2022.01.05
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

知的特別支援学校での防災教育

近年「防災」という言葉は私たちにとって様々な意味で「身近」な存在になりました。

さて、知的特別支援学校ではどのようにして防災教育が行われているのでしょうか? そもそも、なぜ防災教育は必要なのでしょうか。そしてどのようにして防災教育を進めていくのが良いのでしょうか? 毎度のことですが、私にも「コレだ!」というものがあるわけではなく、試行錯誤しながら、特別支援学校での「防災教育」を実践しています。 今回も皆さんと一緒に考えていきたいと思います。よろしくお願い致します。

信州大学教育学部附属特別支援学校 教諭 丸山 裕也

防災教育を学ぶ意義

避難が自分でできるように。

障害の有無にかかわらず、防災教育は学校現場でとても重要な学習だと私は考えています。

「命」が大切であるということは、こころとからだの学習や道徳など、様々な場面で学ぶことであると思います。しかしながら、「地震が起きたら机の下に隠れましょう」や「上から落下物があるかもしれないのでヘルメットを被りましょう」「火事のときは煙を吸うといけないので、ハンカチなどで口を覆いましょう」といった具体的に身を守る方法は避難訓練などの防災教育の中で子どもたちは学んでいくことが多いのではないでしょうか。

もちろん特別支援学校に通うすべての子どもが、この事をきちんと理解して、とっさの時に必ずこの行動ができなければいけないということではないと思います。しかしながら、たとえ障害があったとしても自分で自分の身を守ることや、困った時に援助を依頼できるような力は社会に出た時には必要になると私は考えています。

一回ですべてを学べなかったとしても、仮にその一回の学びがスモールステップであったとしても、積み重ねていくことで意義のある「防災教育」になっていきます。

他者を守るすべを知ること

皆さんはAEDという機械をご存知でしょうか?そうです、学校にも設置してあり、今では街で見かけることの多くなった自動体外式除細動器のことですね。コンビニにおいてあるところも大変多くなりました。そして車の免許の講習や、救命講習等できっと皆さんもこのAEDのトレーナーを使って練習したのではないでしょうか。最近では小学校でも心肺蘇生法やAEDの使い方を学んでいる学校もあるそうです。応急手当の講習はe-ラーニング等で学ぶことができるようになってきています。学びの形もとても進化してきていますね。

さて、このAEDや心肺蘇生法について知的特別支援学校で考えるとどうでしょうか。
前半でお話した、「机の下、ヘルメット、ハンカチ…」は、主として自分の身体を災害の危機から守るすべであるのに対し、心肺蘇生法やAEDはどちらかといえば他の人の身体を危機から守るすべです。
こういった取り組みは、知的特別支援学校でも学ぶべき内容なのでしょうか。

防災教育、学びの方法は人それぞれ

真剣に心肺蘇生法に取り組む児童の様子

私自身は、「障害の有無にかかわらず、自分の命も他の人の命も危機から守るすべは学ぶ必要がある」と考えています。ですので、是非ともやりたい、いや、やる必要があると思い昨年実践してみました。
しかしながら知的特別支援学校で、心肺蘇生法の講習を、それもAEDの使い方も合わせて指導し、子どもにとって実りの多い学習にするためには準備が大切です。
私はまず、消防署等で実施されている「応急手当普及員」の講習を受講することにしました。
3日間講習を受けることが必要だったのですが、心肺蘇生法だけでなく出血の手当てやタンカでの運搬、実際にトレーナーを使っての指導法等、わたしにとってもとても学びの多い講習会でした。

応急手当普及員の講習を終えた私は、学校の近くの消防署にお願いして人形やAEDのトレーナーを借りてきました。実際に教えるためには、教える側の教員が理解していなくてはいけないと考え、同じ学年の教職員に使い方や心肺蘇生法についてお伝えしました。
また、子どもたちが理解しやすいように流れをパワーポイントにすることや、動画にすることで事前学習を行いました。
準備をしたうえで、いよいよ本番です。人形やトレーナーを使って、実際に子どもたちに心肺蘇生法についての防災教育を行いました。その写真がこちらです。
この写真の真剣な表情を見ていただければ、おそらくこの防災教育が子どもたちにとっても学びの多いものであったことは察していただけるのではないでしょうか。
障害にかかわらず、危機に瀕している他者の命を救うすべを知ること。これは防災教育でしか学び得ない、とても大切なことだと私はあらためて感じています。

さて、応急手当普及員の講習を受けた時に、消防署の方が休み時間にこんな話をしてくださいました。
「蘇生法に使う人形、実は名前がついているんですよ。いくつか種類があるのですが、この人形はレサシアン、もしくはアンと呼ぶことが多いです。小学生に教える時にこの人形に名前がついていることを話すと、片付ける時にとても丁寧に扱ってくれるようになったんですよ。そういうことを伝えるって大事なんだなって思いました」

こういったお話は、私たちが自ら学ぼうと意思をもって講習会に行かないとなかなか聞けない話ですよね。改めて「学ぶ」ということはとてもおもしろいことなんだなぁと感じることができました。大人にとっても子どもにとっても「学ぶ」ということを大切にしていきたいですね。

丸山 裕也(まるやま ゆうや)

信州大学教育学部附属特別支援学校 教諭
公認心理師、学校心理士、障害者スポーツ指導員(初級)、福祉用具専門相談員
「あした、またがっこうでね。」と、子どもも教師も伝え合うことができるような、楽しい学級づくりを目指しています。また、障害のある子どもたちの心の健康について、教育と心理の二面からアプローチしていく方法を考えています。
特別支援学校で出会ってきた子どもたちとの学びを、皆さんにお伝えしていきたいと思っています。


ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop