「振り返り」に値する中味(授業)が大事 多様な人材を生かす編
「子どもにとって中味のある授業」を創ること。そこでは、子どもが、主人公であることに昔も今も変わりはありません。そして、その授業をデザインするのは、教師です。しかし、教師だけで、抱え込まなくてもいいと思うのです。「社会総がかりで教育再生」「コミュニティスクールの推進」という言葉が聞かれたのは、もう15年以上も前のことになります。もっと多様な人材を学校で生かす、授業で生かす、昨年度までを踏襲しない新たな発想で生かす。そんな実践の一つを紹介します。
浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授 前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師 川島 隆
体育の授業で支援が必要なのは?
授業をしていて、どんなところで支援があったらいいなって思いますか?
私が小学校教員であった頃、私が2人、3人いたらいいのにと思うのは、体育の授業でした。
特に、個人差が大きな領域、単元では、切実に感じたものです。
例えば、水泳の授業では、全体の指導がもちろん必要なんだけど、一人一人に合わせた個別の指導をしたい、一人でも多くの子どもを泳げるようにしたい、そういう思いが強くあったのです。
でも、実際には、私一人で……。
水泳指導、個別指導で行ってきたこと
そこで、どんな指導をしたかと言えば。
一つは、バディを生かすことです。
二人組あるいは三人組になって、お互いの泳ぎを見合い、アドバイスをし合い、補助をする。
そういう活動を授業の中に組み込んでいきます。
もう一つは、兄弟学級の取組です。
私がまだ若い頃、先輩教員の学級と同じプールを使う時間。
その先輩が声を掛けてくれました。
「川島さん、うちのクラスの子どもとバディを組ませようか」
そう言ってくれたのです。
私は3年生、先輩は6年生を担任していました。
3年生と6年生でバディを組んでくれると言うのです。
そしてもちろん、上級生の6年生が3年生の泳法指導をしてくれるのです。
うちの学級の子どもたちにすれば、ミニ先生が一人ずつついてくれて泳ぎを教えてくれるのです。
そんなよい機会は、ありません。
私よりずっといい教え方をしてくれるのかもしれません。
こういう指導の工夫で泳げるようになる子どももいましたし、子ども同士のかかわりを広げたり、深めたりするという
技能の向上以外のところの効果もあったように思います。
これらの支援の課題として
ただし、こうした支援にも課題があります。
前者は、バディ同士がいずれも泳ぎが苦手な子どもであったり、学級全体として技能が身に付いていなかったり、理解が不十分であったりすると、かえって何をすればよいか、何をしているか、子ども自身がはっきり持てず、効果が望めない場合があるということです。
後者では、継続的に行うことが困難であるということです。
つまり、いずれの学年・学級にも本来学ぶべき内容があり、それとは異なる活動を行うことになりますから、単元を通して行うのは難しいことです。
しかも、教師同士の見通しや関係ができていなかったりしたら、実現は難しいでしょう。
大学では
私が勤務している大学では、比較的早い時期から、「学校インターンシップ」を導入しており、1年次の前期から教育現場に出ていきます。
ですから、3年次で「教育実習」を経験する前に、協力校を中心に、学校という場や子どもとのかかわりの経験を重ねていっているのです。
幅広いキャリア形成のためにも教員としての資質・能力を高めていく意味でも、貴重な場になっていると思います。
そこで、私は、……
そこで、さらに学生が実践力を身に付けていくために、今年度私が企画したのは、「学校体育支援プロジェクト」というものです。
冒頭でお伝えしましたように、学校のニーズに応じて体育を中心にして学生とともに支援をしていこうと考えました。
ゼミの学生とともに、浜松市、磐田市の学校で体育を中心とした支援活動を展開しています。
学校側からすれば、外部の人材を生かすということですね。
先生方と話をしてみて、特に水泳の授業支援は、強い要望があるものだと感じました。
先生方は、「泳げるようになってほしい」という願いは持っているものの、なかなか一人一人に声を掛け、手を掛けてあげるのは、限られた時間の中では難しい、そういう状況にあると思います。
これは私の経験として、先に述べたとおりです。
学生には支援にあたる前提として、公営プールでの私の水泳講習と、支援する小学校での救命救急法講座の二つに参加してもらいました。
前者は、入水から水慣れの指導法と泳ぎの初期指導の方法を学んでもらいました。
後者は、小学校の先生方と一緒にいざという時にどのように行動すればよいか、AED講習を含めて、学ぶこととしました。
そして、学生3名とともに、週2回、いずれも午前中3時間の水泳の授業支援にあたりました。
指導担当の先生と簡単な打合せを授業前に行い、そのニーズに応じて支援にあたります。
バディを組んで泳ぎを先導しながら、指導をお願いされることもあれば、個別にけのびをはじめ、基本的な動きのお手本を示すこともありました。
プールの中で、子ども自身の声に耳を傾け、助言をすることもありました。
45分間の授業と言っても、実質は、30分程度。
時間内に泳げるようになる子どもばかりではありませんでしたが、少しずつ進歩を子どもたちの姿から、学生の事後の声から感じることができました。
むすびに
水泳の授業をとおして、身に付けるべき「資質・能力」があります。
そして、水の事故から命を守ることも大切にしたいことです。
そのためには、今回のように、ぜひ多様な支援の力を活用してほしいと思うのです。
学校の外には、地域には、まだまだ活用されずに眠っているものがあると思います。
私は小学校の外から子どもたちのために、そして先生方のために力になれるといいなと思っています。
教員を志す学生の力。
これも授業づくりを支えていく力の一つだと考えています。
川島 隆(かわしま たかし)
浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授
前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師
2020年度まで静岡県内公立小学校に勤務し、2021年度から大学教員として、幼稚園教諭・保育士、小学校・特別支援学校教員を目指す学生の指導・支援にあたっています。幼小接続の在り方や成長実感を伴う教師の力量形成を中心に、教育現場に貢献できる研究と教育に微力ながら力を尽くしていきたいと考えております。
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