2021.11.19
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道具を生かすかどうか、誹謗中傷と向き合う~児童よし~

GIGAスクール構想で先進的な発表に取り組んでいた東京都の推進校で、Chromebookを悪用した大変痛ましい事件が起きました。
チャットの投稿画面で特定児童への誹謗中傷が行われたことが、社会に大きな反響を及ぼしています。他人事ではないこの事件、私たちはどうやって誹謗中傷と向き合うべきなのでしょうか。

浦安市立高洲小学校 教諭 齋藤 大樹

教室の実態から

みなさんの教室に、学習と関係ないホームページを見てしまう児童はいないでしょうか。GIGA端末を用いて指導を進めていく中、全国でこのような事態が頻発しているそうです。
私も6学級で総合的な学習の時間を指導しており、GIGA端末を多用しています。ほとんどの児童がルールを守っている中、ついつい教師の説明中にパソコンを触り、説明を十分に聞かないで作業をしてしまおうとする児童もいます。
以前「三分開きの構え」を紹介しました。話に注目してもらいたいときには、ノートパソコンの画面を少しだけ閉めさせることで視界にスクリーンが映りこまないようにしています。このように、新たに教育現場にやってきたGIGA端末という「黒船」とどう向き合うのか試行錯誤を続けている日々です。

パスワード管理の難しさ

東京都の事件では、パスワードが統一されていたことが問題視されています。確かにパスワードは児童一人ひとりがしっかりと管理すべきものでしょう。文部科学省からもアカウントもパスワードも他人に教えてはならないこと、自分でしっかり管理する必要があることを指導していくことが通知されています。
一方で、学期の始めになると、数人の児童が「パスワードを忘れてしまいました。」と相談しに来ることがあります。授業が始まったタイミングでこのような相談をされた際には、児童のIDとパスワードを確認するために授業の流れが途切れてしまいます。低学年の児童の場合には、ローマ字の指導もまだ行っていない段階でしょうから、パスワードを覚えておくということも一苦労でしょう。
私自身は高学年の児童を指導しているので、「暗記しましょう」と声かけしていますが、低学年や特別支援学級なども含めると、状況によってはノートなどにパスワードをメモしてしまう子もいるのではないでしょうか。スマートフォンでは当たり前になりつつある指紋認証などが進めばよいなと改めて感じています。

誹謗中傷の場面

Teamsなどの投稿画面で児童に学習内容を指示したり、ビデオ機能でオンライン学習をしたりすることが一般的になってきました。TeamsでもGoogleクラスルームでも児童同士が個別に交流することができますが、開放していない学級が多いでしょう。しかしながら教師側のリテラシーが不十分な場合、こうしたコミュニケーション機能をロックできるということに気が付かず、初期設定のまま開放している場合もあるのではないかと推察されます。
日常的にLINEを利用している児童もいるので、中傷文を書き込んだ後に一瞬で消去するという手法を知っている子もいます。こうした場合、教師側は何が書き込まれているのかが分からないため、いじめや中傷を放置することになりかねません。YouTubeのコメントやTwitterなどで誹謗中傷を目にする場面も多く、悪意ある文章に慣れてしまっている部分もあると思います。普段はきちんと話せる子どもたちも、GIGA端末を使ってコミュニケーションをさせると「ミーム」と言われるネット用語を使う子もいます。
言葉の力や周囲の人々の感情理解がまだまだ未発達な子どもたちですから、トラブルが起きるのは当然です。普段の生活指導や生徒指導でも悪口からトラブルになる場面は多いのですから、ネット上でもルールや見守りなしで利用させると、トラブルの温床になってしまいます。TeamsやGoogleクラスルームは頻繁に仕様を更新します。常に私たち教師が学び続けなければ、ICT機器を当たり前に使いこなす子どもたちと相対するには難しい時代となってしまいました。

「正義」の名の下に行われる誹謗中傷~「やっちゃん」の事例から~

感染対策をして営業中のまぼろし堂。店主の村山さん(右)と。

本市の近隣にある千葉県八千代市で駄菓子屋経営をされている村山保子さん。ご家族と共に「まぼろし堂」という駄菓子屋を経営されており、「やっちゃん」と愛称で呼ばれながら近くの小中学生との交流を大切にされていました。しかしながら、このコロナ禍で「コドモアツメルナ」という匿名の貼り紙をされる事件が起きてしまいました。やっちゃんは大変心を痛めてしまい、お店は休業となってしまいます。
全国ニュースにもなったのでご存じの方も多いと思います。「正義」を振りかざして他人を誹謗中傷するこうした行為、学級でも起きないと言い切れるでしょうか。学習が苦手な子に対する嫌悪、集団で行動できない子への憎悪が注意を超えて誹謗中傷になってしまう事例は数多く聞かれます。

この話がNHK for schoolで映像化されています。当時の状況とやっちゃんの気持ちがよく分かります。昨年度の子どもたちにもこの動画を見せながら、こうした課題についてどのように取り組めばよいのか考えさせました。動画は、店を開けるべきか否かという判断を子どもたちに問いかける形で終了します。それを受けて、私はやっちゃんに応援メッセージを送るという授業を行いました。
子どもたちのメッセージを見ると、こうしたら経営できるのではないかという内容や、なぜこのような心ない言葉を言えるのだろうかという内容が真剣に書かれていました。子どもたちが誹謗中傷にどう対応していくか、また相手の気持ちを考えて行動できているかを考えるよい機会となりました。子どもたち(今は生徒ですが)の中には、その後実際に訪れた子もいたようで、何かしら子どもたちの心に残るものがあったのだと思います。

村山さんご家族は、全国から送られたこれらのメッセージを参考にして非接触型の駄菓子屋へとリニューアルされていました。誹謗中傷に負けずにお店を開き、人を信じ続ける姿に心が温かくなります。コロナ禍で失ってしまったものを取り戻すために懸命に努力されるその姿を、私たち教師も見習いたいものです。

終わりに

「子どもたちはミスをしてしまうもの」と予め考え、ネット上のコミュニケーションをある程度制限をする。一方では、特別の教科道徳など、あらゆる場面で相手の気持ちを考えることを繰り返していく。そして、子どもたちの発達段階や授業内容に応じて制限を開放してく。私には、こういった対応しか思いつきません。
自動車も包丁も生活には必要不可欠なものですが、使い方を誤れば命に関わるものです。GIGA端末も同様なものと考え、常にブレーキに足をかけながら探り探りアクセルを踏んでいって、地道な実践を積み重ねることしかないとおもっています。
誹謗中傷という現代の大きな課題に対する解決策は社会全体として未だ不明瞭ですし、性善説・性悪説に示されるように人間の根本に関わる大変難しい課題です。ただ、だからこそ粘り強く「相手の気持ちを考える」ということを子どもたちに伝え続けていきたいと思います。

齋藤 大樹(さいとう ひろき)

浦安市立高洲小学校 教諭


一人一台PC時代に向けてプログラミング教育を進めており、市内向けのプログラミング教育推進委員を務めていました。
一部教科担任制を取り入れ、2年連続で総合的な学習の時間を指導しています。

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