですが、高校生になるとその人気は一気に低迷します。今年度、北海道では全ての保育系の学科で定員割れをしているそうです。北海道だけではなく全国的にそのような傾向にあります。
高校教育において「近い将来家庭を持つ」生徒たちへの教育がなされていません。少子化が社会問題となっており「将来が不安だから」という声が聞かれます。これは経済的なことばかりではなく、子育てに対する不安もあるのです。学校教育の在り方を見直す時が来ているのだと思っています。

赤堀 達也(あかほり たつや)

旭川市立大学短期大学部 准教授・北海道教育大学旭川校女子バスケットボールヘッドコーチ
これまで幼児・小学生・中学生・高校生・大学生と全年代の体育・スポーツ・部活動指導してきた経験から、子どもの神経に着目したスポーツパフォーマンス向上を図る研究を行う。

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