2019.11.19
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

「楽しかったです。また行きたいです。」って書いとけ!

学校活動になくてはならない「めあて」と「ふりかえり」......。
それにまつわる子ども同士の会話を盗み聞きしました。実話です。

東京都内公立学校教諭 林 真未

実録! 兄弟の会話

小3の弟が、小6のお兄ちゃんと話をしています。
扉のむこうに母親(私)がいることに気づかず、リラックスした会話をしています。私は、そっと聞き耳を立てました。

弟「明日、社会科見学なんだよ」
兄「よかったなー、楽しみじゃん」
弟「いやー、でもさー」
兄「なんだよ、どうしたんだよ」
弟「バスで出かけられるのはいいんだけどさ、“めあて”があるからさー」
兄「ああ、“めあて”か。めんどくさいよな、あれ」
弟「そうなんだよー。先生に『めあてをもって行動しなさい』って言われるから、思いっきり楽しめないんだよねー」
兄「しょうがねーよ、学校だから」
弟「あーあ、“めあて”さえなければ、学校、最高なのにな」
兄「それな!」
弟「おにいもそう思う?」
兄「まあな、でも俺くらいになるともう、“めあて”なんか気にしないで、テキトーにやれるようになるんだよ!」
弟「え、そうなの?」
兄「そうだよ。おまえも“めあて”なんて気にしないで楽しんで来いよ! せっかくの社会科見学なんだから」
弟「うん……わかった……、でもさー」
兄「なんだよ、まだ心配があるのかよ」
弟「あのさ、帰った後、かならず“ふりかえり”書かなくちゃいけないじゃん。あれもゆううつなんだよ。俺、あれ書けないんだもん」
兄「おまえバカだなー、そんなことで悩んでたのか?」
弟「うん」
兄「あれはなー、書き方が決まってるんだよ」
弟「え? 決まってるの?」
兄「そうだよ! 教えてやるから覚えとけ!」
弟「うん」
兄「いいか、今から言うからな。『社会科見学は、とても楽しかったです。とくに〇〇さんのお話が、とてもためになりました。また、ぜったい行きたいです。』って書いとけ!わかったか」
弟「うん! ありがとう!」
兄「それから、これは、遠足とか学芸会とか、ちょっと言葉を変えれば、なんにでも使えるからな」
弟「わかったあー。じゃあ、遊びに行ってくる」

こうして、兄の薫陶を受けて憂いがなくなった弟は、元気に家を飛び出していきましたとさ。

授業や、日常の細々とした場面でさえ

この兄弟の会話は、「子どもは学校の求めにテンプレートで対応している」という事実を、私に教えてくれました。

学校は、毎度「めあて」を課し「ふりかえり」を求め、子どもの方も、毎度それにホンネではなく同じ文章で対応している。
大人はこういう返答を求めているんでしょ? と理解し、それが自分の心からの思いじゃなくても、とりあえず書いてすませている。社会科見学でも、遠足でも、それからきっと、授業でも。

それとも、学校…先生方も、子どもがある程度テンプレートで対応していることをわかりながら、「ふりかえり」を書かせているのでしょうか。あるいは、大多数の子どもは、真面目に「めあて」を自覚し、「ふりかえり」を書いていますよ、そんな不真面目な子どもは、あなたの家の子だけですよ、ということなのでしょうか。

いえいえ、そんなことはないでしょう。それどころか、子どもがホンネを隠して、先生に対するのは、「ふりかえり」の時だけじゃないかもしれません。叱られて謝る時や、授業や、日常の細々とした場面でさえ。

子どもたちは、多かれ少なかれ、学校や先生、そして親の求める子ども像に、自分を合わせて生きている。または、合わせようと思って生きているのではないでしょうか。

少なくとも私は、我が家の掟破りの兄弟の会話を、絶対に忘れないでおこうと思っています。

イラスト 有田りりこ

林 真未(はやし まみ)

東京都内公立学校教諭
カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)
特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事


家族(子育て)支援者と小学校教員をしています。両方の世界を知る身として、家族は学校を、学校は家族を、もっと理解しあえたらいい、と日々痛感しています。
著書『困ったらここへおいでよ。日常生活支援サポートハウスの奇跡』(東京シューレ出版)
『子どものやる気をどんどん引き出す!低学年担任のためのマジックフレーズ』(明治図書出版)
ブログ「家族支援と子育て支援」:https://flejapan.com/

同じテーマの執筆者

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop