2021.11.01
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~『二月の勝者』ドラマ化~学習塾の指導から考える個別最適化した教育(1)

「受験塾は子どもの将来を売る場所です」という台詞で有名な、『二月の勝者』という漫画をご存知でしょうか。中学受験を題材にしており、今クールよりドラマ化もされています。
文部科学省の「令和元年度 学校基本調査」によると、東京都の25%以上もの生徒が私立中学校に在籍しています。昨年度の数値はまだ確定値として出ていませんが、コロナ禍でも、「首都圏では中学受験の受験率が増加した」というニュースが流れたことは記憶に新しいでしょう。
東京に隣接している千葉県浦安市でも中学受験をするしないに関わらず、多くの児童が学習塾に通っています。「学校の先生」と「塾の先生」、どちらも子どもに教える職業ですが、「個別最適化」が叫ばれる昨今、私たちが学習塾から学べることはないのでしょうか。

浦安市立高洲小学校 教諭 齋藤 大樹

『二月の勝者』のドラマ化

『二月の勝者』は、高瀬志帆(たかせしほ)さんが吉祥寺の「桜花塾」という学習塾を舞台にして、中学受験の様子を描いている漫画です。連載されている「週間ビッグコミックスピリッツ」がどちらかというと大人向けの雑誌ですので、これまでは子どもたちが積極的に読んでいるということはなかったのでしょう。子どもたちもあまり存在をあまり知らない様子でした。
かつて中居正広さん主演で、同じく中学受験を題材にした「勝利の女神」というドラマが小学生の間で話題となりました。『二月の勝者』もドラマ化されるということで子どもたちの話題になることが予想されます。

首都圏での中学受験対策塾

首都圏には多くの学習塾がありますが、中学受験界では「SAPIX」「日能研」「四谷大塚」「早稲田アカデミー」(五十音順)の4大塾が有名です。もちろん中小の塾を合わせると数多くの学習塾があり、漫画の舞台である桜花塾もそうしたタイプの塾です。

高瀬志保さんは、高い取材力で、こうした首都圏の学習塾の現状を取材しており、中学受験という世界を理解するにはとても興味深い漫画です。
学習塾には、それぞれ得意分野や特徴があります。この記事でその詳細を書くことは避けますが、保護者の方々はそうしたそれぞれの塾の特色を徹底的に調べます。最終的には児童の適性を見極めながら塾を選択します。塾では定期的にあるテストが行われ、成績順にクラスが分かれます。席順すら順位で決める塾もあります。
習熟度に分かれたクラスでは、個別に最適化された教材や宿題が提供されます。講師の先生も、αやSと名付けられたトップクラスの児童に教えるのが得意なタイプの先生から、学習に苦手意識を持った児童に楽しく学ばせることが得意な先生、算数のスペシャリストのような講師の方など、様々な先生が存在しています。

個別に最適化された「塾技」

私たち学校教員が編み出したスキルは、30人以上の学級を掌握する方法に主眼を置いたものが多いです。授業の原則十箇条、リレー発表…といった指導技術の多くが、子どもたちの集中を保つための技術だったり、子どもたち同士の考えをつなげて学び合ったりすることを円滑にするための声かけだったりします。目線の動きや身振り手振り、間の取り方なども多くの児童が集中して話を聞くための技術です。

一方で、学習塾は児童一人ひとりの成績を上げることが一番の目標となります。受験対策の塾であれば合格ということが第一目標でしょう。話し合い活動ももちろん学習塾で取り入れられていますが、単元のポイントはどこか、簡単に解ける解法は何かなど、点数に直結するような指導も多いです。
例えば、中学受験の算数では特殊算と呼ばれるような問題が出題されます。植木算程度なら教科書にも掲載されていますが、教科書の内容を十分に理解していたとしても解くことが困難な問題が各学校から出題されます。こうした特殊な問題に対して、先に述べたようにクラスを習熟度別にはっきりと分け、児童の理解に応じて説明を変えたり、時流に合わせた教材を提供したりするなど臨機応変に指導が行われています。

二つの世界は相いれない世界なのか

「児童の学力を育てる」という同じ目的がある中でも、必ずしも一致するわけではない学校教育と学習塾の教育の目標。私もこれまで「それは塾のやり方でしょ」と児童に話す姿を目撃したことがあります。学校教育と学習塾の指導は相いれない水と油の様なものなのでしょうか。

個別最適化が求められる昨今、そうではない部分もあるのではないかと思い始めるようになりました。実は、学習塾の指導方法を学校教育でも取り入れようと研修を進める自治体も増えています。例えば、先に挙げた早稲田アカデミーでは、「教師力養成塾e-講座」というものを開催していました。そちらの講座では、若年層の先生方が分かりやすい発声方法や指導スキルを学んだりしていたようです(早稲田アカデミーさんに確認したところ、教師力養成塾e-講座は、今年の3月で一旦終了しているそうです)。

学習塾について学ぶことは一つの児童理解につながるのでは

近頃塾技〇〇」や「○○塾テキスト」などの書籍が増えてきており、学習塾の実際の指導を垣間見える機会も多くなってきました。一部の塾のテキストはインターネットで販売もされています。こうしたテキストでは、一つ一つの指導場面でのポイントが分かりやすく整理されています。教室の子どもたちに指導方法などを尋ねてみると、「学習塾の指導の方が分かりやすい」と答える児童も多いです。本市は4大塾が全て開校されているので、同じ単元でもその違いを聞いてみるのも興味深いものがありました。

学習塾に対する偏見やアレルギーを持たずに、民間企業が研鑽したノウハウを学ぶことは、ある意味一つの教材研究ではないかと感じます。もちろん全てが学校教育に取り入れられるというわけではありませんし、全てを取り入れるべきではないということも付け加えさせて頂きます。
しかしながら、前述したように都市部の児童の多くが学習塾に通っているという現実があります。放課後に多くの子どもたちが学んでいる学習塾ではどのような指導が行われているのか、それを知ることは、児童理解につながると考えます。ぜひ児童理解を進める一つの契機としても学習塾の指導について調べてみてはいかがでしょうか。

反響があればまたこちらの内容について書かせていただきたいと思っています。後期も子どもたちから学んだことを中心に、徹底的に現場目線で記事を書いていきたいと思っております。どうぞ今期もよろしくお願いします。

齋藤 大樹(さいとう ひろき)

浦安市立高洲小学校 教諭


一人一台PC時代に向けてプログラミング教育を進めており、市内向けのプログラミング教育推進委員を務めていました。
一部教科担任制を取り入れ、2年連続で総合的な学習の時間を指導しています。

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