通級による指導における語彙指導の方向性
ことばの教室には、言語発達の遅れのある児童が多く通級しています。言語発達の遅れのある児童の中核的な問題のひとつに、理解・表出できる語彙の少なさが挙げられます。ことばの教室でも盛んに言語発達が遅れている児童に対して語彙指導が行われていますが、どのような方向で語彙指導を行うかを意識している先生はあまり多くないように感じられます。そこで、今回の記事では、私なりの語彙指導の方向性をまとめてみました。なお、今回の記事はことばの教室などの通級指導の教員を対象としたものですが、学級担任の先生方がクラスで指導する際の参考にもなればと思います。
福生市立福生第七小学校 ことばの教室 主任教諭 博士(教育学)公認心理師 臨床発達心理士 髙橋 三郎
ことばの意味はどのように記憶の中に保存されているのか
以前、「読みの指導をするためには、そもそも人がどのように文字を読んでいるのかを知っておく必要がある」ということを書きましたが、語彙指導においても同様です。どのように言葉の意味が記憶の中に貯蔵されているのかを知ることが、効果的な語彙指導への近道となります。
言葉の意味の記憶に関するモデルのうち、有名なものとして、Collins & Loftus (1975) による活性化拡散モデルがあります。このモデルでは言葉の意味をノード(図中の丸)、意味同士を繋ぐ関係をリンク(図中の丸と丸を繋ぐ線)と呼び、まるで蜘蛛の巣のように、言葉の意味同士がネットワークを形成していると仮定しています。図をもとに説明すると、「くだもの」「りんご」「ぶどう」「バナナ」といった丸がノード、それらの言葉を繋ぐ線がリンクにあたります。
語彙指導の方向性
活性化拡散モデルを発達的視点から考えると、言語発達の初期には、この意味のネットワークは十分に構築されておらず、ノードの数は少なく、ノードとノードを繋ぐリンクもか少ない状態であると想定できます。言語発達が進むにつれて、ノードやリンクの数が増え、ノードやリンクが密集した意味ネットワークになると考えられます。
このことを踏まえると「語彙が少ない」児童とは、何らかの原因によって、このような意味ネットワークが年齢相応に形成されていない児童と考えることができます。さらに、このことを念頭におくと、語彙指導とは、意味のネットワークの形成を促そうとする試みなのだと考えてよいと思います。
このように考えると、語彙指導には二つの方向性があると考えられます。
一つは、ノード(一つ一つの丸)を増やすというものです。これは、つまり「新しい言葉を覚える」ということです。
もう一つは、リンク(一つ一つの丸をつなぐ線)を増やすというものです。これは、「言葉と言葉の関連性を覚える」ということになります。一般に、語彙指導というと新しい言葉を覚えることに重点が置かれがちですが、意味のネットワークの拡充を図るには、新しい言葉を覚えるだけでなく、言葉と言葉の関係性の理解を深めることも非常に大切なのです。
では、具体的にはどのような指導が必要なのか
ここまで、意味ネットワークに関するモデル(活性化拡散モデル)とそれを踏まえた指導の方向性についてまとめました。では、具体的にどのような指導をするのか、どういった教材があるのか。それについては次回の記事にまとめたいと思います。お楽しみに。

髙橋 三郎(たかはし さぶろう)
福生市立福生第七小学校 ことばの教室 主任教諭 博士(教育学)公認心理師 臨床発達心理士
大学院で博士号を取得し、現在はことばの教室で子供達と向き合う日々を過ごしています。言語障害や発達障害に関する知見や指導方法を様々な先生方と共有できたらと思います。
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