2022.05.26
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子どもの思いと気持ちに寄り添う

昔、勤務していた学校で毎朝こんなやり取りがありました。 私がある子に「今日の調子はどう?」と尋ねると、「調子、悪くない」とその子は答えてくれます。 しかし、咳が出ていて、食欲がないときでも、その子に調子を尋ねると「調子、悪くない。調子、悪くない」と繰り返し教えてくれます。 またある時、別の子とこんなやり取りがありました。 ある子に「今日の生活単元学習どうだった?」と尋ねると、「できた」とその子は答えてくれます。 しかし、うまくいかなくて失敗した日であっても、常に「できた」と教えてくれます。 この「調子、悪くない」「できた」の二つの「ことば」にはどのような思いが含まれているのでしょうか。 今回はボッチャについてのお話をお休みして、「心の健康」を考える上で大切な「子どもの思いや気持ちに寄り添う」ということについてお話をしていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

信州大学教育学部附属特別支援学校 教諭 丸山 裕也

「別に。」は「別に。」じゃない!

今ではウエストがぴちぴちの丸山が、まだぴちぴちの新人だったころ、これもある子に言われた「ことば」です。

仮にその子をAさんとしておきます。
Aさんの口癖は「別に」でした。その日の調子を聞いても、活動が楽しいかを聞いても、何かあったときに悲しいかを聞いても、給食を食べておいしいかを聞いても、大半は「別に」と返事をしてくれます。
ある日、給食でデザートにメロンが出ました。赤肉メロンでとてもおいしそうです。
給食の配膳が終わり、みんなで食べ始めました。デザートのメロンに向かって、みんなにこにこ顔で食べ進めています。もちろん担任の丸山もにこにこ顔で食べていきます。
給食も終盤に差し掛かったところ、「アッ!」というAさんの声が教室に響きます。デザートを食べようとしてメロンをつかんだ時に、手を滑らせて落としてしまったのです。

メロンは床に落ちてしまいました。当然このメロンを食べることができません。
「メロン落としちゃったんだね。大丈夫?」Aさん席に駆け寄りそう尋ねる私やクラスメート。しかしながらAさんはうつむいたまま「別に」というだけです。
まだ新人の私にはどうしていいかわからず、とりあえず床を拭くためにぞうきんを取りに行こうとしたときに、Aさんは私の腕をつかんで、涙目でこう言ったのです。
「『別に』は、『別に』じゃない!」
「別に」というワードだけでとらえてしまうと、気持ちや思いに目を向けることはなかなかできませんよね。その前後に何があったのか、その「ことば」を発した時の表情はどうだったのか。子どもの仕草をチェックするのを忘れないようにしましょう。

「調子、悪くない」「できた」というワードも、よく様子を見てみると眉間にしわが寄っていたり、大きな声でがなり立てるように伝えてくれていたりと、同じワードであっても伝えるときの様子は異なっていました。「今、この子はどういう気持ちなんだろう?」と考えながらコドモと接していきたいですよね。きっとそれが子どもの心を理解し、ケアをしていくことにつながると私は考えています。

ちなみにこのメロンの話に登場するAさんがこの後どうなったかというと、実はまだ食べていなかった丸山の分のメロンを食べることができ、一件落着しました。さすがにこの時のメロンの味は「甘い」と伝えてくれました。

「やりたい」けど「やりたくない」

ポストイットのメッセージ「やりたいけど、やりたくない」

「やりたいけど、やりたくない」

ある子とのやり取りの話です。
その子は何か相談がある時に、ポストイットにメッセージを書いて私に教えてくれます。
ある日、私に写真にあるようなポストイットを書いて渡してくれました。

「やりたいけど、やりたくない」
このポストイットにはこんなメッセージが書かれています。
一体、何がやりたくなかったのか。これはピーンと来ました。実はこの日は心電図検査があったのです。

心電図検査、何のためにやるのかは特別支援学校に通う児童にとっては分かりにくかったりしますよね。ペタペタ冷たい吸盤を貼るのはびっくりするかもしれません。よくわからない機械につながれて、まるで「私は改造されてしまうんじゃないか?」と恐怖を感じるかもしれません。実は私も苦手です。
肌にはその後、跡が残ります。それもいやですよね。実際彼も苦手でした。
では、何がやりたいのでしょうか。心電図検査以外の時間の勉強をやりたかったのでしょうか?
それともお昼休みに遊ぶのをやりたかったのでしょうか。

このポストイットを渡してくれたその子の表情は真剣そのもの、何かを決意して私に渡してくれたようです。その様子から「もしかして心電図検査を頑張ってやりたい気持ちもあるけど、やりたくない気持ちもあるから手伝ってほしいってこと?」と私は尋ねました。すると大きく首を縦に振って答えてくれました。
この日の心電図検査、どうしたかというと、最初に私がお手本で吸盤を身体に貼ってもらって一連の流れを示して「大丈夫だよ」と伝えることで、落ち着いて検査に参加することができ、「心電図検査、できたね」と二人で笑顔のハイタッチをすることができました。

さて、ここまで二つの例を参考にしてお話をしてきました。
子どもの「ことば」から思いや気持ちを読み取ってケアをすることは、なかなか難しいですが、ほんの些細なサインも見逃さないようにしていきたいですね。
とお話ししている私も、すべての実践でうまくいっているわけではありません。「失敗したな」と感じることも、当然あります。日々試行錯誤しながらの教育実践です。
ですが、大切なことは「子どもの気持ちに寄り添おうとする姿勢であったり、何を考えているんだろうなぁと考える姿勢であったりすること。」だと私は考えています。
この記事を読んでくださった皆さんも一緒に試行錯誤しながら頑張っていきましょう!

丸山 裕也(まるやま ゆうや)

信州大学教育学部附属特別支援学校 教諭
公認心理師、学校心理士、障害者スポーツ指導員(初級)、福祉用具専門相談員
「あした、またがっこうでね。」と、子どもも教師も伝え合うことができるような、楽しい学級づくりを目指しています。また、障害のある子どもたちの心の健康について、教育と心理の二面からアプローチしていく方法を考えています。
特別支援学校で出会ってきた子どもたちとの学びを、皆さんにお伝えしていきたいと思っています。


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