2021.06.19
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算数科 つまずきを乗り越える授業づくり〜安心してつまずける環境を作る〜(7)

つまずきを乗り越える力は、実際につまずきを乗り越える体験をしなければ身に付きません。つまずきを、正誤は一旦置いておき、一つのアイデアとして大人も子どもも捉えることができれば、安心してつまずくことができます。
今日は、つまずきを一つのアイデアとして捉えた授業の一場面を紹介します。

名古屋市立御器所小学校 教諭 松田 翔伍

柔らかい雰囲気を作るために

5年「小数×小数」の筆算の仕方を学習した時のことです。

整数×整数の筆算の仕方を復習した後、「小数×小数の筆算は、どのように書くと思いますか」と尋ねると、Aさんが、「おかしい。小数点を下ろしたら積が142.8になって、答えの14.28と合わなくなる」と言いました。小数の足し算・引き算の時の知識を使って考えたようです。
すでに、4.2×3.4の積は、かけ算の性質を使って確認済みであったため、そのおかしさに気付いたようでした。
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「Aさんの気持ちが分かりますか?」というように、これまでの授業の中で間違いに共感するように投げ掛けてきたからでしょうか。別の子どもが、Aさんの考えに共感し、「もしも4.2×34だったら、小数点をおろせばいいんだよ」と、発言しました。
さらに別の子が、「小数×整数の問題だったら使えるね」とつなげました。私は、この時の空気を忘れません。何とも言えない柔らかい雰囲気です。つまずきを一つのアイデアとして受け入れる雰囲気だったのです。
この雰囲気を作るためには、間違い方に共感するように繰り返し投げ掛けて、私が投げ掛けなくともその思いに寄り添おうとする態度を伸ばしていくことが必要です。
そうすることで、たとえ間違いであっても、そのアイデアを認め、そのアイデアが使える場面を明確にしていくことができるようになるということが分かりました。
「あなたのアイデアは、素晴らしいね。この場面の時は使えるね」と受け止められて初めて、つまずいて良かったと思えるようになるのではないでしょうか。

混乱もウェルカム

さて、小数点の位置はどうやら14.28になりそうです。ここでは、次のような展開になりました。
Bさんが、「先生、それではおかしい。筆算って位が大切でしょ。1/10の位の位置に1/100の位の数字がある」と言いました。言われてみれば、その通りです。
これまでの単元であれほど位の位置が大事だと強調してきたのだから、日本のかけ算の筆算の積でその原理が崩れるのに不完全さを授業をしていて感じました。
さて、Bさんは位の位置をそろえるために、一つ位をずらして書くことを提案しました。この方法をBさん方式と名付けました。Bさん方式は言い換えれば、位をそろえる方法です。
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対して、教科書にも載っている、右に揃えて書く方法です。私は、両方の方法で他の場合も計算できるか試させました。取り組んでいるうちにBさんが、「あ、分かった!前まではいいけれど、今回の場合は成り立たない」と言い出しました。
他の子どもたちの中には、塾などで先取り学習している人も含めて、どちらの方法がよいのか混乱してしまった人もいました。しかし、この混乱が本時の肝だったと考えます。

きっかけは、つまずきとの比較

よりよい方法はどちらだろうか。Bさん方式と右にそろえる方法では積が変わってしまうという声もあがりました。そのような中、0.48×3.2で試している時です。
Cさんが、「結局同じだよ」と興奮気味に話し始めました。0.48×3.2を48×320にし、かけ算の性質を使えば正しい積が出ると言います。Cさんは、右に揃えて書いても、位ごとに書いても、結局かけ算の性質を使って考えれば正しい積が出ると主張したのです。
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筆算の学習は、方法を教えて、後はアルゴリズム的に手順を覚えていくため、せっかく学習したかけ算の性質とのつながりが見えにくくなりがちです。
しかし、Cさんの発見により、整数同士のかけ算をしていると考えれば、位を揃えて書いても、右に揃えて書いても、小数点の位置は、かけ算の性質で決めればよいということが分かったのです。
Bさんの既習を使った素朴な考え方(つまずき)との比較が、既習とのつながりを多くの子どもが見出すことができた深い学びを生んだ一時間になりました。

安心してつまずける環境を

つまずくことは、恥ずかしいことではありません。
でも、この価値観は大人の世界にも広がってはいないのではないでしょうか。間違えることや失敗は誰でも嫌なものです。
つまずきに価値があることを、共に学ぶ仲間と共有し、実際につまずきから価値あることを学びとる経験を積み重ねるために、これからも実践を積んでいきたいと思います。

松田 翔伍(まつだ しょうご)

名古屋市立御器所小学校 教諭
すべての子が考える楽しさを味わえる算数学習を目指し、面白い問題の開発や指導法、子どもとの関わり方について毎日考えています。「できる」「分かる」だけではない、「楽しい」算数授業について私と一緒に考えてみませんか?未来を生きる子どもたちの笑顔のために。

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