2020.11.13
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4歳の娘の中に見付けた!間接比較のアイデア!

私が先生になって1年目の頃。大学で学んだ知識だけを頼りに授業をつくっていました。その結果、目の前の子どもにとって不要な学習活動や難し過ぎる学習活動をさせてしまいました。いわゆる「子ども理解」が足りなかったのです。たくさん失敗してきたけれど、子どもを軸に授業を創っていけるきっかけとなった出来事を紹介します。もちろん、まだまだ未熟なのですが。

名古屋市立御器所小学校 教諭 松田 翔伍

ジャンプでどっちが遠くに跳べたかな?

以前、実家の庭でまだ小さな娘と、「ジャンプでどっちが遠くに跳べたかなゲーム」をして遊んでいました。私の単なる思い付き。石の上からジャンプして、遠くに跳べた方が勝ちです。私が跳び過ぎると、「ずるい!」と言って本気で怒り、私が手加減すると、「やったあー!勝ち〜!」と言って大喜びする娘です。

そんな娘に「負けるが勝ち」という言葉を教えたくて、「じゃあ次は、跳べなかった方が勝ちね」と提案しました。「パパ先に跳んで」と言われたので、「よし分かった!」と言って、ほんのちょっぴり、娘が普通に跳べば跳び越せるけれど、勝つ(負ける)ためには弱い力で跳ばなければならない距離を跳びました。娘は、見事私より短い距離をジャンプしました。

パパの方が短いんじゃない?

いじわるな父親です。「パパの方が短いんじゃない?やったあ!パパの勝ち~」と言ってみました。すると、「私の方が短いよ。(足を広げて)ほら、私はこれくらいでしょ。パパのは、これより足を開くもん」

びっくりしました。分からず屋のパパに向けて自分の勝利の根拠を説明するために、自分の足の開き具合で説明したのですから。自分の足という道具を使って、その開き具合で比べるというアイデアは、長さを比較する際に用いられる間接比較のアイデアです。

以前の私は、量の比較には三段階あって、直接比べる方法(直接比較)と、間接的に別の物をはさんで比べる方法(間接比較)、ある物を単位としてそのいくつ分で比べる方法(任意単位による比較)、そして、量の単位を用いる方法(普遍単位による比較)へと段階を踏んで授業をしなければいけないと考えていました。ですから、1年生の子どもにもこれより易しい場面をつくらなければならないと考えて、無駄な時間を過ごさせてしまったかもしれないと反省しました。

しかし、こんな小さな子にもどこで学んだか分からない間接比較のアイデアをもっているわけです。決して親ばかではなく、どの子にも目には見えないけれど、数学的な見方・考え方をもっていると考えられるのではないでしょうか。

授業者がすべきこと 子どもの声を聴く

教えたい数学的な見方・考え方はもともと子どもの中にあって、それを引き出すと考えようという授業観は、全国算数授業研究大会に参加して前筑波大学附属小学校副校長の田中博史先生の言葉から私が学んだものでした。この言葉が、私の娘との体験と結び付いたのです。では、授業者がまずすべきことは何でしょうか。それは、「子どもの声を聴くこと」だと考えます。ある日の休み時間。受け持つ子どもたちが、次のような会話をしていました。


子A「昨日、塾の模試があったんです」
私「頑張っているね。お疲れ様」
子A「前回、算数の偏差値が低かったんですよ。今回もやばいです」
私「偏差値なんて言葉を知っているんだね」
子A「よくわかんないですけど。平均みたいなものですよね」
私「ちょっと違うなあ」
子B「平均なら分かる!合計を個数で割るんでしょ」
私「平均という言葉もよく知っているねえ。合計を個数で割ると、何かいいことがあるの?」
子A「う~ん…。」
子B「全部合わせるでしょ?それを…ばあーっと…」
私「ばあーっと?」
子A・B「遊びに行ってきまーす」


平均の学習前の子どもたちとの会話です。この会話から、平均という言葉や求め方を知っているということ、平均の意味やどんな場面で平均を使って比較するのかはあいまいであるということなどが分かります。このように、普段の会話や遊びの中からどのような数学的な見方・考え方をもっているのかが見えてくる時があります。多くの場合、アイデアはあるのだけれど、言葉と結びついていない場合が多いというのが私の印象です。授業では、そのアイデアと言葉が結び付くように学習を進めていく必要があります。

松田 翔伍(まつだ しょうご)

名古屋市立御器所小学校 教諭
すべての子が考える楽しさを味わえる算数学習を目指し、面白い問題の開発や指導法、子どもとの関わり方について毎日考えています。「できる」「分かる」だけではない、「楽しい」算数授業について私と一緒に考えてみませんか?未来を生きる子どもたちの笑顔のために。

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