体幹理論で体つくり運動(あそび)を考える
体つくり運動(あそび)で何をしたらいいか困っている先生が多いようです。「体幹理論」を基にして体つくり運動(あそび)を考えていきましょう。
旭川大学短期大学部 准教授 赤堀 達也
体幹トレーニングと体幹理論
現在、トップアスリート界では「体幹トレーニング」が流行っています。体幹トレーニングとは、「体幹=胴体」を鍛えて当たり負けしない体を作ったり、常にバランスを保って良いパフォーマンスができるようにしたりする目的で行われます。しかし幼児期や児童期はそのような目的で体幹トレーニングを行うのは、発育発達上ふさわしくありません。それでも幼少期に体幹を刺激しておくことは、のちの運動能力につながる大切なことです。それではどのように考えどのような取り組みをしていったらいいのでしょうか。今回は幼少期の体幹について考えていきたいと思います。
体幹とは
体幹とは、腕・脚を除いた胴体の部分になります。スキャモンの発育発達曲線からわかるように、筋肉が発達するのは高校時代くらいになります。まだ筋肉がついていない幼少期はまだまだ非力な時期です。その時期にこそ体幹を利用する動きを身に着けてほしいと思います。そのためには人体の仕組みに着目する必要があります。
体幹理論とテコの原理
人体は関節を中心とした円運動で動作を形成しています。直線的に見える動きでも複数の関節による作用で直線的に動かしているにすぎません。例えば、相手の顔めがけてパンチを打つときに直線の動きになりますが、手首・肘・肩などの動きを合わせ、結果的に直線で動いています。円運動の合算が直線運動となっている訳です。
円運動であるということは「テコの原理」を利用することができます。実のところ普段からテコの原理を利用して日常生活を送っています。例えば、食事をするときはあごの筋力で噛みますが、だいたい体重と同じくらいの力を発揮できます。このあごの小さな筋肉からそれだけの力を発揮しているのではなく、第二のテコである「力のテコ」を動きに利用しているため、それだけの力を発揮できるのです。支点・力点・作用点の関係から、作用点を体幹に近づけるほど大きな力を発揮しやすくなります。この第二のテコは人体の関節には存在しないとされていますが、運動に利用することは可能です。
また第三のテコは「運動のテコ」になります。支点・力点・作用点の関係から、力点が体幹に近くなるほど、手先や足先のスピードを上げることができます。手足が短く非力な幼少期に、手足の力ではなく体幹を利用して手足を使うことを覚えると、成長期に手足が長くなってから、より運動能力を発揮できるようになります。
そして第一のテコである「安定のテコ」もやはり体幹が絡むと良いです。
そのためいずれにしても体幹をうまく利用できることが大事なこととなります。そのために体幹の筋肉を上手に使うための神経「体幹神経」を育成することを、幼少期は考えるべきです。私はこの考え方を勝手に「体幹理論」と呼んでいます。
体幹理論と体つくり運動(あそび)

このような体幹の動きを伴う動きは、木登りや山あそびといった、昔行われていたような自然の中での遊び(自然遊び)の中にあふれていました。しかし現在は自然遊びがなくなってきてしまったため、学校体育の中で育んでいくべきです。そのため、体つくり運動はこの体幹理論で行っていくといいです。
体幹で動かせるようになってほしい箇所は主に3か所「肩甲骨・骨盤・股関節」です。股関節を動かす体つくり運動(あそび)の簡単なものを紹介します。
二人で向かい合って手をつないで(難しい場合、手をつながずに行っても効果があります)座り、足の裏を合わせます。そして二人で呼吸を合わせて、押したり引いたり・上・開脚・斜め開脚・腕の下で開脚・自転車こぎ、のように脚を動かしていくと、楽しみながら股関節を使う感覚を身につけられます。
まとめ
子どもたちを楽しませることは、いくらでもできます。しかし発達段階に合わせて意味のある楽しませ方となると、理論が必要となってきます。
私は以前紹介したコーディネーション理論と、今回紹介した体幹理論、そしてもう一つ「脱力反射理論」という三つの理論が幼少期だけでなく、大学生まで一貫して大切な理論だと経験上考えています。この三つの理論で指導し、小学生と大学生のバスケットボールチームで全国大会に出場できたからです。現在はその理論を一般化し、より広く普及したいと考えています。

赤堀 達也(あかほり たつや)
旭川大学短期大学部 准教授・元パーソナルストレッチトレーナー・バスケットボールコーチ
幼児体育指導、小学校のスポーツ少年団指導、中学校の部活動指導、高校の体育指導、大学の体育指導及び部活動指導と、全年代の子どものスポーツ及び体育指導の経験を生かし、子どもの運動能力の向上を図る研究を行う。
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