2020.06.19
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通常級の特別支援(その1)

複数の通常級担任の先生から、同じ話を聞きました。「特別支援の指南書を何冊も読んだのだけれど、どれも、かゆいところに手が届かないんだよね」。うーん......。よい本があるのも知っていますが、確かに、全体的にはこの印象は否めない。いったい、どうしてなのでしょう?

東京都内公立学校教諭  カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)  特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事 林 真未

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わかった!「特別支援」と「通常級の特別支援」は別モノなのだ

「特別支援」の指南書は、それぞれの障害特性の解説や障害に応じた適切な支援について書かれており、まったく何も知らないところから、発達障害等の基礎基本を学ぶには最適です。
どの本にも、「困った子は困っている子」「行動特性を知り未然に予防を」「障害のありようは一人ひとり違う」「合理的配慮は当然の権利」などの金言が並んでいます。

でも、日々、30-40人の児童を一人でマネジメントしながら、なおかつ発達に偏りのある子の対応に悪戦苦闘する身としては、読み終わって「うんうん、分かる分かる。え、でも、これで終わり? その先が知りたいのに」と思ってしまうことがあります。

通級の先生とお話しする時も、似たような感覚を覚えることがあります。
通級の先生は、担当の子どもをどう扱えばいいかを、熱心に伝えてくださるのだけれど、私の方は、心の中で「いやいや、それを集団の中でどう実現できるかが分からなくて困っているのよ。あの子にばかり合わせるわけにもいかないしー」とちょっと思っていたりします。

きっとこれは、「特別支援」と「通常級の特別支援」が、実は、全く別のものだからなのではないでしょうか。

「特別支援」は、発達障害を持つ子に対するマンツーマンに近い発想のもの。通常級での様子に言及する時も、視点はあくまで発達障害を持つ子中心です。
一方「通常級の特別支援」では、担任にとって発達障害を持つ子は、1/30、1/40の存在。発達障害のある子も、虐待や学習困難など他の問題を抱えた子も、とくに手のかからない子も、どの子も等しく、大事なクラスの子どもたち。だから、「通常級の特別支援」では、あくまで集団の一人として、発達障害を持つ子をどう扱うかが知りたいのです。

求めているのは「通常級の特別支援」なのに、与えられるのは「特別支援」の情報。
だから、「かゆいところに手が届かない」と感じるのではないでしょうか。

ちぐはぐな日本の特別支援教育システム

「通常級の特別支援」は、また別の問題もはらんでいます。
それは、今の日本の特別支援教育システムに由来する問題です。
日本は現在、インクルージョン教育の理念を掲げています。
本来のインクルージョン教育というのは、すべての子どもが、それぞれに見合った合理的配慮を得て、共に学ぶこと。

ところが日本の場合は、通常級のほかに、通級、特別支援級、特別支援学校があり、互いに交流するというシステム。
ただしインクルージョン教育の理念を掲げているので、どの場で学ぶかは、本人と保護者の希望に準じます。
これによって、どういうことが起きるかというと、同じような子でも通常級で皆と学ぶケース、通常級にいながら通級を利用するケース、特別支援級、特別支援校で学ぶケースが混在するようになるわけです。

極端な話、同じ学校に同じようなタイプの子がいたとしても、一方は数人を教師と支援員が見る手厚いクラスへ、もう一方は40人を1人が見る集団のクラスへという、奇妙なことさえ生まれます。
1人担任の40人学級というのは、集団行動ができるという条件を満たした子だけを集めて、初めて可能になる数字だと思います。

ちなみに、フルインクルージョンを実現したイタリアは、複数担任20人学級。
これなら、集団の中での特別支援/合理的配慮も充分できそうな気がします。
日本でも、特別支援の先生と通常級の先生とを合わせて、どんな障害かを問わず地域にいる子を20人程度のクラスにして複数の大人が見る、ってできないんですかね……。

うまくいかないのはあたりまえ

厄介なことに、世の中には、どんな子がいても、うまく学級運営ができるスーパーティーチャーがいて、30-40人の多様な子どもたちの面倒を見つつ、いつ教室を飛び出すか、いつ暴力をふるうか分からない子をうまく扱い、毎日楽しい授業をするっていう神業を見せつけるから困ってしまう。

そういう例を見てしまうと、あれやこれや現状の不備をあげている自分が、”ヘタレ”に思えてしまいます。
「ああ、自分が力不足だから悪いんだ」「この制度とシステムでもできる人はできるんだ」と、「通常級の特別支援」の困難さは、いつのまにか教師個人の問題になっていく。

ちょっと待って。
この罠にはまらないように、私は踏みとどまりたい。

今でこそ長年の経験から、少しはうまくやれるようになったけれど、知識も経験もない最初の頃、私は何がなんだか分からず、本当につらかった。これから教師になる人や、初めて発達障害を持つ子の担任になる人が皆、あんな思いをする必要なんてない。

・「特別支援」と「通常級の特別支援」は別のモノ。
・そもそも、今の制度やシステムに無理がある。

という自分の力以外のことが「通常級の特別支援」を困難にしているかもしれないのだから、自分ばかりを責めて1人で悩みすぎないようにしてほしいと思います。

(追記)
もしかしたら、タイトルを見てこの記事をクリックした方は、こんなそもそも論ではなくて、具体的なノウハウを求めていたのかもしれません。
そうだったらゴメンナサイ。
スーパーティーチャーには及ばないけれど&お役にたつかは分からないけれど、私のささやかな「通常学級の特別支援」実践は、次回の記事でご紹介します。

林 真未(はやし まみ)

東京都内公立学校教諭
カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)
特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事


家族(子育て)支援者と小学校教員をしています。両方の世界を知る身として、家族は学校を、学校は家族を、もっと理解しあえたらいい、と日々痛感しています。
著書『困ったらここへおいでよ。日常生活支援サポートハウスの奇跡』(東京シューレ出版)
『子どものやる気をどんどん引き出す!低学年担任のためのマジックフレーズ』(明治図書出版)
ブログ「家族支援と子育て支援」:https://flejapan.com/

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