2022.10.24
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保育士資格と施設実習

保育士資格を取得するためには、保育所・保育園への実習だけではなく、施設への実習も必要となります。今回はその施設実習に関する話です。

旭川市立大学短期大学部 准教授 赤堀 達也

はじめに

保育士資格を取得するためには、保育所・保育園への実習だけではなく、施設への実習も必要となります。今回はその施設実習に関する話です。

保育士資格を取得するためには

保育士資格を取得するためには、保育園への実習が必要なことはご理解いただけると思います。しかし実際は施設と言われる、障がい児・障がい者(以降「障がい児者」)、児童養護等のいずれかへの施設への実習も必要となります。「そうなの?」「なぜ?」と思う人も多いと思いますが、保育士資格はそれほどに幅広いところで有効な資格であるからです。

このことを知らない学生はとても多いです。将来、保育園に勤めたいと考えている学生が多いため、なかには施設実習に行くことに対する強い疑問から嫌悪感を持ってしまう学生もいます。そのため施設実習に対して拒否したり、何か言い訳を付けて回避できないか仕掛けてきたりする学生もいます。しかしそのような強い疑問や嫌悪感を抱く背景には、障がいのある方への理解不足や接点がなかったことからの不安から来ているようです。そのため保育者養成校では、この施設実習に対して、かなり慎重に進めていくように取り組んでいる学校が多いです。

取り組みの例

私の勤務している学校でも様々な取り組みをしていますが、私の受け持っているゼミでも、施設実習前に障がい児者との接点を作るように心掛けています。私のゼミは幼児体育や運動遊びを専門とするゼミであるため、どうしても運動系にはなりますが、障がい者陸上競技会のスタッフをしたり、障がい児運動教室のアシスタントコーチをしたり等の活動を行うようにしています。

コロナ禍によってこのような活動が全くできなかった時がありました。その時の学生たちは施設実習に対して「行きたくない」「怖い」と言い放っていました。また失礼なことに、施設のスタッフの方へ「やりたくない」「帰りたい」と言ってしまった学生もいたほどでした。しかし施設実習を終える頃には「全然怖くなかった」「むしろ可愛かった」「私たちとほとんど変わらない」と言い「保育への就職を考えて入学したけど、施設への就職を考えたい」という学生もいました。このような心境の変化が見られると、とても嬉しく思います。しかし中には、最初の怖いというイメージから脱却できずに終えてしまう学生もいます。

そもそも…

施設実習を終え、肯定的な感情へと変化できたのはとてもいいことでありますが、そもそも障がい児者に対して、これほどにマイナスのイメージを持ってここまで育ってきたということについて、社会全体として、また教育自体についても見直していかなくてはならないと思います。現在では、統合保育(障がいの有無を区別したうえで同じ場で保育・教育していくこと)やインクルーシブ保育(障がいの有無関係なく同じ場で保育・教育していくこと)が行われるようになってきていますが、加速させて普及させていく必要がありそうです。

「障がいのある子がいると、全体の授業が進まない」という教員サイドの声もありますが、それは一斉授業で行っている現在の教育方法に当てはめて行おうとするためであります。その考え方自体をそもそも見直していくことが大切です。しかしそのような教育システムの変更はとても難しく、時間がかかることなので、10年単位の年月がかかります。そのためここでは置いておきますが、今、比較的やりやすいことであるならば、障がい児者との交流やボランティアといった機会を設けたりするようなことでしょう。

最後に

保育の世界を選んだ学生たちは、障がい児者に対しての概念を変えるチャンスがありますが、その他の道を選んだ学生はそのチャンスがありません。もしその学生が家庭を築き子どもが生まれたとき、もしも障がいを抱えた子どもが生まれたら心から愛せるでしょうか。今後、統合保育やインクルーシブ保育が進められていきますが、子どもの友達に障がいを抱えた子がいたら、変わりなく接することができるでしょうか。心配となりました。

そのためにも、私たちは現在の教育の在り方を見直していくべきだと感じました。

赤堀 達也(あかほり たつや)

旭川市立大学短期大学部 准教授・北海道教育大学旭川校女子バスケットボールヘッドコーチ
これまで幼児・小学生・中学生・高校生・大学生と全年代の体育・スポーツ・部活動指導してきた経験から、子どもの神経に着目したスポーツパフォーマンス向上を図る研究を行う。

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