2021.09.22
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最終回 算数科 つまずきを乗り越える授業づくり 〜子どものつまずき方を知ろう〜

今回は、連載の最後の記事になります。これまで、「算数科 つまずきを乗り越える授業づくり」シリーズを書いてきました(途中寄り道もありましたが)。
書く機会をいただけて、一番学ぶことができたのは私です。読んでくださった皆さん。本当にありがとうございました。

名古屋市立御器所小学校 教諭 松田 翔伍

つまずき方を知ることは、子どもを理解すること

「高さ」は図形の内部にあると思い込む

つまずきを乗り越える授業づくりには、つまずき方を知ることが欠かせません。自分自身が子どもの頃に、算数のどこにつまずいていたか覚えていますか?私は全く覚えていません。覚えているのは、分数のテストで100点満点中50点をとって泣きべそをかいた記憶。ですから、子どものつまずき方を知る必要があります。
では、どのようにつまずき方を知るのか。私は、過去の書籍や論文、全国学力・学習状況調査の結果と解説を読み込んで整理し、算数を教える多くの人に知ってほしいと考えています。例えば、5年「面積」の単元では、平行四辺形や三角形の高さが図形の外側にあるだけで正答率が下がるそうです。(平成 19年度と平成20年度の全国学力・学習状況調査の結果と解説より)

「底辺」は下にあると思い込む

その他にも、三角形の底辺は、底の辺と書くから下にないといけないと考えてしまう子もいます(平成24年度の全国学力・学習状況調査の結果と解説より)。台形の「上底」と「下底」という言葉から、台形の上の辺と下の辺のことと認識してしまう子もいます。
このように、既に知られているつまずき方があります。つまずき方を知ろうとすることは、子どもを理解しようとする行為そのものです。つまずきには、子どもらしい素朴な見方・考え方が表れています。安心して自分の考えを出し切れる授業という場でつまずきを表出させ、そのつまずき自体を楽しみながら乗り越えさせていけたら、算数好きをもっと増やせるだろう…と理想を抱いています。

つまずきは治療するものではなく乗り越えるもの

平行四辺形の求積の仕方を生かす

「治療」と「乗り越える」の違いは、主語の違いです。「治療」は大人。「乗り越える」のは子どもです。大人が事前につまずきやすいところを教えるのではなく、子どもに乗り越えたという経験をさせたいです。
先程の三角形の高さが図形の外側にあると斜辺をかけてしまうというつまずきを授業で扱う際には、一度どこが高さにあたるか判断させます。学級の仲間と判断が分かれれば、「どちらが正しいのかな」と問いが生まれます。この問いを原動力にして、子どもたちは既習である平行四辺形の求積に帰着させ、本物の高さを見抜いていきます。子どもたちが自分でやったぞという実感をもたせられるように授業をデザインするのです。
ここで私たちは、算数の授業で「既習を使って考える力」を育てようと、目標の本質を押さえておく必要があります。子どもが別の学習や生活場面でつまずいた時に、既習を使って考える力が働くようにしたいです。算数の授業では、問題を与えて解決させる問題解決型の授業が型として存在します。

あえてつまずかせるように問題をアレンジ

私は、つまずきそのものが問題になると考えています。そのように考えると、子どもにわざとつまずかせることも時としては必要になります。
先程の三角形の高さのつまずき方を知っていれば、教科書に載っている問題の一部を変えて子どもたちに提示することで、つまずかせることができるでしょう(啓林館の教科書『わくわく算数5』から)。
授業は、子どもにとって失敗が許される場です。つまずきを問題化することで、結果としてつまずきを乗り越える力が育つはずです。

つまずきを分析をしよう

つまずきを乗り越える授業をしても、子どもたちはつまずきます。中には、想定外のつまずきがあります。想定外のつまずきは、私たち教員にとって宝物です。その原因が分かれば、次の指導に生かすことができ、より豊かな授業をしていくことができます。
だから、「その答えは違うぞ」と思っても、「どうやって考えたのだろうか」とその子の思考過程に思いを馳せてほしいです。忙しくてなかなかできないという声も聞こえてきそうです。
私は、つまずきを自分の教材研究ノートにメモすることから始めました。メモをするとその単元でよくあるつまずきが見えてきます。また、一人一人の子どもがどのような間違いをしたのか、線で捉えることができます。
例えば、単元の第2時でAさんがつまずいていて、第5時でそのつまずきを乗り越えたことに気付くことができるようになります。まずは持続可能な方法で、つまずき分析を始めてみてはいかがでしょうか。

おわりに

連載という機会をいただくことができ、たくさん成長させてもらいました。自分の授業や子どもたちの姿を振り返り、伝えたいことを言葉にしていくことの難しさと楽しさを味わうことができました。書いていく過程でつまずくところが私の教師としての伸びしろだと思い、このつまずきを乗り越えていこうという思いで書いていました。
機会をくださった関係者の皆様には心から感謝しております。今後も記事を書く機会があると思います。その時は、またお読みいただき、意見を頂戴できればと思います。考える楽しさを味わう算数授業をつくるために、今後も精進していきます。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

松田 翔伍(まつだ しょうご)

名古屋市立御器所小学校 教諭
すべての子が考える楽しさを味わえる算数学習を目指し、面白い問題の開発や指導法、子どもとの関わり方について毎日考えています。「できる」「分かる」だけではない、「楽しい」算数授業について私と一緒に考えてみませんか?未来を生きる子どもたちの笑顔のために。

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