2023.12.06
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キャリア教育の視点からの取り組み「笑育」(2)

本校では、学校教育目標を「心~魅力ある生徒の育成~」と掲げ、その実現に向け、基礎的・汎用的能力の育成を目指した、様々なキャリア教育の取り組みを進めています。その成果が認められ、平成31年1月には、キャリア教育優良学校として、文部科学大臣表彰を受けました。前回(11月15日配信)では、キャリア教育の視点からの「笑育」の取り組みの概略を紹介しました。今回は、実際の子どもたちの様子や、効果検証について紹介します。

大阪市立中学校教諭、日本キャリア教育学会認定キャリアカウンセラー 青木 信一

活動の様子

どのコンビもがんばりました

「笑育」とは、アナウンサーや漫才師・芸人などを学校に派遣し、プロのアドバイスの下、子どもたちが実際に台本から漫才を作り、人前で発表するという活動を通して、キャリア教育の視点からの基礎的・汎用的能力の育成や21世紀型スキルの育成をめざす、松竹芸能と学校との協働プログラムです。本校では、平成28年度に第1学年約180名を対象に「笑育」に取り組んで以来、今年度で8年目の取り組みとなり、受講者はすでに1400名を超えています。今回紹介するのは、初年度に実施した最もオーソドックスな形です。
全11回の活動のうち、第5回までの活動は、主に1班6~7名によるグループワークを中心に行いました。この段階では、まだコンビになる相手の名前を発表していないこと、1つの班の人数が多いことなどから、子どもたちは比較的リラックスして活動に取り組んでいました。

そして、第6回目からの実際の「漫才づくり」の前に、コンビの組み合わせの発表です。同学級・出席番号順という条件のもと、あえて機械的に教員がコンビを組みました。子どもたちが気の合う者同士でコンビを組んだ方が、当初の活動はスムーズにいくと想定されますが、この活動の本来の目的は、基礎的・汎用的能力を育成することであり、あえてこの形式にしました。普段は関係性があまり良くないコンビや、ほとんど会話したことのないコンビもあり「あいつとコンビなんか絶対嫌や」とか「何を話していいか分からんし」など、教員に不平不満を言ってくる子どもたちには、全教員が「ビジネスパートナーだと思いなさい」の一言で返答するようにしました。たくさんの理由を口で説明するより、たった一言、インパクトのあるワードを投げかけ、あとはひたすら「手はかけずに目はかける」の精神です。
いよいよコンビでの活動がスタート。まずはコンビ名を決定しなければならず、ビジネスパートナーたちは、早速に会話せざるをえない状況に置かれます。すぐにコンビ名が決定するコンビもあれば、沈黙が続くコンビもあり、ついつい教員が口を出したくなりますが、ここはひたすら我慢のしどころです。子どもたちが考えたコンビ名と、名前の由来の一例を紹介します。「ハニーベーコン・・カリカリ溶けていくネタを作ります」「プーハン・・好きな動物がプードルとパンダです」「雑食・・性格が正反対なので雑食にしました」「助同志(じょどうし)・・お互いに同じ所を志し、助け合うという意味です」「iPhone12・・出席番号1と2だからです」

今回の「笑育」では約90組のコンビが誕生しました。そして、ビジネスパートナーからスタートしたほとんどのコンビが、活動が終わる頃には、当初教員が抱いていた懸念をすっかり払拭するコンビへと成長していました。「あいつとコンビなんか組みたくないって言ってたやん」という教員からの問いに、コンビ揃って「けど、やらなしゃあない(やらないと仕方がない)から頑張ったで。いつの間にか、めっちゃ、しゃべってたわ」と笑顔で返してくるその姿は、子どもたちから教員がたくさんのパワーをもらう瞬間でもありました。

効果検証

(1)事前・事後のアンケート結果
基礎的・汎用的能力に関わる14の質問に対し、4件法(非常にあてはまる・ある程度あてはまる・あまりあてはまらない・全くあてはまらない)で回答、うちポジティブ回答の分析をしました。
14の質問項目は、➀自分の短所がわかっている ②自分の意見を他人に伝えることが得意だ ③自分の感情をコントロールすることができる ④人前で話すことが得意だ ⑤自分の長所がわかっている ⑥物事を筋道立てて考えることができる ⑦新しいアイデアを生み出すことができる ⑧人の話をきくことが上手だ ⑨必要な情報を収集することが得意だ ⑩人の考えを理解し、受け入れようとしている ⑪人をまとめることが得意だ ⑫文章を書くことが得意だ ⑬人を説得することが得意だ ⑭人と協力することができる という内容です。
ポジティブ回答の割合から見ると、笑育終了後、ほとんどの項目で上昇がみられました。その中でも特に➀・②・③の項目では、ポジティブ回答の上昇率が10%を超えており、今回の取り組みを通して、特に基礎的・汎用的能力の中の、自己理解・自己管理能力の育成に大きな効果がみられました。⑥・⑦・⑨の項目については、笑育実施前のポジティブ回答が約50%程度と低く、今回の取組を通して、6~8%の上昇が見られたものの、依然ポジティブ回答の割合が低いことから、今後は基礎的・汎用的能力の中の、課題対応能力の育成に特に着目した取り組みを推進していく必要があると考えられます。また⑩や⑭のポジティブ回答の割合が高いことが、この学年の強みです。一方④・⑪・⑬の割合が低いことから引き続き、基礎的・汎用的能力の中の、人間関係形成・社会形成能力の育成、特にプレゼンテーション活動などを増やしていく必要性を感じました。
総体的に、キャリア教育の視点から、基礎的・汎用的能力を育成するという明確な目標設定をし、それを実践できたことが、ポジティブ回答の上昇というアンケート結果に反映したと考えられます。

(2)テキストマイニングによる自由記述の分析
「笑育」最終回の授業で、子どもたちに「笑育を終えての感想を書こう」と「自分にとって、ためになったと思うことがあれば書こう」という題での自由記述をしてもらいました。その記述から、テキストマイニングによるKHCoder3を活用した分析をしました。KHCoderとは、テキスト型データの計量的な内容分析もしくはテキストマイニングのためのフリーソフトウエアで、テキストから自動的に語を取り出し、頻出語を確認したうえで、それらの語の共起関係を探ることを通して、恣意的になりやすい手作業を極力廃した分析方法です。このテキストマイニングによる自由記述の分析については、次回の配信で紹介します。

青木 信一(あおき しんいち)

大阪市立中学校教諭、日本キャリア教育学会認定キャリアカウンセラー、スクールカウンセリング推進協議会認定ガイダンスカウンセラー
大阪市立中学校で社会科教諭をしています。日本キャリア教育学会認定のキャリアカウンセラーとして、中学校教諭の立場から、積極的にキャリア教育の推進と普及に取り組んでいます。


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