2021.07.20
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子どもが問題を発見するとき

与えられた問題を解く問題解決能力の育成から、自ら問題を見付ける問題発見力の育成へ。既存の問題ならAIでも解くことができる時代がやってきます。
AIにはできない、人間にしかできないことが問題を発見するということです。では、算数の学習で問題発見力を育成するにはどうしたらよいでしょうか。

名古屋市立御器所小学校 教諭 松田 翔伍

「問題づくり」の研究から

まずは、「問題づくり」に着目してみようと思います。算数の授業において、問題づくりはかなり以前から行われてきました。この活動の長所は次の通りです。

・子どもの算数観を柔軟なものにすることができる。(問題は与えられるもの→問題は自分で創れるもの)
・真に数学的な活動になる。
・個人差に応じることができる。
(参考文献:中野洋二郎・坪田耕三・滝井章編著『子どもが問題をつくる』東洋館出版)

問題づくりの活動を大まかに説明すると、「原問題の解決」→「問題づくり」→「つくった問題の発表と分類・整理」→「つくった問題の解決」→「まとめと発展」という流れになります。
問題づくりを行おうとすると発展的な考えが働きます。これは、問題を解決したあとで終わりとせず、条件を変えたらどうなるだろうかと考えて探究していく態度です。私は、問題の条件を「もしも〜だったら」と変えてみようとする態度が、問題発見力の一つの要素だと考えます。
『問題発見力を鍛える』(講談社現代新書)の著者である細谷功氏は、問題発見の思考回路について「問題そのものへの疑問を呈して、改めて問題を定義しなおす、つまり『真の問題は何か?』を見つけにいこうとする問題発見型の思考回路」と説明しています。問題づくりを行うと、この態度が育ってくるのです。

問題の条件を変える態度が普段の授業を変える

合同な四角形をかくには5つの情報が必要

5年「合同な図形」で合同な四角形を作図する方法を考える授業をしました。
前の時間には、合同な三角形の作図を学習し、三角形の辺の長さや角の大きさといった情報が3つ必要であることを学習しました。
四角形について考える前に、いくつの情報が必要か予想させました。三角形が3つなのだから、四角形は4つだというのが直観です。
予想すると確かめたくなるのが人間の心理です。調べていくと、どうやら5つの情報があれば合同な四角形がかけるということは分かりました。いくら考えても4つではかけないようでした。

4つの情報ではかくことができないか?

問いをもって追究する姿はとても生き生きしています。
ある人が次の発言をして教室の空気が変わりました。「三角形が二等辺三角形なら4つでかけそうなのに…」。四角形は三角形を2つ組み合わせた形です。その三角形がどちらも二等辺三角形ならかけると言うのです。問題を固定的なものと見るのではなく、「もしも二等辺三角形の組み合わせだったら」と特殊な問題に変えた姿をすばらしく思いました。
この後、四角形ではなくて特別な四角形だったらもっと少ない情報でかけそうだということになり、もしも正方形という特殊な図形だったら辺の長さという情報1つでかくことができることを確認しました。
そして、練習問題として用意しておいた平行四辺形を、「4つの情報でかけるのか」という目的意識をもった意義のある活動として扱うことができました。平行四辺形というのも1つの情報と数えると、平行四辺形は4つの情報で合同な平行四辺形をかくことができるということを子どもたちは発見していきました。

問題は変えてもよいものだ

このような態度をまずは育てたいと思います。そのためには、問題づくりの活動を行うことが効果的なのです。
今回の記事では、問題づくりの活動を繰り返したことによって現れた子どもの姿について書かせていただきました。問題づくりの活動については、またの機会に書きたいと思います。
しかし、問題づくりの活動は、一般的にはあまり広まっていません。そこには、「時間がかかる」「子どものつくる問題が多様すぎて扱いきれない」などといった課題があることが原因だと考えます。令和時代になり、ICTが進歩したことにより、これらの課題を解決できるのではないか。そんなことも考え、子どもたちとの授業を楽しんでいます。

松田 翔伍(まつだ しょうご)

名古屋市立御器所小学校 教諭
すべての子が考える楽しさを味わえる算数学習を目指し、面白い問題の開発や指導法、子どもとの関わり方について毎日考えています。「できる」「分かる」だけではない、「楽しい」算数授業について私と一緒に考えてみませんか?未来を生きる子どもたちの笑顔のために。

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