2021.12.20
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キャリア教育の在り方・大学教育の在り方

現在、短大・大学で教員をしていますが、高校教員をしていた時もあります。
その立場から最近の学生の現状をお伝えしたいと思います。

旭川市立大学短期大学部 准教授 赤堀 達也

<はじめに>

最近特にメディア等で、大学を辞めてしまう学生が問題となっています。新型コロナによる経済的な理由で辞める学生もいますが、実際のところ進路のミスマッチにより辞める学生もいます。
もちろん新型コロナの影響でオープンキャンパスや進学説明会が開催されなかったり、参加できなかったりすることで「よくわからないけど」や「焦って」で進路を決めてしまい、ミスマッチとなってしまったことも少なからず原因となってはいます。
しかし、私が今回伝えたいのは「新型コロナのせいだけでもなさそう」ということです。その根拠は、退学した学生から聞いた話と、私の受け持っている授業の反応からです。

<1.学生の話から>

 退学した学生の話を聞いてみると「高校にいるときから、決めた進路に疑問を抱いていた」というケースが意外とあります。高校入学当時や最初のころ、または一時はそのような気持ちでいたことは間違いないです。しかしその後の高校生活を過ごすうちに、現実を知ったり、気持ちの変化があったりしても、進路変更する勇気がなく流されてしまったようです。一応は短大・大学に進むものの、やはり辞める選択をすることになったということです。

保育者養成校だったり教員養成校だったり、その他にも国家資格のような資格取得を目的とする学部学科だと、しっかりとした意思をもって入学すべきと思いがちです。しかし高校生を指導していた感覚から言うと、高校卒業時点でそのような強い意思をもてる生徒は極少数です。例えば保育者養成校の場合「保育士になりたい」「幼稚園の先生になりたい」という学生が来ているはずだとみんな思いがちですが、実際は「将来はまだ決めてないけど子どもが好き。子どもに関わる仕事に就けたらいいかも?」くらいの学生が多いです。そのため教員と学生の意識のズレからミスマッチにつながってしまうことがあります。しかし、大学・短大に進んでから「子どもが好き」→「子どもと関わる仕事に就きたい」→「保育者になりたい」と徐々に思いが強くなり進路を決めるようになってもいいはずです。しかしカリキュラムが過密でそれを許さない状況であります。そして学生が犠牲になっていきます。

<2.授業の反応から>

私は健康系の一般教養の授業の授業を受け持っています。その授業の最初の一コマで自分の人生のライフプランを立てる時間を設けています。その授業のプランとしては以下の通りです。

①平均寿命までにどのようなライフプランで過ごしたいか考えて時系列にする。
②「世界ワーストの寝たきり大国・日本では、最後10年は寝たきり期間となる」という事実を学ぶ。
③「退職後やりたいことがやれない人生となってしまう」ことに気付くよう仕向ける。
④「健康は歳を取ってから気を付けるものではなく、若いうちに作るもの」であることを伝える。
⑤「しっかりこの授業を受け、実践していくこと」と初回を締めくくる。

以上のようなプランを思い描いているのですが、そもそも①の段階でライフプランがほとんど……むしろ全く書けない学生がかなりの数でいます。③の退職後の人生がイメージできないのは仕方ないと思うのですが、大学・短大卒業直後についてもほとんど書けない学生が多いです。それは決して、サボっているからとか、聞いていないからということではありません。むしろ真面目に取り組む学生に多いようです。「夢でもいいから…」と指示するのですが、それでもとても時間がかかります。聞いてみると「初めてこのようなことを考えた」「考えたことがなかった」ということです。小学生の時に「将来の夢は…」など作文で考えたことはあると思いますが、その後は漠然とでもそのようなことを考える機会がないようです。

現在、中学校でのキャリア教育で職場体験があります。そのために事前学習をする等いろいろ工夫されて取り組まれていると思います。しかし、ジグソーパズルの最初の絵がわからずに作っているような状況と同じで、生徒たちにはなかなか意味が伝わっていないかもしれません。生徒たちがそもそも人生の全体像をイメージできていなければキャリア教育が何であるかわからないという可能性が高いでしょう。

しかし、よくよく考えてみると、教員のせいではなく過密スケジュールでしかこなせない教育カリキュラムに焦点を当てるべきだと思います。生徒たちはそのようなことまで考える時間がなかったのかもしれません。それは大学教員であるからこそ、とても共感できます。かつて「大学教員は研究職」でありましたが、ある時点を境にそうではなくなり仕事が過密になりました。採用時は研究業績を求める割に、採用されると研究は求められず業務を求められ、それに追われます。研究とはアイデア勝負です。何かに追われて仕事している中ではアイデアは出ません。きっと生徒たちはそのような状況と同じなのだろうなと思いました。そのため、授業の中で人生の全体像について考えていくよう促すことが必要なのかもしれません。

<最後に>

これらのような現状をみるとキャリア教育は、単に「仕事」だけを考えるのではなく、「将来をイメージした中で仕事をどのように考えるのか」という位置づけで導くようにしていく必要があるようです。中高と大学が問題を共有し、意見交換ができる機会があればいいのにと思っています。

赤堀 達也(あかほり たつや)

旭川市立大学短期大学部 准教授・北海道教育大学旭川校女子バスケットボールヘッドコーチ
これまで幼児・小学生・中学生・高校生・大学生と全年代の体育・スポーツ・部活動指導してきた経験から、子どもの神経に着目したスポーツパフォーマンス向上を図る研究を行う。

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