2020.09.17
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見えない気持ち 「私も同じだよ!」

算数の授業をしていると、素朴で素敵な論理と出合うことができます。そして、それは、時として消えてしまいそうな小さな声から生まれることもあります。
数年前、5年「整数」の学習で偶数と奇数を教えた時、ある子の小さな論理が、深い学びにつながった時のことを書きます。

名古屋市立御器所小学校 教諭 松田 翔伍

整数くじ引きをして

整数くじ引きをしようと投げ掛けました。この教材は、よく見掛ける教材ですが、夏休み明けでまだエンジンの掛からない子たちも熱中して引きたくなる魅力があります。くじには、数字が書いてあり、裏側には「当たり」、「外れ」と書いてあります。どんどんくじを引かせていくと、「2で割れるのが当たりだ」「偶数が当たりだ」「偶数はまだ習っていないよ」とすぐに教師の仕込みに気付く子どもたち。

いくらくじを引いてもそうなるので、「今みんなが思っていることをノートに書いてごらん」と投げ掛けました。ノートを見て回ると、「2で割って割り切れる整数の時は、当たりです」と多くの子が気付いていました。

これだと全部、偶数になるんじゃないかな?

ノートに書いたことを発表してもらいました。ほとんどの子がお互いの考えが同じであることを共有しました。ここで、私が、「2で割り切れる整数のことを偶数。2で割って1余る整数のことを奇数と言います」と言葉を教えました。すると、Tさんがこうつぶやいたのです。「これだと全部、偶数になるんじゃないかな?」

それは小さな声でした。でも、確かな問いだったのです。Tさんのつぶやきを取り上げ、みんなに「Tさんの言いたいことが分かりますか」と問い掛けました。すると、「分かる!!」と多くの子が共感をしました。ここで、その気持ちを想像させました。Kさんは、「私も同じだよ。たとえば、7を2で割ると、3.5になって割り切れるもんね」と、話してくれました。みんなと話しているうちに、Tさんは、「あ!7個のみかんを2個ずつ取っていけば、1個余るって考えればいいんだ」と考えつきました。Tさんの顔は納得の表情でした。このように、じっくり考える姿って、すてきだと思いませんか?

子どもから学んだこと

偶数の「偶」という文字には、「対になる」という意味があります。半分に分けるという操作よりも、2ずつまとめるという操作が言葉に含まれている気がします。 教科書を見ると、割られる数の条件は整数と読み取ることができるけれど、商については明確に整数とは書いていません。直前まで、小数の割り算の学習をしてきた子どもたちにとって、奇数も2で割り進めようとする姿こそが、既習を本当に生かした姿なのです。私が、この日の授業で学んだことは次のことでした。整数を偶数と奇数に類別するには、包含除のイメージをもつ必要があること。子どもが納得するまでには、このようなイメージの共有が必要であることです。

Tさんとの授業以来、同じ教材で授業をする時は、●を2列で横に並べた図のくじも、一緒に混ぜるようになりました。包含除のイメージを子どもが説明しようとした際に、使えるからです。「これだと全部、偶数になるんじゃないかな?」このような声を聴いた際には、「今回は余りが出るように考えるんだよ」と伝えることもできるでしょう。しかし、子どもなりの素朴な論理を取り上げ、見えない気持ちを共感し合う場面をつくることで、納得感をもって学習を進めることができるのだと思います。

挑戦は、まだまだ続く

さて、ここまでお読みくださり、ありがとうございました。つれづれ日誌への執筆は、私にとっての挑戦の一つでした。そして、この挑戦をもう少しだけ続けさせていただけることになりました。これからも考えることの楽しさを味わわせることができるような算数授業を目指していきます!

松田 翔伍(まつだ しょうご)

名古屋市立御器所小学校 教諭
すべての子が考える楽しさを味わえる算数学習を目指し、面白い問題の開発や指導法、子どもとの関わり方について毎日考えています。「できる」「分かる」だけではない、「楽しい」算数授業について私と一緒に考えてみませんか?未来を生きる子どもたちの笑顔のために。

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