2020.09.08
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丸本、金子、山口、そして......

手前味噌ですが、「楽しかったです。また行きたいです。」って書いとけ!に続いて、今回も私の体験談をお届けします。
これもまた、小学生の小学校生活のリアルを知った、忘れられない実話です。
2010年のできことだから、もう10年も経つんですね......。

東京都内公立学校教諭  カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)  特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事 林 真未

夏休みの宿題の作文を、まだ出していない と先生から電話があった夜

9月某日、夜、我が家のダイニングテーブル。
夏休みの宿題の作文をまだやってないことが判明した、わが小5の息子と、隣で見張る私。
「さあ、書きなさい」
「わかったよう」
しぶしぶ筆箱から鉛筆を出す彼。
「でも、何書けばいいのかなあ」
「なんでもいいから。なんかないの?」
「あ、みんなプールのこと書いているから俺もプールでいいや」
「それでいいそれでいい、なんでもいいから書きなさい」
「えーと、ぼくが、今年の夏に、がんばったのは、プールです、と……」
なんとか書き始めてほっとした私は、傍らにあった彼の筆箱を、なにげなく探る。

(そう言えば、算数で、三角定規と分度器を用意しろって言われていたけど、ちゃんと入っているかな……あ、あったあった。)
「あれ!?」

思わず声をあげる。
息子の筆箱に三角定規はあったものの、大きく油性ペンで『丸本』と書いてある。その上、半分に割れて。なんと、うちの子ったら! 
人の三角定規を平気で筆箱に入れて、しかも割ってしまっているなんて…(汗)。

「なにこれ?! どういうこと!」

怒りの鉄拳を振り上げんばかりの私に、彼は書く手を止めて、冷静に答える。

「あ、それ俺の。ほら、名前も書いてあるでしょう?」
 見れば、割れた片方のかけらに、私が書いた彼の名前が。確かに彼のものだ。
「じゃあ、なんで丸本なんて書いてあるの?」
「それ、俺が書いたんだよ。『丸本』っていうのは、この三角定規の名前。ほら、こっちの三角定規と分度器にも、ぜんぶ名前つけたんだよ」
 そう言って取り出したもう一つの三角定規と分度器にも、確かに、大きく『金子』『山口』とそれぞれ書いてある。
(なんじゃこりゃ!)
「いや、ちょっとさ、名前つけてやろうかなと思って、考えてつけたんだよねー。丸本はこないだ割れちゃったんだけどさ」

 爆笑。

 小学生っていうヤツらは、まったく、毎日なんと素晴らしいことを考えて生きているんだ?!

小学生の思考回路は摩訶不思議

「ねえ、なんでその名前に決まったの?」
「ああ、丸本は『ギャクマンガ日和』(彼のお気に入りのマンガ本)に出てくる人の名前でー、金子は『世界の果てまでイッテQ!』(彼のお気に入りのテレビ番組)に出てくる秘境レポート担当の人でー、あ、”秘境”っていうのはね、(標高が)高くて空気が薄くて、気温が低くて砂漠のとこね、でも星はキレイなんだよ。」

「そ、そうなんだ…。で、山口は?」
「ああ、あれ、ほんとは山田なんだよ。」
「へ?? 山田?」
「ありふれた名前がよかったんだよ。通常的な。だから山田に決めたんだけど、山田って書いている途中に5分休みが終わっちゃって音楽室に行かなくちゃいけなかったから、真ん中の十が書けなくて山口になった。」


作文のテーマ、変更!

「……ねえ、そのことこそ作文に書けばいいじゃない」
「え?? それは無理でしょう、学校に出すんだよ。文集『練馬の子ら』に載せる代表を決める作文なんだから、そんなこと書けないよ」
「そうかなあ、ぼくはプールでがんばりました―なんて誰でも書くようなくだらないこと書くよりずっと面白いじゃん!」
「ちょっと母さん、それは暴言でしょう」
「…すみません」

「でもどうかなあ。こんなこと書いたら母さん恥かくんじゃない?」
「恥って……忘れ物ばっかりで、夏休みの宿題さえいまだに出していないお前の親っていうことで、もうじゅうぶん恥かいてるわ」
「たしかに!」
「だからそのことは気にしなくてよろしい」

