2020.04.15
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年度初め つけたい力は?

新型コロナウイルス感染症の拡大によるさまざまな対応に追われながら、全国各地で新年度が異例のスタート、またはスタートできない状態となっています。さまざまな制約がある中、今やれること、やるべきことを見極めて、この苦境を乗り越えていきたいものです。

さて、今年度、皆さんが生徒につけたい力は?と聞かれたら、何と答えますか??また、生徒に「この授業でつけたい力は何?」と聞いたら、どんな答えが返ってくるでしょうか?
今回の記事では、授業を通して生徒につけたい力と、それを生徒にどのように伝えるかについて書いてみました。

前 山形県立米沢工業高等学校 定時制教諭  山形県立米沢東高等学校 教諭 高橋 英路

つけたい力は?

生徒につけたい力と言っても、複数あったり、一つの力が多様な意味を持っていたりするなど、これだ!と決めるのは難しいかもしれません。大きなくくりで言っても、「学士力」とか「ジェネリックスキル」、「基礎的・汎用的能力」、「社会人基礎力」など、文部科学省や中央教育審議会、経済産業省が提唱しているものだけでもたくさんあります。また、それぞれの力が細分化されていたり、いくつかの側面を持っていたりします。

このように多くの意味を含んだ力を「つけたい力」として提示することも悪くはないと思うのですが、学校の教育目標や校訓でなく、あくまで授業を通してつけたい力としては焦点がぼやけてしまう気がします。教科・科目の特性や生徒の発達段階、学校や地域の実情に合わせて、この授業ではこの力を重視したい!というものを具体的に設定した方が良いと思います。

具体的な例をあげると、私の勤務校では「社会人基礎力」を身につけることに重点を置いています。社会人基礎力は経産省が提唱しているもので、「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力(さらに12の能力要素がある)から成る、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」とされています。
詳細は、下記の経産省ウェブサイトを参照してください。
https://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/

勤務校では、授業や学校行事、部活など、さまざまな教育活動の中で、この「社会人基礎力」をバランスよく育成するようにしています。
私は地歴科の教科担当として、この中の「チームで働く力」の能力要素の一つである「発信力」に重点を置くことにしています。地歴の授業で学んだ知識を身につけることはもちろんですが、それを活用してあれこれ思考した結果を、他者に分かりやすく伝えることを目指してほしいと考えているからです。もちろん、他にも生徒や実社会の実態など、さまざまな理由を考えてはいるのですが、今回の記事では詳しいところは割愛します。

つけたい力から授業を考える

授業を通してつけたい力を具体的に設定することで、学習内容の中で特に重視したいことや、年間の指導計画、1時間の中の授業の組み立てもやりやすくなると思います。

例えば、前述したように「発信力」をつけたいとなれば、年度当初にその時点での「発信力」を測るような機会があると良いかもしれません。アンケートをとったり、実際に他者に何かを伝える活動をやったりして、生徒が自分のスタート地点を自覚できると良いと思います。

また、授業の組み立てにしても、発信力をつけたいわけなので、こんな導入が必要だとか、単元のまとめにはこんな活動を入れたいとか、つけたい力が念頭にあるからこそ、具体的なプランが出てくると思います。逆にこれがないと、訳が分からないまま流行りの手法に乗せられ「今日の授業は『〇〇法』をやってみるぞ!」などと手法ありきになってしまい、どんな目的でやっているのか?どんな効果をねらっているのか?が自分でも説明できない授業になってしまう恐れがあります。

生徒にもしっかり伝える

授業を通してつけたい力は、生徒にもしっかり伝えることが大事だと思います。勉強に限りませんが、目標やどんな力をつけるのかが不明確なまま取り組むより、明確な目標・目的があった方が効果が上がるのはよく知られた話です。年度当初の授業で説明する機会を設け、生徒に「この授業でどんな力をつけたい?」と聞いて、自分の言葉で説明できると良いと思います。

ちなみに、つけたい力を伝えるにしても、教員が一方的に説明するのではなく、生徒が自ら必要だと感じることができるとBESTだと思います。つまり、発信力が必要だと伝えるにしても、「今の時代はとにかく発信力が大事だから、この授業では発信力をつけるぞ!」などと押し付けるのではなく、社会の情勢や生徒自らの特性を知ることによって、「発信力をつけなければいけないんだな」と自ら思えるようになることが大切だと思います。

私の場合は、年度当初の授業で、つけたい力についてのオリエンテーションを行っています。詳細は、以前の記事に書いていますので、ご参照ください。
「教員もアクティブに(vol.2)」
https://www.manabinoba.com/tsurezure/015936.html

さらに、それを踏まえて、「つけたい力がこれだから、こういう授業スタイルになる」とか「この力をつけたいから、この学習活動がある」といった説明もできると思います。これによって、授業を受ける生徒も、自分が行っている学習活動に納得感を持って臨むことができると思います。

ということで、年度当初の授業では、授業を通してつけたい力をしっかり提示し、生徒にも理解してもらうことが重要だと思い、今回の記事を書いてみました。つけたい力やそれを踏まえた授業構成、その伝え方はまさに千差万別で、すごく興味があるので、いろんな教科の先生のやり方を聞くことにしています。先生によっては、ここの部分にすごく時間をかけて丁寧に指導されている方もいて、大変勉強になりました。普段の授業を見るのも良いですが、つけたい力を踏まえた初回の授業のあり方も、ぜひ情報交換していくと良いと思います。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

高橋 英路(たかはし ひでみち)

前 山形県立米沢工業高等学校 定時制教諭
山形県立米沢東高等学校 教諭


クラス担任と、地歴科で専門の地理を中心に授業を担当。生徒達の「主体的・対話的で深い学び」が実現できるよう、p4c(philosophy for children)やKP(紙芝居プレゼンテーション)法などの手法も取り入れながら日々の授業に取り組んでいます。

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