「でもさ、先生から電話とかかかってきちゃうかもよ」
「大丈夫大丈夫。だってさ、文房具に名前を付けるなんて、小学生にしかできないことだよ。文集には小学生にしかできないことを書いた作文こそ載せるべきじゃない」
「いや、普通の小学生はやらないでしょう」
「そうだね、お前ぐらいしかやらないかもね。だったらますます作文にぴったり。小学生らしくて、しかもその子にしか書けない作品を、文集『練馬の子ら』は求めていると思うよ。この作品が代表にならなかったら、それは先生たちのセンスがないっていうことで、本来、これは代表にふさわしい作文になると思うよー」
「えー、それは言い過ぎでしょう」
「でも、とにかくこっちの方がいいって!」

「じゃあ、そんなに言うなら、変えちゃおうかな」
「変えちゃえ変えちゃえ」
「わかった。それなら俺、すらすら書けそう」

そう言って、彼は3行ほど書いたプールの作文をしこしこ消して、新たな気持ちで、原稿用紙に向かったのであった。


三角定規の話はまだ続く……

書きながら、彼は続けた。

「あ、そうだ、丸本、割れちゃったから新しい三角定規買ってね。今度の名前は何にしようかな。野本、澤田、志村……、やっぱ志村がいいかな。」
「もう丸本ってつけないんだ。」
「そりゃそうでしょう、丸本はもう死んじゃったんだから。まあ、俺が筆箱に入れていたドライバーに、殺されちゃったとも言えるんだけど。」

「……そうなんだー。でも、なんで新しいのが志村なの?」
「そりゃあ、志村けんだからでしょう。」
「お笑い好きなんだ。」
「うん。でもなあ、小島もいいんだよなあ。」
「ああ、小島よしおね。」
「あ、そっちじゃなくて電気屋さんのコジマのほう。」

?? なんでー!

彼の頭の中には、人生の愉しみが、ぱんぱんに詰まっているんだろうなあ。


「文具に名前つけ」   5年1組 林 **

イラスト/有田りりこ

 夏に文具に名前をつけました。そのことを母さんがおすすめするので、プールからこのタイトルにへんこうされました。
 まず、最初になやんだのが、どのじょうぎにどんな名前をつければいいのかを考えました。頭の中にうかんだのが、わたなべ、山田、山本、山口、ばば、森田、松本、金子、丸本です。
 なんでこの名前がこうほになったかというと、わたなべはなんだかやさしいかんじがするので、とがっていない分度器のこうほにしました。山田、山口、山本は、山は丸っこいので、これも分度器のこうほにしました。ばばは、点がついているのでとんがった感じのイメージなので直角三角形のこうほにしました。森田は、森がついているので、ふくざつな感じで、直角三角形のこうほにしました。あと、松の木は直角二等辺三角形ににているので松本は直角二等辺三角形のこうほにしました。金子は、ぼくのすきなテレビに出てくる目の細いタレントさんが金子なので、目が細いという理由で、細い直角三角形のこうほにしました。丸本はぼくのすきなまんがにでてくるので、とりあえずこうほにしました。丸本はなんで“丸”がついているのに分度器のこうほではなく直角三角形かというと、それは、ぼくの気まぐれです。
 そうして、じょうぎの名前せんきょのはじまりです。見事にじょうぎの名前に選ばれたのが、山田、金子、丸本、に決定しました~。どうして、山田、金子、丸本に決まったかというと、それは、なんとなくです。あとは、じょうぎにきれいにペンで字を書くだけです。まずは丸本です。なんとか、うまく書けました。そして金子もなんとか、いい感じのところに書けました。山田はバランスよく書くために、まず山を書いて、そのあと、口を先に書いて、そして、中の十を書こうとおもったそのとき、キーンコーンカーンコーン、かねがなりました。なので、しょうがなく、山田から山口にへんこうされました。そして、新しいじょうぎ人生のスタートです。算数のときにもやくだちました。そして、国語をやるときに、なんと、コンパスを調節するためにもってきたドライバーがじょうぎにささって、われてしまいました。ということで、また新しいじょうぎを買うことになりました。名前は志村です。これからはじょうぎに名前をつけよう。
 ついでに、お母さんがこのことを書きなさいと言ったのは、本当です。

おわり

※追記:この作文は、文集『練馬の子ら』の掲載作文に(もちろん)選ばれませんでした笑。

林 真未(はやし まみ)

東京都内公立学校教諭
カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)
特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事


家族(子育て)支援者と小学校教員をしています。両方の世界を知る身として、家族は学校を、学校は家族を、もっと理解しあえたらいい、と日々痛感しています。
著書『困ったらここへおいでよ。日常生活支援サポートハウスの奇跡』(東京シューレ出版)
『子どものやる気をどんどん引き出す!低学年担任のためのマジックフレーズ』(明治図書出版)
ブログ「家族支援と子育て支援」:https://flejapan.com/

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